ドイツ語

ソーセージはドイツ語でなんという?

『大どろぼうホッツェンプロッツ』というドイツの童話をご存知ですか? 少年達のと大泥棒のかけ合いを描いた冒険ものですが、作中で焼きソーセージなど様々なドイツ食が登場するのも魅力の名作です。ソーセージはドイツ語で「ヴルスト」。その名称や由来を学びましょう。

宮城 保之

執筆者:宮城 保之

ドイツ語ガイド

ソーセージはドイツ語でなんという? 「ソーセージな問題」とは

ソーセージはドイツ語でなんという?

ウィーンの国連オフィスで歌うヴルストさん (C)United Nations Photo@Flickr

 
コンチータ・ヴルスト(Conchita Wurst)という人物をご存知でしょうか。オーストリア人のドラァグクイーン歌手として知られており、昨年度のユーロビジョン・ソングコンテストでは優勝して注目を集めました。その髭を生やした容姿も話題に。

本名ではなく芸名での活動ですが、その名のヴルスト(Wurst)とはドイツ語でソーセージのこと。なぜそうした名を用いているかというと、

Das ist mir Wurst! (ダス イスト ミーア ヴルスト!/私にはどうでもいいことだ!)

というドイツ語の言い回しによるようです(ちなみにオーストリアでは「ヴルシュト」と発音します)。直訳すれば「それは私にはソーセージだ」ということですが、ソーセージの中身とおなじように些細なことだ、というわけです。
 

煮ても焼いても美味しいヴルスト

さて、そのWurst(女性名詞なので定冠詞をつけるとdie Wurst)。言わずと知れたドイツ料理の代表格ですが、調理法によって焼いたものとゆでたものに大別されます。

焼きソーセージはドイツ語でBratwurst(ブラートヴルスト)。braten(ブラーテン/焼く)ソーセージということですね。ちなみに英語でもそのままbratwurstと呼ばれます。特に知られているのはニュルンベルク名物の小型ソーセージNürnberger Rostbratwurst(ニュルンベルガー ローストブラートヴルスト)に、テューリンゲン地方のThüringer Rostbratwurst(テューリンガー ローストブラートヴルスト)。どちらもハープなどが練りこまれた香ばしく旨みのあるソーセージです。その他、カレー粉とケチャップをかけたCurrywurst(カリーヴルスト)は、単純ながら国内で人気の軽食となっています。

一方、ゆでソーセージはbrühen(ブリューエン/ゆでる)ということで、Brühwurst(ブリューヴルスト)と総称されます。中でも人気はミュンヘン名物のWeißwurst(ヴァイスヴルスト)。その名のとおり白い(weiß/ヴァイス)ソーセージで、皮をむいて甘口のSenf(ゼンフ)、つまりマスタードをつけて食べます。新鮮さが売りなので、早朝に準備されたものを午前中に食べるのが勧められており、

Weißwürste dürften das Mittagsläuten um 12 Uhr nicht hören.(ヴァイスビュルステ デュルフテン ダス ミットタークスロイテン ウム ツヴェルフ ウーア ニヒト ヘーレン)

つまり、「ヴァイスヴルストに正午の鐘を聴かせるなかれ」なんて言い回しがあるほどです。
 

フランクフルトとウィンナー、当国では実は……?

さて、そのゆでソーセージで特によく食されるのがドイツのWiener Würstchen(ヴィーナー ヴュルストヒェン)と、オーストリアのFrankfurter Würstel(フランクフルター ビュルステル)。つまり「ウィンナー」と「フランクフルト」なのですが、実はどちらも同じソーセージを指します。なのになぜか、ドイツではウィーンというオーストリアの、オーストリアではフランクフルトというドイツの、つまりあべこべの都市名が冠されているのです。

理由はどうやら、この腸詰めの生まれにある様子。19世紀の始めにフランクフルトからウィーンに流れてきたソーセージ職人が、そこでフランクフルト風ソーセージに手を加えて、つまり従来の豚肉だけでなく牛肉も混ぜて、売りに出したら大繁盛。フランクフルトの職人による伝来ということで、オーストリア人はこれを「フランクフルター」と呼びました。一方、この人気のソーセージは、ウィーンからドイツに逆輸入され、やはり成功を収めます。ウィーンからやってきたソーセージということで、ドイツ人はこれを「ウィンナー」と呼ぶようになりました。

理由を聞けばなるほどです。しかし互いにモーツァルトを自国の楽聖だと主張しあい、他方ではヒトラーはそっちの出身、いやそちらの政治家と押し付け合うドイツとオーストリアの両国が、ソーセージの名称では譲り合いの精神を発揮しているのは、なんとも微笑ましいお話ではないでしょうか。

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