2つの訴訟の損害賠償責任は認められている
もらい事故でも損害賠償が必要?
今回の裁判は刑事裁判ではなく民事裁判ですので、提示された証拠に基づき、互いの主張を問う裁判です。
つまりセンターラインオーバーされた側に対する4,000万円余りの損害賠償命令は過失を認めるものではなく、冒頭にも記したように、無過失が証明されなければ賠償責任があると定めている自賠法に基づいた損害賠償命令ということになります。
運行供用者責任とは?
この事案ですが、前ページ「この事故の当事者」でも記載したように、同乗者Gは搭乗している車両の所有者で自己の運行の用に供していました(運行供用者)。自動車事故が発生して運転者の過失が問われる場合、普通に考えれば運転者のみが賠償責任を負えばいい話です。
しかし、その因果関係の立証が困難なときなど、事故によっては被害者救済が十分されないケースもあります。そのため、被害者救済の観点などから責任を負うべきものの範囲が拡大され、車両の運転者だけでなく、所有者などにも責任が及ぶものとされています。当該車両の運行について注意を怠らなかったことを証明しなければ責任を問われるわけです。
今回同乗者Gが運行供用者となると、G自身が責任を問われる者にもなるため、搭乗していた車両の自賠責保険などの請求をする立場にはないということになります。
また報道されているように、当該車両の自動車保険に家族限定の特約が付帯されていたことが事実で、運転していたAが家族でなければ、損害賠償と関係ない自車両の搭乗者傷害保険なども保険金の支払い対象にならなくなります。
被害者救済の観点から、通常の車線を走行していた車両に責任を問うのはそこまで必要なことなのか、交通事故の法律にお詳しい人に個人的にはご意見を伺いたいところです。
任意保険に加入する必要はないのか?
ネット上などでは、このような判決がまかり通ると自動車保険に加入する人が少なくなるという論調が見受けられますが、必ずしもそんなことはないと考えています。自動車事故そのものは双方過失があるような事案や単独事故、相手が弱者(歩行者や自転車)のケースなど多岐に渡ります。無保険であれば、民事上の損害賠償請求を受けたときに個人の経済力でカバーできる範囲ではなくなります。世の中色々な人がいるので、保険とは別にドライブレコーダーなどで対策は取ったほうがいいでしょう。
この事案については当事者双方からのコメントがないので、今回の判決のみで終わるのか分かりませんが、色々と波紋が広がっていることは事実です。今後の推移、及び類似の事案が出てくるケースがあれば動向を見守りたいと思います。