適応障害とは……うつ病と同じく誰でもなりうる心の病気
適応障害は誰にでも起こり得る
周囲にうまく溶け込めるかどうかは、人の心の健康を大きく左右します。もし学校や職場で周りに溶け込めずに孤立してしまうと、つらい気持ちになってしまうかもしれません。
例えば職場の休み時間、周りのみんなはおやつをつまみ楽しそうに談笑しているのに、自分だけ一人ぼっちだったら、寂しく感じてしまうでしょう。場合によってはそれが原因で心身に不調が生じるかもしれません。
こうしたつらい状況で気を付けたい心の病気が「適応障害」です。精神疾患というよりも、「誰にでも起き得る心身の不調」とみなせる面もあります。今回はこの適応障害を詳しく解説します。
<目次>
適応障害の原因・きっかけ……新生活、離婚、子どもの巣立ち
適応障害はその名が示すように、新しい環境にうまく順応できないことがその原因です。その環境に慣れさえすれば、次第に元気が戻ってきますが、その間、以下のような心身の不調が現われる可能性があります。- 眠りが浅くなった
- 疲れがとれない
- やる気がおきない
- 「ドカ食い」など食生活が不規則になった
- イライラしやすくなった
- アルコールやタバコの量が増えた
- 普段の自分ならば決してしないような軽はずみな行動が多くなった
- 自分にすっかり自信がなくなった
- 肩こりや頭痛などの身体症状が深刻になった
また、新入社員の方はこの時期、何らかの違和感を自覚することがあるかもしれません。思い描いていた生活と、入社して見えてきた現実にギャップがあり、心身がついていかない……といったいわゆる五月病も、実は適応障害の一形態です。
適応障害は環境の変化やつらい事態に直面して、すぐ発症するとは限りません。少し時期が空くこともありますが、3か月以内には上記に挙げたような不調が現われてきます。新生活が始まった4月が過ぎて、5月から6月のこの時期は五月病に要注意です。また適応障害の症状は心身の不調だけに限らず、生活が荒れるといった行動様式に顕著に現われる可能性もあります。
なお五月病に気をつけたいのは新入社員の方だけではありません。お子さんが学生や社会人になって巣立っていったご家庭も要注意です。家にすっかり活気が無くなってしまい、それが原因で心身に不調を覚える親御さんも、実は適応障害の一形態です。
そのほか家庭や恋愛関係のトラブルなど、適応障害はさまざまな場面で起き得ることから、精神疾患ではうつ病やアルコール依存症などと並んで最も頻度の高い疾患のひとつになっています。
適応障害のように原因が明確な心の病気はまれ
世界の臨床現場で広く使用されるアメリカ精神医学会の診断マニュアルによれば、適応障害の精神疾患分類上の位置づけは、以前は独立した一つのカテゴリーを占めていました。しかし2013年の改訂で現在のDSM-5(第五版)になってからは、ストレスやトラウマ体験が原因で生じる精神疾患の一つとして、PTSD(心的外傷後ストレス障害)などと同じカテゴリー内の疾患となっています。適応障害は、自分が直面するその事態に慣れることができれば、元気が次第に戻ってきます。DSM-5にもとづけば、その要因が消失すれば半年以内に元気が戻るとされていますが、実はこのように原因が明確な心の病気はかなりまれです。
うつ病や統合失調症など、他の一般的な心の病気は有効な治療薬は数多く開発されてきましたが、どうやって病気が発症するのかは、厳密な意味ではまだ分かっていません。
適応障害はその明確な要因を除去できる場合は対処が容易になりますが、それが難しい場合、症状はかなり長期化する可能性があります。
適応障害の治療法は? 精神科受診が望ましい場合も
早めに医師に相談を
適応障害は新しい環境に慣れることが対処のポイントですが、現われている心身の不調自体がその妨げになりやすいことに注意しましょう。
もし睡眠障害があれば、そちらへの対処が必要です。また、精神科(神経科)を受診して心理療法を受けることが、新しい環境への適応をよりスムーズにする可能性もあります。
適応障害は新しい環境に慣れるまでの一時的な不調ですが、だからといって、その症状が軽いとは限りません。自殺願望なども現われやすいことが知られています。
もし実際に「死にたい」気持ちが生じた場合は緊急事態です。すぐに精神科を受診することが望ましいでしょう。
最後に。繰り返しになりますが、4月から新生活を始めた方は、6月までの時期が適応障害を発症しやすい時期だということを、ぜひとも心に留めておいてください。