マカロワ版『ラ・バヤデール』との関わりと、その特徴をお聞かせください。
オルガ>マカロワ版『ラ・バヤデール』の振付指導をはじめたのは1988年のこと。ですから、もうかなり長い年月になりますね。以来、世界各国のカンパニーで指導を行ってきました。マカロワ版は、ピュアな踊り、美しいラインが際立つ、魔法のようなクオリティを持ったバージョンです。型に嵌った動きが全くないので、フレッシュで音の扱いやムーブメントが非常に優雅。だからこそ私はマカロワの作品に惹かれるし、それはマカロワ版『白鳥の湖』にしても『ラ・バヤデール』にも言えることです。
マカロワ版『ラ・バヤデール』の面白さは、オリジナルからいらないものを全部排除したところです。非常にクリーンにつくり直されていて、一体感があり、とても様式美溢れるラインになっている。最も違うのは、エンディングを変えた点ですね。ブッダ像や地震、ニキヤが飛び回るシーンが出て来たりと、オリジナル版とマカロワ版では終わり方が大きく異なっています。歴史の中で失われていたエンディングを新たにつくり出したのがマカロワ版であり、見事にストーリーが終息する形になっていると思います。
photo : Shinji Hosono
マカロワ版『ラ・バヤデール』を指導する上で大切にしていることは?
オルガ>重要なのは、ステップや振付だけでなく、ダンサーと一緒に各人のスタイルを発見していくこと、動きを理解していくこと。ストーリーを理解して踊りの中できちんとそれを演じ切ること、役所をつくっていくということです。他のダンサーとの組み合わせもそうですが、全ての要素が融合されてひとつのクオリティが生み出されてゆく必要があります。教える上で難しいのは、これが一番重要だというものはなく、全てが大事なんです。古典作品というのはストレートな表現が多いので、指導は電話でもできるんじゃないかとイヤミを言うひともいますが、絶対にはそんなことはありません。大事なのはスタイルを維持していくことです。バリエーションは進化していきますが、根本的なスタイルは維持していかなければならない。
柄本弾さん、私はダニーと呼んでいますが、彼は今回全幕でソロルを初めて踊ります。上野水香さんとはこれまで何度もご一緒していますが、二回目、三回目だからできるということではなく、常に新しい発見をしていきたい。常に上を目指し、より深く、より説得力のある役作りをしていくというのが目標です。
photo : Shinji Hosono
東京バレエ団では『ラ・バヤデール』の同団初演時から指導されています。
オルガ>2009年に初めて『ラ・バヤデール』の振付指導で東京バレエ団とお仕事をさせていただきました。それ以前も東京バレエ団のステージを観たことはありましたし、素晴らしいカンパニーだということはわかっていましたので、とても良い経験になりました。二回目が(大震災直後の)2011年春です。今でもあのときのことを思い出すと涙がこみ上げてきます。すでに海外からゲストダンサーが出演することが決まっていましたが、諸事情があり結局来日は叶いませんでした。自らというよりは、ディレクターが許してくれない、カンパニーの許可が下りないといった理由で降板せざるをえないダンサーやスタッフが沢山いたのです。当時私は英国ロイヤル・バレエの仕事をしていて、ディレクターのモニカ・メイソンに相談したら、ぜひ行ってあげなさいと言ってくれました。
彼女は戦争を経験していますので、音楽やアート、パフォーマンスを観ること、芸術に触れることが人々の励みになるということを知っていたんですね。その後は世界バレエフェスティバル、続いて昨年の創立50周年ガラでも『ラ・バヤデール』を上演していますが、あれからまたかなり上達しているのを感じます。
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