今採用すべきは「iPS細胞型人材」
社会変化のスピードが早くなっていると言われて久しい。ビジネス環境も然りである。時代の変化がある程度先読みできる場合はその変化に適応した採用指標に照らして人材を採るべきであるが、今の時代、10年先のマーケットを確実に見通せる人はほとんどいないだろう。そうした状況の中で、新卒採用において求める人材像はズバリ“iPS細胞型人材”である。
iPS細胞型人材とは、端的に言うと、“どんな環境にも自ら適応しながら成果を出せる人材”のことであるが、そのポテンシャルは次の5つの資質の有無から見極めることができる。
1. 好奇心と観察力
優れた人材はさまざまなことに広く興味を示す。多くの事象に触れ、それらを鋭く観察しながら自身の興味の対象を広げていく。さまざまな製品やサービスがクロスオーバーする昨今、自身の業務の外にも関心を広めながら多くのインサイトを得ることが大きな成果を生む原動力になるため、好奇心が旺盛であることは重要な資質となる。
2. コピー能力と応用力
ゼロからモノゴトを生み出すことは常人にとっては極めて難易度の高い行為である。そこで、既に成功している先輩を倣うことが自身の成功への近道となるが、その時に重要な資質がコピー能力となる。成功者に倣う過程で的確かつ素早くその本質を見つけ出し、それをマーケットの状況に合わせて適切に変えていくことでより大きな成功を手にすることができる。
3. Whyから考える習性
サイモン シネックが唱えるゴールデンサークルという有名な概念は「Why」を中心に考えるスタイルのことである。ビジネスの価値が「モノ」から「コト」へシフトする中、その信念や目的が明確になっている製品やサービスに人は惹かれるが、これは「What」や「How」ではなく「Why」を真剣に考えることで初めて生み出される。
4. 粘り強さ
「成功するには成功するまで決して諦めないことだ」というアンドリュー カーネギーの言葉はあまりに有名だが、さまざまなジャンルで成功した人の多くが同じようなことを言っている。素早く成果を出すことが求められるビジネスの世界ではスピードが重視されがちであるが、革新的なモノを生み出すためには環境変化を見極めながら粘り強く努力することが大切である。
5. 高いコミュニケーション能力
コミュニケーション能力の定義はまちまちだが、その目的を情報の収集と発信と考えると、「状況を正確に理解すること」「相手に適切な行動を促すこと」という2点になる。これらは単に聞き上手とか話がうまいということではない。むしろ、話の奥にある背景をつかむ能力や、相手の理解力や感情に合わせて変幻自在に伝える力が重要なのである。
これらのiPS細胞型人材に共通する資質は、どのような職場環境にも適切に対応しながら自己成長していく能力の源泉であるが、残念なことにこれらは入社後に開発することが難しい。それゆえに、採用の段階でこうした資質の有無を的確に見抜くことが大切になる。
変化する採用ホットスポット
採るべき人材像の変化に伴い、ターゲット学生との効率的な出会いの場も変わりつつある。従来は有名校の学生向けにDMを配信するだけでも充分な効果を得られたが、iPS細胞型人材の資質は偏差値に依存しないため採用活動の対象を広げる必要がある。言い換えると、従来のTop tier school戦略からTop tier student戦略に変えていく必要があるということである。各大学のTop層を採りにいくTop tier student戦略においては、就職情報サイトよりも双方向性の高いSNSを積極的に利用したい。彼らは好奇心旺盛で行動力も高いため、張り巡らされた自身のネットワークを活用して有用なコンテンツに貪欲にアプローチすると同時に、自身へのフィードバックを求めているからだ。彼らの成長を支援するような感度の高い情報をこまめに発信することができれば、彼らの高いコミュニケーション能力を介して他のiPS細胞型人材にも次々とリーチすることが可能になる。
実際に就職活動中の優秀な学生に話を聞いていると、さまざまな大学の学生が百名単位でコミュニティを形成していることも少なくない。そのような彼らに効率的にリーチできるホットスポットはもはや特定の大学のキャンパスではなく、価値の高い情報の集積地となる種々のコミュニティなのである。それらは、勉強会と称した集まりや業界の著名人と意見交換するバーチャルなコミュニティなど、実に多彩になってきている。