吹き替え翻訳について
吹き替え翻訳というのは、声優さんが読むための台本を作る作業のことです。「ドアが開く」「ヒョンジュンが振り向く」「カタンと携帯電話を置く音」など、きっかけとなる動きや音も台本に書いてあげなければいけません。
それから、いろいろな記号がありますが、例えばセリフの上にあるこの「B」という記号は「バック」のことで、その声優さんの担当する登場人物が背中を向けた状態(口元が写っていない状態)で台詞を話し始める、という印になります。
例えば、「ふぅ」というようなため息や、「ハッ」と驚く声などは、観て分かるので字幕を付けないこともありますが、吹き替え翻訳の場合、このような声も声優さんが発しないといけないため、台本には書いてあげる必要があります。
字幕と吹き替えの決定的な違いは、字幕はやや書き言葉寄り、吹き替えは話し言葉、という点です。ですので、字幕の仕事をずっとしていて、吹き替え翻訳をしたりすると、自分でも気づかないうちに堅い翻訳になったりしてしまったり、逆のときは字幕の翻訳が砕けすぎてしまったりすることもあります(笑)。
そして、字幕は字数制限がありますが、吹き替えはリップシンクという制限があります。話している人が口を開けて閉じるまで、声優さんに台詞を言ってもらうようにするわけです。
だから吹き替え翻訳の作業をしているときは、自分も登場人物と一緒にしゃべりながら翻訳をします。何回も、何回も、役になりきってセリフを読んで吟味します。ほんとうに、あやしい姿だと思いますよ(笑)。
このように、吹き替え翻訳も特殊な技術が必要になるので、字幕翻訳も吹き替え翻訳も両方できる翻訳者はそれほど多くありません。
=====
以上、デモレッスンのダイジェストをお届けしました。実際、字幕ソフトを扱ったり、吹き替え台本などを見たりするとさらに理解が深まると思いますが、映像翻訳者という仕事について少しイメージがつかめたでしょうか。字数制限があったり、日本語にもルールがいろいろあるので、単語やフレーズひとつの日本語訳を付けるために、翻訳者がどれだけ調べ、悩んでいるかお分かりいただけたかと思います。
映像翻訳者の方が口を揃えて言うのは、自分の付けた字幕が劇場のスクリーンに流れたり、テレビ画面でオンエアされたり、レンタルビデオショップに作品が並んで手に取ってもらえるのがとても嬉しい、ということ。それと同時に、翻訳は答えが一つではありませんし、字幕は残ってしまうので、「もっとこうすれば良かった」と、あとになって悔やむこともある、ということです。通訳は一瞬、翻訳は永遠、どちらも厳しい世界ですね。
どうやって映像翻訳の仕事を得るか
最後に、字幕翻訳、吹き替え翻訳の仕事をどうやって得ていくかについて少しお話しさせて頂きます。まずは公募を利用する方法です。映像翻訳を請け負う翻訳会社は少なくなく、これらの会社所属の翻訳者やチェッカー(翻訳者が翻訳したものをチェックする仕事)に応募をする方法です。トライアルテストを受け、合格すると仕事が受注できるようになります。
翻訳会社によってはスクールを運営しているところもあり、その翻訳会社が受けた仕事を、修了生の中からテストに合格した人に紹介したりすることもありますが、もちろんスクール修了生でない方でも公募を利用して仕事を得ることができます。
スクールを持っていない翻訳会社、または映像翻訳業務を受注していないスクールもあります。その場合、翻訳会社は人材募集サイトやスクールに求人を出したりするので、情報収集をまめに行うと仕事を得られる可能性が高くなります。
また、映像翻訳の勉強をしていれば、先生やクラスメイトなどの横のつながりでお仕事情報を得ることも少なくないでしょう。
そして、何より大切なのは、実力、です。翻訳会社の担当者の方から、優秀な翻訳者を切望する声をよく聞きます。実力とは、韓国語力もさることながら、一般常識、専門知識の豊富さ、理想的な日本語訳を求め、探し出すことに労を厭(いと)わない忍耐強さ、そして多くの映像翻訳者が口を揃えて言う「日本語力」、これらが最も大切かと思います。
映像翻訳者は、韓国語力を活かし、大好きな韓国ドラマや映画に接することができる、とてもやりがいのある仕事。もちろん、それを仕事にするとなると憧れや夢だけでは片付かない厳しさももちろんあるでしょう。それでも、多くの韓流ファンに韓国コンテンツの魅力を伝えることができるのは大きな喜びです。「われこそは」という方は、是非扉を叩いてみてください!
【リンク集】
「憧れの仕事」シリーズ
・「韓国語の先生」
・「K-POPライター 酒井美絵子さん」
・「通訳者 嵯峨山みな子さん」