カウンセラーは遺伝学の専門家
相談に当たるのは、臨床遺伝専門医の認定を受けた医師もしくは認定遺伝カウンセラーです。医師の場合は、産婦人科医の臨床遺伝専門医が担当するケースが多いと思いますが、小児科医の場合もあります。看護師、助産師、臨床心理士、検査技師などが取得する認定遺伝カウンセラーの資格を持っている人も、単独もしくは医師と2人体制で相談に当たっています。認定遺伝カウンセラーは、各地の大学で、大学院に設置された専門コースで養成されています。
落ち着いて考えることができる
遺伝カウンセリングは1万円程度かかる自費診療です。そして時間もかかります。しかし、次のようなことが得られます。【遺伝カウンセリングで得られること】
・心配な疾患を持っている確率はどれくらいかがわかる。
・心配している疾患についての知識
・検査についての詳しい説明(メカニズム、精度、方法、リスクなど。今は検査の種類も多くて複雑なため、誤解がかなり多いようです)
・検査を受けるかどうかについての相談
・(検査後) 検査結果を正しく解釈するためのサポート
・(検査後) 検査結果を受けてどう行動するかについての相談
特に混んでいる病院でなければ、30分前後から時には1時間以上も時間をかけて話すことができます。通常の妊婦健診のように急かないので、質問もたくさんできますね。そして検査について考えることに集中できることが、日常空間では得がたい遺伝カウンセリングのメリットでしょう。
夫婦で行くことが奨められています。夫婦で有給休暇を取らなければならないことも多いのですが、お互いの気持ちを知る機会にもなります。
心理カウンセリングの技法を使う人もいる
カウンセラーによっては、心理カウンセリングの技法も使います。相性がものを言うところもありますが、傾聴してくれる人がいる静かな場所で自分の考えていることを言葉にしていくと、だんだんと自分の心が見えてくるかもしれません。基本的に、カウンセラーは自分の考えを主張すべきではないとされています(これは実際には非常に難しいことで、カウンセラーの経験、技量が問われるところ。でも、どのカウンセラーも努力はしているはずです)。相談に来た人がその人自身にとって良い選択をできるように助けるのが、カウンセラーの役割です。
遺伝カウンセリングの問題点
日本の今の遺伝カウンセリングでは、いろいろな問題が起きているのも事実なので、それも知っておいてください。遺伝カウンセリングを受けられる医療施設が少ないこと、探しにくいことは、大きな問題のひとつです。なかなか増えないのは、採算が取れない病院も多いことや、遺伝カウンセラーの絶対数が少ないことが原因です。全国遺伝子医療部門連絡会議のこちらのシステムは、遺伝カウンセリングの実施施設を探すために役立ちます。
カウンセラーが少ないために、病院によってはカウンセリング時間が短くなっています。十分に時間をかけて、妊婦さんやパートナーの身になって相談に乗ってくれる遺伝カウンセラーさんが早く増えて欲しいです。
遺伝カウンセリングが浸透するには、すべての検査について新型出生前診断と同様な施設認定の制度や検査結果の報告制度を整備することも必要でしょう。新型出生前診断は認定施設のみで実施されており、遺伝カウンセリングが必ず行えることが認定の主な条件となっています。その実現に向けた議論はすでに始まっていますので、今後の動きに注目したいと思います。
障害、病気と共に暮らすことを理解するのは難しい
もうひとつの大きな問題点は、障害を持つ子どもの育児や生活について「遺伝カウンセリングを受けたけれど、話が出なかった」「わからなかった」という声が目立つことです。ただ、ここには、遺伝カウンセリングの限界があるのかもしれません。米国のダウン症専門医であるブライアン・ストコト医師は、「私のクリニックにはダウン症のある職員が働いているので、遺伝カウンセリングに来た夫婦が会いたいと言ったら彼を呼びます」と言っていました。その病気と共に生きていくことを理解するのは心が動くということであり、言葉で簡単に伝達できる情報ではないと思います。
これについては、障害のあるお子さんを実際に育てている方たちの話や体験記、育児ブログが役に立ったという声がよく聞かれます。インターネットを熱心に見る妊婦さんは障害者に対する誹謗中傷を目にして傷つくことも多いのですが、育児ブログからは前向きなパワーをもらう人が多いようです。
【出生前診断 全5回シリーズ】
第1回:賛成? 反対? 出生前診断の歴史と意義
第2回:出生前診断とは? 種類・時期・費用・実施病院
第3回:出生前診断に必要な「遺伝カウンセリング」とは(この記事です)
第4回:優生思想、命の選別…日本の出生前診断の問題点
第5回:妊娠したら誰しも受ける「超音波検査」の落とし穴
【参考書籍】
出生前診断-出産ジャーナリストが見つめた現状と未来(朝日新書)
本シリーズは、医師や遺伝カウンセラー等の専門家、妊婦さんに取材したこの本をもとに構成しました。出生前診断の歴史や海外の最新動向、体験者の生の声などをまとめています。出生前診断について自分なりの答えを探している方は、ぜひご一読ください。