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マンション修繕積立金の「簿外債務」問題とその処方箋(2ページ目)

ほとんどのマンションでは、新築時の修繕積立金が故意に低く設定されているために、将来その負担を引き上げざるを得ない状況に直面するリスクを抱えています。このリスクの定量的な算出方法と、それを回避するための処方箋をご案内します。

村上 智史

執筆者:村上 智史

マンション管理士ガイド


簿外債務を減らすための処方箋

事務作業のイメージ

管理コストと長計の見直しが不可欠です

(1) 管理コストの適正化
1つ目は、管理組合の支出全般を見直してランニングコストの無駄を削減することです。そこから生まれる余剰資金を積立金会計に振り替えれば、「簿外債務」を減らすことができます。

と言うのも、通常管理委託先は分譲会社の系列下の管理会社が競争なく選定されており、管理委託費が割高なケースがほとんどだからです。この管理委託費を適正価格にできれば、大きな余剰資金を生み出すことは決して不可能ではありません。

仮に管理委託契約の見直しで、現在の費用(2,000万円/年)が3割下がったとします。その場合には年額600万円の余剰資金が生まれますから、10年で6,000万円、20年後には12,000万円も積立金が増加することを意味します。

年間600万円の余剰資金を修繕積立金に換算すると(専有面積あたり)約60円/月になります。したがって、前ページで算出した「簿外債務」は77円/月(=137ー60)となり、現状に比べて4割以上減らすことができます。

(2) 長期修繕計画の継続的な見直し
2つ目は、長計自体の見直しです。通常は管理会社が5年毎を目途に作成しています。この計画書の作成に当たっては、一定のガイドラインがあり、大規模修繕工事なら12年毎の実施、鉄部塗装は6年毎…、といった風に修繕周期を定めるとともに、各工事項目毎に概算費用をプロットしています。

しかし、そこで設定される修繕周期や工事金額は、あくまで平均的なデータです。言い換えれば、各個別のマンションに必ずしもそのまま当てはまるわけではありません。

したがって、定期的に建物の劣化診断を実施し、長計でプロットされた各部位の修繕時期を継続的に見直すことが大切になってきます。

たとえば、計画上は5年毎の修繕が設定されている箇所が、実際には3年延ばして8年周期に変更できると判断できれば、30年間のサイクルの中で前者は6回実施が必要となりますが、後者は3回で済むことになります。そうすると1回あたりの金額が同じなら、30年間での必要金額が半減します。

さらに計画されている工事金額も見直すべきです。長計上の工事金額は、競争原理を通じた市場価格の水準を追求しているわけではなく、むしろ保守的な設定になっているため、それなりに「のりしろ部分」があるものと考えるべきです。

このように、長計の修繕周期と金額設定の両方を見直すことで、将来に備えて必要な積立金を減らすことができるのです。

仮に長計で必要とされる工事費を3割削減できた場合、均等積立方式で必要になる金額はおよそ65円/月(=217円×30%)減らせる計算になります。

したがって、当初の「簿外債務」とされた金額(137円)から、管理コスト適正化による積立金増加分(60円)と、長計の見直しによる必要な積立金減少分の効果(65円)を差し引くと、不足額は12円(91%減)まで圧縮できます。

このように、簿外債務を抜本的に減らすには、なるべく早期に管理コストと長期修繕計画の2つの見直しを実践することが近道であり、それをサポートすることがマンション管理士のもっとも重要な仕事の一つと言えるでしょう。

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