見る気がなくても見えてしまう超音波検査のジレンマ

妊婦さんなら誰でも当たり前のように受ける超音波検査

妊婦さんなら誰でも当たり前のように受ける超音波検査

出生前診断について5回シリーズでお送りする記事の最終回です(第4回「優生思想、命の選別…日本の出生前診断の問題点」から続きます)。

出生前診断とは? 種類・時期・費用・実施病院」で説明したように、妊婦健診で受ける一般的な超音波検査も立派な出生前診断と言えます。

日本以外の他の先進国に目を向けると、超音波検査は何回も受けるものではありません。そのかわり、受ける時は、日本で「胎児ドック」などと呼ばれているような詳しい検査が時間をかけて行われます。そして、ダウン症候群などの染色体疾患がある確率も調べます。

日本では、超音波検査で染色体疾患を調べるために必要なライセンスをもっている医師はまだ少数です。ところが、ここでひとつ、とても困った問題が起きてくるのです。

それは、ライセンスをもっていない医師でも、染色体疾患の確率が高いことを示すサインが明らかに出ていれば、否応なしに「見えてしまう」ということです。

その代表は、「NT(胎児後頸部浮腫)」と呼ばれる首の後ろのむくみです。医師は、首を見ないで超音波検査を行うことはできません。NTは、ダウン症候群、18トリソミー、13トリソミーなどさまざまな疾患に関連しているマーカー(指標)で、すべての赤ちゃんにありますが、特に厚いと、疾患のある確率が上昇します。

いきなり「染色体疾患の確率が高い」と言われ、パニックになってしまう人も

医師は、明らかに厚い様子が目に入ってしまえば、ライセンスのない医師であっても、妊婦さんにそれを告げることがあります。

学会のガイドラインでは、「告げなくても、医師としての義務を怠ったことにはならない」としています。しかし「告げてはいけない」とは言っていませんから、医師個人の考え方や状況によっては告げられることになります。

すると、心の準備もないまま突然に「染色体疾患の確率が高い」と知らされた妊婦さんは非常に大きな衝撃を受け、パニックに陥ることもあります。

「どこまで知るか」は誰が決めること?

NTが厚い妊婦さんがいた場合、本人に言うべきかどうかは、医師にとっても非常に悩ましい問題です。

また、本来ならば、知るべきかどうかは妊婦さんが決めるべきことでしょう。妊婦さんには、本当は赤ちゃんの病気を「知る権利」も「知らないでいる権利」もあります。

だから、妊婦健診を開始する前に書面などで「超音波検査では何がわかるか」を説明し「どこまて知りたいですか?」とたずねてくる病院もあります。しかし、そうした病院は少ないし、今の日本の産科は非常に忙しくて、一人ひとりに十分な説明をする余裕はないようです。

超音波検査をやめることはできない

超音波検査は心臓、脳、消化器、骨の異常などさまざまな病気が見つかる検査でもあり、形の違いが早くから大きく出る異常は妊娠初期からわかります。そうした異常の発見も、中絶へつながることがあります。

出生前診断による中絶を許さないのであれば、超音波検査をやめなければなりません。しかし、本当に超音波検査をやめれば、どうなるでしょう? お産の安全性は著しく低下することでしょう。超音波検査は、お産の安全性を支えている立役者でもあるからです。

赤ちゃんへの愛しさが増す検査でもある

また超音波検査は、赤ちゃんの姿を見ることで、妊婦さんが赤ちゃんを愛しいと思う気持ちが高まる検査でもあります。日本では羊水検査を受ける人が欧米に較べてとても少ないのですが、それは、早くから超音波検査の画像を見て、母性が強まっているためかもしれません。海外には、そういう国はほとんどないのです。