変声期があまりなかったせいか、今でも子供の時の高い声と
大人の低い声、どちらも出せます
−−今回の曲目で一番驚いたのが、『CHICAGO』のビリー・フリンの曲!ふわふわな羽根に囲まれる禅さんを見たいと思いました。「私にとって大切なのは(All I Care About)」はちょっと自信ありかな(笑)。映画でリチャード・ギアがやっているのを見て、いい歌だなあと。悪徳弁護士をどこまで表現できるか、楽しみです。
−−今回の選曲で禅さんがこだわられた点は?
当初、ウィーン・ミュージカルの2曲は異なる選曲でした。『エリザベート』の「私だけに」は「愛と死の輪舞」、『モーツァルト!』の「僕こそ音楽」は「星から降る金」だったんです。でもどちらもすでに自分のファンイベントで歌っているので、意外性のある曲の方が喜んでいただけるかな、と。特に「僕こそ音楽」はヴォルフガング・モーツァルトという、すでに封印している年齢の役の曲なので、面白いかな?と。マリウスが好きな方にも喜んでいただけそうですしね。
−−お稽古で聞いたら、禅さんの声はヴォルフガングにぴったりでしたよ。今からでもやっていただけたら!ほんと、禅さんは幅が広くて、若々しい声をキープしていらっしゃるのに感動しました。何か秘訣があるのですか。
いつも声を鳴らしているからでしょうか。もともと音色の高い声ですしね。僕、ほとんど変声期がなかったんです。男の子ってガツンと声が低くなり、喉仏が出てくるけど、僕はあまり喉仏が出ていないの。中学の頃、なぜ皆声が変わるのか、不思議だったくらいです。成長とともに徐々に低くなりましたが。だから今でも子供の時の高い声と大人の低い声どちらも出せるのかも。逆に自分では、このキンキンした声が嫌なんですよ。
いい声していると言われて、そうなんだ俺!と思っていると、
手痛いしっぺ返しが来る(笑)
−−でも『エリザベート』のフランツや『レ・ミゼラブル』のジャベールみたいな、低い大人の男の歌も歌いこなされるじゃないですか。舞台はいいんですよ。たとえば、留守番電話に「ただ今留守にしております」と吹き込んで、確認ために再生するでしょ。すると、自分の声が平べったく聞こえて、やだなぁって思っちゃう。自分の声に酔える人ってすごいな、と。
−−禅さんの声なら、自分で酔っても許されます。
いやいや。いい声していると言っていただくのに乗っかって、そうなんだ俺!と思っていると、手痛いしっぺ返しが来るんです(笑)。30代の頃がそうでした。『レ・ミゼラブル』のマリウスを演じて、お客様がたくさん来てくださって調子に乗っていた時、ある女優さんに「あなた、自分の声がいい声だと思っているでしょ?だから芝居がよくないのよ」と、どストレートに言われました。「大人の男の魅力は、きれいさや声色の良さじゃないの。本当の大人の女は、いいとは思わないわ」と。
−−それは厳しいけど、いいお言葉でしたね。若い青年役から大人の役に移る時期は、本当に難しいと思います。またミュージカルは歌が上手い、いい声をしていることで演技しなくても乗り越えられるところがあるのも事実。でも禅さんはお芝居を大切にしていらっしゃる。やはり青年座のご出身だからでしょうか。
基本が芝居だと叩き込まれましたからね。でも『ミス・サイゴン』や『レ・ミゼラブル』みたいに全編歌う作品の演出は、お芝居そのものなんですよ。特に『レ・ミゼラブル』はその色が強い。アンサンブル芝居といわれるくらい、大勢のキャストによる小さなソロの掛け合いで芝居が成り立っていますから。
ストレートプレイの役者さんは、台詞を自分で作曲できるんです。間もトーンも自由に作れる。でもミュージカルはメロディがあり、休符で間も決められている。初ミュージカルで『ミス・サイゴン』、続けて『レ・ミゼラブル』をやって、自分の生理的な呼吸や間ではダメで、その制限の中で芝居を完結できるように逆算し、芝居を構築することを知ったんです。
とっかかりがよかったんですね。新劇をやり、ストレートプレイをやっている役者がストレスやプレッシャーをあまり感じず、このメロディでセリフを喋るんだと、納得できたので。