精度の高い検査は、受けられる人に制限があり、高額
これ以降にご紹介する検査は非常に精度が高いのですが、誰もが受けられる検査ではありません。高齢妊娠、超音波検査や母体血清マーカー検査で疾患の可能性が高いとされた人、以前に染色体疾患のある子を出産している人、染色体疾患の保因者など、日本産科婦人科学会や実施施設が定めた条件に該当し、かつ希望した人が受けられる検査です。高額であることも特徴です。羊水検査は15万円くらい、新型出生前診断は20万円以上であり、それとは別に遺伝カウンセリングの費用もかかることがあるでしょう(新型出生前診断では義務化されています)。遺伝カウンセリングの費用はさまざまですが、1回1万円くらいのところが多いようです。保険の適用のない自費診療で、助成制度はありません。
確定診断の代表、羊水検査
羊水検査は、染色体疾患全体がほぼ正確にわかる確定診断です。また、染色体の小さな異常もわかります。「本数異常」はないけれど部分的な入れ替わりなどの問題が起きている「構造異常」や、「知りたくなかった」と思う異常までわかってしまうこともあります。お腹に針を刺して羊水を少量採り、羊水の中に浮遊している胎児細胞を培養して染色体を調べます。子宮に針を刺すので流産のリスクが0.3%ほどあります。検査から結果が出るまで、通常は2週間ほどかかります。
●羊水検査の検査時期
羊水が増えてくる妊娠15週以降
日本では少数派、絨毛検査
絨毛検査は羊水検査よりやや流産率が高いと考えられていて、技術的にも難しいため、日本では実施施設はわずかです。将来、胎盤になる組織「絨毛」をお腹に針を刺して採る検査です。絨毛は受精卵から分化したものなので赤ちゃんと同一のDNAを持っています。羊水同様に結果が出るまで2週間ほどかかりますが、確定診断ができます。流産率は1%と言われていますが、海外では羊水検査と同等という報告もあり、日本のことはまだわかっていません。
●絨毛検査の検査時期
妊娠11~15週。羊水検査より早い時期に検査できるのが特徴です
安全性と高精度を両立した、新型出生前診断(NIPT)
新型出生前診断(NIPT、無侵襲的遺伝学的検査)は、現在まだ臨床研究として実施されている段階で、受けられる施設は日本医学会が認可したところのみです。実施施設の一覧は下記で見られます(実施機関がない県もあります)。
●NIPTコンソーシアム 検査の実施施設は?
http://www.nipt.jp/rinsyo_03.html
上記のサイトでも詳細に解説されていますが、NIPTは、妊婦さんの血液中に混入している胎児DNAのかけらを調べています。
特徴は、血液検査という安全な検査でありながら精度が高いことです。特に陰性の場合は、羊水検査と同等の確かさがあります。将来的には、このタイプの検査が性能、対象疾患、価格などあらゆる面で市場のニーズに応えるようになり、出生前診断の主力になると予想されています。
でも今はまだ、その段階ではなく、陽性の場合は確定診断とはいきません。国際的にも、確定診断を得るには羊水検査、絨毛検査が必要とされています。しかし、例えばダウン症について陽性とされた場合、35歳の人なら8割くらいは本当にダウン症があります。これは、クアトロテストの陽性的中率2%と較べると大変な違いがあります。
調べられる疾患は今後増えていくと考えられますが、今の日本ではダウン症候群、18トリソミー、13トリソミーです。
●新型出生前診断の検査時期
妊娠10週以降
以上で検査の種類の説明は終わりです。「なんて複雑なんだろう!」と思いませんでしたか。出生前診断を考えるということは、検査の種類を理解するだけでも大変です。それなのに、他にも考えておきたいことがたくさんあります。
次回のシリーズ第3回では、この複雑な選択を助けてくれる「遺伝カウンセリング」についてご説明します。
【出生前診断 全5回シリーズ】
第1回:賛成? 反対? 出生前診断の歴史と意義
第2回:出生前診断とは? 種類・時期・費用・実施病院(この記事です)
第3回:出生前診断に必要な「遺伝カウンセリング」とは
第4回:優生思想、命の選別…日本の出生前診断の問題点
第5回:妊娠したら誰しも受ける「超音波検査」の落とし穴
【参考書籍】
出生前診断-出産ジャーナリストが見つめた現状と未来(朝日新書・2015年)
本シリーズは、医師や遺伝カウンセラー等の専門家、妊婦さんに取材したこの本をもとに構成しました。出生前診断の歴史や海外の最新動向、体験者の生の声などをまとめています。出生前診断について自分なりの答えを探している方は、ぜひご一読ください。