コインが導いてくれた独創性!
T・MBHが新たに発売した携帯用靴べら「蹴菱」の大きな特徴は、ご覧のように内部芯としてユーロのコインを用いている点です。使用時に曲がるのに収納時には平面になると共に、適度な重量感が得られる最大の秘訣! 実用新案登録申請中です。
岡本拓也氏が率いる縫いのみならず全工程が手作業で作られるT・MBH。その新製品であり靴好きの為に作られた携帯用靴べら「蹴菱(けびし)」は、この六角形の形状に大きな意味があって、その理由のうち2つについては前回の記事「携帯できる靴べら『蹴菱(けびし)』六角形の秘密」でお話いたしました。
そして3つ目=その最大の理由は何かと申しますと…… ズバリ「強度と柔軟性の両立」です。どの方向にも強度が出ると共に適度な柔軟性も確保できる、つまり「曲がるけれど折れない」構造を目指した時、結果的に導かれたのがこの形状だったのだそうです。
とはいえ、岡本氏によれば、これに気付くには単に形状を考えるだけでは済まず、「中身をどうするか?」をそれこそ頭が張り裂けそうになるまで考え抜くうちに辿り着いたとのこと。
内部の芯となる革には、復元性が極めて高く、コバも美しく仕上がることで評価の高いイタリア・ワルピエ社のタンニン鞣し牛革「ブッテーロ」を用いるのは比較的簡単に決められたものの、これと表面を覆うエキゾチックレザーだけではどうも重量感に乏しく「持つ喜び」が味わえない…… プラスチックの板を縦に埋めると硬過ぎてしまうし、釣り用の「ナマリ」を埋めても妙に落ち着きが悪いし……。そんな時にふと思い出したのが、ローファーのサドル部の切れ込みにコインを入れる、昔ながらの幸運のおまじない。
「あれと同じ感覚でコインを埋め込んでみたらどうだろう?」
パッと閃いてたまたま残っていたユーロの小銭で試してみたところ、理想の重さと質感に一気に近づいたそうです。更に検討を重ねた末、ブッテーロにユーロの1セントと2セントコインを千鳥配置とした縦長六角形が、使用時は踵のカーブに沿うのみならず、携帯時には身体に沿って絶妙な塩梅で変形すると判明し、「これで行こう!」となった訳です。正にラッキーを呼び込んだコイン! ちなみにこの意匠は実用新案登録申請中です。
岡本氏は革を縫う技術もデザインも全て独学で学ばれた、言わば「師匠」と呼べる人を持たない、実は革の世界では極めて稀な職人。でも、そうだからこそ余計な常識や因習に囚われずこのような斬新なアイデアを思い浮かべることが出来るのかもしれません。さらに驚くべきは、そのアイデアが商品をパッと見ただけでは全くわからないある種の「奥ゆかしさ」を備えている点でしょう。
この「蹴菱」のみならずT・MBHの商品はどれも、物凄く考え抜かれているのにその痕跡が一切見当たらない自然で、優しいデザインのものばかり。これって今日最も難しい創造ではないかな?
こちらは色数が豊富なオーストリッチを用いたものです。色:黒・焦げ茶・ネイビー・パープル・タン・水色・モスグリーン・ダークグリーン・オレンジ・ピンク・ボルドー・グレー、税込価格:2万7000円(T・MBH TEL03-5829-4135)
中身だけでなく表面のエキゾチックレザーも、次のページをご覧いただければ実用性の観点から使われているのが解ります!