就職活動をしなかったのは自分の「嫌いなこと」を知っていたから
競争戦略の専門家である楠木教授に就職活動での競争戦略について聞いた
小寺:今回は若者のキャリア形成がテーマなのですが、まず楠木教授ご自身はどのような経緯で今の「大学教授」という仕事に就かれたのか聞かせて頂きたいです。ちなみに学生時代には就職活動はされたのですか?
楠木:いえ、まったくしてないです。というよりも自分のパーソナリティを考えると就職は向いていないと思いましたね。まず基本のんびり屋で頑張りがきかない。いつも1人じゃなきゃだめで、人に率いられるのも自分が率いるのも嫌いでした。だから会社に勤めずに1人でできる仕事、例えば芸者さんみたいな仕事がいいなぁと思っていたんです。大学教授になったのも学問的な使命感があったからという訳ではなく、言ってしまえばその時の気分かもしれません。「川の流れのように」と「時の流れに身をまかせ」。美空ひばりとテレサ・テンを合わせたようなものです。
小寺:学生の頃から随分ご自身の「好き嫌い」をはっきり認識されていたんですね。ちなみにそういったパーソナリティになったのはなぜだと思いますか?
楠木:色々な要因が絡んでいるとは思いますが、私は幼少の頃をアフリカで過ごしていまして、その経験が大きいかもしれないですね。南アフリカのヨハネスブルグに小4までいまして、ほんとに周りには何にもないですから、学校が終わって友達とやっていたのは「雲を見ること」とかでした(笑)。「あの雲はゾウだね」「キリンだね」と言いながら、ただ野原に寝そべる。だから日本の学校に入った時は衝撃を受けて、なんでみんなこんなに一生懸命頑張るんだ、って驚きましたね。あの頃からもう自分は「物事を一生懸命頑張ること」が向いていないと思いました。それは昔も今も変わりません。
「好きなこと」であれば苦手なことも娯楽にできる
楠木教授の話を聞いていると、その180cmを超える高い身長と厚い胸板からは想像も出来ないほどの「ゆるさ」を感じる。いい意味での力の抜き方と言ってもいいかもしれない。「頑張るのが苦手」と本人は語るが、それでもなぜ現在のように1つの分野で第一人者と言われるまでになれたのだろうか。楠木教授自身「好きなこと」を仕事にできたことが大きいと言う
楠木教授が語るように、いかにして「努力」を楽しいものにできるかは、就職活動に限らず物事で成果を出す上で大変重要なことだ。どんな競争であったとしても、その競争に勝つための努力が辛いものであれば努力は長続きしないはずだから。