アメリカ精神医学会が発行する診断基準は世界中で広く使用されています

アメリカ精神医学会が発行する診断マニュアルは世界中で広く使用されている、言わば精神医学のバイブルです

アメリカ精神医学会が発行する「精神障害/疾患の診断・統計マニュアル(DSM)」は精神医学のバイブル的な存在です。この世界中で広く使用される診断マニュアルが精神医学において果たしている役割とは、いったいいかなるものなのか? 今回は、本マニュアルを通じて心の病気の基礎知識を詳しく解説します。

第1版は1952年で、現在は第6版のDSM-5

DSMはアメリカ精神医学会によって出版される診断マニュアルで、その第1版は1952年です。その後、版を重ね、2000年に第5版のDSM-IV-TRとなり、2013年から現在のDSM-5になっています。

精神疾患は一般にその原因が脳の機能にある事は分かってきましたが、まだその詳しい発症メカニズムまでは充分解明されていません。こうした現状もあり、DSMの精神疾患に対するアプローチは、その原因に対する考察には主点が置かれていません。DSMでは個々の精神症状をシステマティックに分析することで、個々の精神疾患を分類しています。

DSM では分類上の個々の精神疾患に対して、それを診断する際、必ず現われていなければならない精神症状のリストが示されています。例えば、うつ病の診断には、興味の減退など複数の抑うつ症状が、ある程度の期間、日常生活に深刻な支障を及ぼすレベルで存在する事が必要になっています。

診断マニュアルに個々の診断基準が明確に示されているという事は、診断名の統一化をもたらしました。それは度量衡の均一化に似た大きなメリットです。橋の全長が100メートルと言えば、世界中の人にそのサイズが分かるように、ある人が診断名を大うつ病(Major Depressive Disorder)と言えば、世界中の人がその症状をイメージできるようになったのです。

診断マニュアルが改訂されるという事は……?

DSMは2013年に現在のDSM-5になりましたが、診断マニュアルが改訂されるという事は、精神疾患への理解や認識に時の流れの中で何らかの変化があったことを反映しています。

今回の改定は大まかにいえば、個々の病気の診断基準が変更されたり、病気の分類上の位置づけに変更があったものもありました。新しくDSMのマニュアルに加わった病気もあります。しかし、DSMの精神疾患に対する基本的なアプローチである、現われている症状に基づいて個々の疾患を分類する事自体は変わっていません。

今回の改訂の具体的な内容としては、パーソナリティ障害の分類上の位置づけに変更があった事は大きな変化です。以前は、うつ病や統合失調症など一般的な心の病気は「第1軸」に属する疾患、パーソナリティ障害は「第2軸」の疾患とされ、一般的な心の病気からは区別されていました。現在の新しいマニュアルでは、この区別がなくなり、パーソナリティ障害は一般の心の病気と同列に扱われるようになっています。

また、研究用のカテゴリーとしてですが、「インターネットゲーム障害」なども新しくDSM-5に加わりました。

DSMの問題点は?米国人の半数近くが心の病気と診断され得る!?

DSMは世界中で広く使用される精神医学のマニュアルですが、その問題点もこれまで幾つか指摘されています。精神疾患の多くはその原因が厳密の意味では分かっていませんが、DSMでは病気の診断基準がその原因にほとんどふれる事なく、現われている症状のみに基づいていることが問題視される事があります。

それは日常の不調と、脳内に変調が起きた事による精神症状をいかに識別するかという問題にもつながりやすいです。

例えば、肉親が亡くなった後、しばらく気持ちが沈んでいても、それは人として全く当然の事でしょうが、こうした自然な精神症状もDSMのマニュアルにしたがえば、うつ病と診断し得る可能性もあります。このように、それぞれの精神症状を拡大解釈すれば、誰もが心の病気と診断され得る可能性も指摘されています。実際、米国人の半数近くはDSMの基準にしたがえば、何らかの心の病気に該当する時期が一生のうちにあるというミシガン大学による統計報告もあります。

こうしたDSMの問題もふまえて、アメリカ国立精神衛生研究所(NIMH)などでは、精神疾患をその生物学な原因を主体に分類する試みも既に始まっています。医学の進歩は急速です。心の病気の発症メカニズムが完全に解明されれば、精神疾患の診断マニュアルは現在とはかなり変わる可能性もあるでしょう。

少し突飛ですが、地球外生命体が発見される時期と、心の病気の発症メカニズムが解明される時期は、どちらが先になると思いますか? 心の病気が本当の意味で解明されたとき、前者と同じぐらい、大きな変化を私たちにもたらすでしょう。心の病気への理解や認識は、これからも大きく変わり得る可能性がある事は是非認識しておきたい事だと思います。


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