名所・旧跡/中国(山陽・山陰)の名所・旧跡

島根でたたら製鉄の史跡めぐり!『もののけ姫』の世界を体験

砂鉄から鉄を造りだした「たたら」。たたら製鉄は高炉による近代製鉄に主役は譲ったものの、今もなお島根県雲南市から奥出雲町に残る史跡を訪ね歩くことができます。玉鋼を使った日本刀鍛錬の実演や博物館など、おすすめスポットをご紹介します。

村田 博之

執筆者:村田 博之

名所・旧跡ガイド

島根県の雲南市から奥出雲町に残る「たたら」の史跡を訪ねてみよう

島根でたたら製鉄の史跡めぐり!日本独自の技術を体験

日本で唯一残った古代製鉄の遺構、菅谷たたら山内の「高殿」。
2014年に保存修理工事が終わり、美しい姿が甦りました(2015年4月撮影)

遥か昔から、日本独自の技術として砂鉄から鉄を造りだした「たたら」。映画『もののけ姫』の中にも「たたら」のシーンが登場していましたので、ご存じの方もいらっしゃるでしょう。

明治以降の産業革命を機に製鉄の方法は高炉による近代製鉄に主役を譲りましたが、「たたら」による製鉄が盛んに行われていた島根県東部の雲南市から奥出雲町には現代でも「たたら」の遺構が史跡という形で残ります。

産業遺産が注目されるようになった昨今、文化庁から日本遺産に認定されるなど改めて評価が高まり、多数の方が訪れるようになった「たたら」による製鉄の史跡を訪ね歩いてみましょう。

ここに来ると鉄を加工した道具造りの体験や、普段の会話で良く耳にするあの言葉の語源までわかりますよ。(取材協力:島根県 観光振興課/2014年)

<目次>  

砂鉄から鉄を造る日本独自の技術「たたら製鉄」

「たたら」の炉の構造断面の実物大模型(1)/奥出雲たたらと刀剣館

「たたら」の炉の構造断面の実物大模型/奥出雲たたらと刀剣館(2014年12月撮影)

「たたら」は、粘土で造った炉の中に砂鉄と木炭を入れて、風を送り込みながら炉の中を高温で燃やし続けることにより、鉄を造る技術です。
砂鉄/たたら鍛冶工房

「たたら」による製鉄の原料となる砂鉄。中国山地ではたくさん採れたことで「たたら」による製鉄が盛んになった/雲南市菅谷・たたら鍛冶工房(2014年12月撮影)

飛鳥時代から奈良時代にかけて編纂された「出雲国風土記」にも記載がある千数百年以上前からの歴史を誇る日本独自の技術で、砂鉄が採れる中国地方の山間の多くで行われていました。

一時期は日本で造る鉄の80%以上を占めたこともあった「たたら」ですが、明治時代の産業革命により大量の鉄の需要が発生し、高炉を使った近代製鉄に鉄の製造の主役を譲った後は、静かに姿を消していきました。

現在では、日本刀の材料「玉鋼(たまはがね)」の供給と、技術の伝承目的で全国で1箇所だけ「たたら」の操業が続けられていますが、これは非公開のため一般の人は見ることができません。その代わり「たたら」による製鉄が盛んに行われていた島根県の雲南市から奥出雲町を中心にした地域に「たたら」の史跡が複数残っています。

2016年4月には、文化庁より「出雲國(いずものくに)たたら風土記 ~鉄づくり千年が生んだ物語~」として、「たたら」の史跡群が日本遺産に認定されました。先人が築き上げた「たたら」による製鉄の歴史を間近で振り返ることができる貴重な場所なのです。

それでは「たたら」による製鉄の史跡を訪ねていきましょう。
 

「たたら」の遺構と町並みが当時のまま残る「菅谷たたら山内」

菅谷たたら山内を望む

「たたら」による製鉄が行われた頃の集落がそのまま残る菅谷たたら山内を望む。「高殿」は一番右奥にあたる/写真提供:宇都宮睦登 氏

「たたら」による製鉄の史跡めぐり、最初は雲南市吉田町の「菅谷(すがや)たたら」へ。
菅谷たたら「高殿」

大きな桂の木のたもとに静かにたたずむ菅谷たたら「高殿」。この桂の木は秋に3日だけ炎のように真っ赤に色づくとのこと(2015年4月撮影)

菅谷たたらGoogleマップ)は江戸時代末期に造られた「たたら」の炉を覆う茅葺きの建物「高殿」が残っていて、さらに「たたら」で働いていた人たちが暮らしていた時の町並みもそのまま現代に残った全国で唯一の場所。国の重要有形民俗文化財にも指定されています。
菅谷たたら「高殿」の室内

菅谷たたら「高殿」の室内。天井の高い建物の中央に炉、その左右に吹子(ふいご)があります(2014年12月撮影)

菅谷たたらで鉄を造っていたのは、松江藩が抱えていた鉄師で出雲4大鉄師にも数えられていた田部(たなべ)家。江戸時代の1751年から、途中15年ほどの中断を挟みつつ、大正時代の1921年まで170年にわたり「たたら」の操業を行っていました。

高殿は2014年に保存修理工事が完了し、美しい姿で甦りました。中に入ると天井の高い建物の中に粘土でできた炉と両方から風を送り込む吹子(ふいご、鞴)があり、間近で見ることが可能です。
「高殿」の前から見た菅谷たたら山内

「高殿」の前から見た菅谷たたら山内/写真提供:宇都宮睦登 氏

「高殿」の前にでると、菅谷たたら山内の町並みが広がります。「たたら」が操業していた頃は、この町並みの中を多くの人が往来していたのだろう……という思いに馳せて眺めて見ると感慨深いですね。
 

鉄の歴史博物館で、たたら製鉄に関する歴史を学ぶ

鉄の歴史博物館

「たたら」の製鉄に関わる資料を展示している雲南市吉田町の鉄の歴史博物館。周囲の町並みもレトロな雰囲気を醸し出しています/写真提供:宇都宮睦登 氏

菅谷たたら山内から、車で10分ほどの雲南市吉田町にある鉄の歴史博物館Googleマップ)。

菅谷たたらを操業していた田部家が所有していた資料を中心に「たたら」の製鉄に関する知識を得ることができます。

鉄の歴史博物館に至る町並みもレトロな雰囲気を醸し出していますので、時間をとってゆっくり散策したいですね。
 

たたら鍛冶工房では、刃物づくりの体験が可能

たたら鍛冶工房でペーパーナイフ造り体験

たたら鍛冶工房で体験できるペーパーナイフ造り。金槌で真っ赤になった鉄釘を叩き、グラインダーで加工すると出来上がります(2014年12月撮影)

菅谷たたら山内から、車で15分ほどの距離にあるたたら鍛冶工房Googleマップ)では、1週間前までに事前予約するとペーパーナイフや小刀を造る「刃物づくり体験」ができます。

手軽に30分程度の時間で楽しめるペーパーナイフ造りは、工房の方の指導の下、火にかけて真っ赤になった鉄の釘を金槌で叩いて形を造る鍛造(たんぞう)を体験した後、最後はグラインダーで加工すると完成。

造ったペーパーナイフは記念に持ち帰ることができます。ガイドも体験してみましたが、自分の手で物を造り上げていくのは楽しく、素敵な旅の思い出になりますね。
 

「奥出雲 たたらと刀剣館」で玉鋼を使った日本刀鍛錬の実演も

奥出雲たたらと刀剣館

奥出雲たたらと刀剣館の外観。左のオブジェはヤマタノオロチをイメージしたもの(2014年12月撮影)

「たたら」による製鉄の史跡めぐり、続いては雲南市の南にある奥出雲町へ向かいます。
「たたら」の炉の構造断面の模型(2)/奥出雲たたらと刀剣館

「たたら」の炉の構造断面の実物大模型/奥出雲たたらと刀剣館。炉の下の複雑な構造に驚きます(2014年12月撮影)

横田にある奥出雲 たたらと刀剣館Googleマップ)には、実物大の「たたら」の炉の模型があります。炉として表面に見えているのはほんの一部分で、実際には炉の下に粘土や石が複雑に組み込まれていたことに驚きます。
「たたら」の炉に空気を送り込む様々な吹子(ふいご)

「たたら」の炉に空気を送り込む吹子(ふいご)。"かわりばんこ"や"地団駄を踏む"の語源と言われています(2014年12月撮影)

「たたら」の炉を燃やし続けるために空気を送り込む吹子(ふいご)にも色々なものがあり、展示されている吹子の一部は実際に体験して動かすことができます。

興味深いのは、この吹子から現在も会話の中で使われる言葉が生まれているということ。

踏吹子は、板を踏んでシーソーのように動かして空気を送りますが、地面に向けて交互に足を踏みつける姿から「地団駄を踏む」、また吹子を動かす人を「番子」と言いますが、櫓の上にかけた紐にぶら下がりながら板を踏む天秤吹子でも、複数人の番子が交代しながら3日3晩「たたら」の炉に空気を送り続けなければいけなかったので「かわりばんこ」という言葉が生まれたとのこと。

何気なく使っている言葉の語源に意外な所で出会えることができました。
奥出雲たたらと刀剣館/日本刀作刀の鍛錬実演

奥出雲たたらと刀剣館では、月2回「たたら」の鉄から、日本刀を作刀するため鍛錬の実演も行われます(2014年12月撮影)

奥出雲 たたらと刀剣館には、別棟に日本刀鍛錬場があり、毎月第2日曜と第4土曜に日本で唯一操業を続ける日刀保たたらで出来た玉鋼を使った日本刀鍛錬(たんれん)の実演が行われます。

この「鍛錬」という言葉も「鉄を繰り返し叩いて延ばす」ことから来ているとのこと。「たたら」の製鉄はたくさんの言葉を残していることに気づけますね。
 

立派な邸宅と庭園を持つ鉄師頭取の館、絲原記念館

絲原記念館(1)

絲原記念館の入口。趣きのある黒門が出迎えてくれます(2014年12月撮影)

「たたら」による製鉄の史跡めぐり、続いては奥出雲町大谷にある絲原(いとはら)記念館Googleマップ)へ。

松江藩が抱えていた藩内5鉄師のひとつ絲原家が関わっていた「たたら」による製鉄の資料などを展示しています。
絲原記念館(2)

絲原記念館での「たたら」による製鉄の動く模型(2014年12月撮影)

記念館には、「たたら」による製鉄の模様を展示した動く模型があったり、絲原家が所有する美術工芸品が展示されています。
絲原記念館(3)

絲原記念館の奥にある絲原家邸宅。国の登録有形文化財に登録されています(2014年12月撮影)

記念館の奥にあるのは、大正時代に建てられた絲原家邸宅と庭園。邸宅の大戸口の中から建物の中を見たり、庭園の散策が可能です。

昔ながらの雰囲気が残っていることもあり、1958年(昭和33年)公開の映画『絶唱』や2014年に放送されたTVドラマ『LEADERS』のロケ地となりました。

邸宅の前には高殿の跡も残っていて、ここで「たたら」による製鉄が行われていたことを実感することができますね。

雲南市から奥出雲町にかけて「たたら」による製鉄の史跡をご紹介してきましたが、いかがだったでしょうか?

映画『もののけ姫』への登場や日本遺産に認定されたことは先に書きましたが、奥出雲での「たたら」による製鉄をテーマに描く映画『たたら侍』の公開、JR西日本が運行するクルーズトレイン「トワイライトエクスプレス瑞風(みずかぜ)」の山陽・山陰 2泊3日周遊コースにて菅谷たたら山内や雲南市吉田の街並みが立ち寄り観光地となるなど、「たたら」による製鉄の歴史に日々注目が高まりつつあります。

雲南市から奥出雲町にかけては、日本神話ゆかりの地も含めてたくさんの観光スポットがありますので、これらとあわせてゆっくりと時間をかけて訪ねてみて下さい。
 

「たたら」による製鉄の史跡へのアプローチ

公共交通機関を使う場合は、一度出雲まで来るのが便利です。
<飛行機>
・出雲縁結び空港が最寄り空港となります。

<鉄道>
・山陽新幹線 岡山駅から伯備線 特急「やくも」で出雲市駅へ。
首都圏方面からは、寝台特急「サンライズ出雲」で出雲市駅に向かう方法もあります。

<高速バス>
・東京駅八重洲南口、渋谷マークシティから出雲方面に向かう高速バス「スサノオ号」(一畑バス、中国JRバスの共同運行)が、松江駅・出雲市駅及び出雲大社まで運行。

<車>
・中国道 三次(みよし)東ジャンクションから松江道(中国やまなみ街道)で松江方面へ。広島空港からは尾道道~松江道(中国やまなみ街道)で行くこともできます。
出雲縁結び空港からは、山陰道 宍道インターチェンジから山陰道経由で松江道(中国やまなみ街道)へ。
ご紹介した「たたら」による製鉄の史跡の位置の地図

ご紹介した「たたら」による製鉄の史跡の位置の地図

●菅谷たたら山内,鉄の歴史博物館,たたら鍛冶工房
出雲市駅と広島駅を結ぶ高速バス「みこと」号(一畑バス、中国JRバスの共同運行)で、たたらば壱番地バス停下車後、タクシー利用。
車の場合、松江道 雲南吉田インターチェンジから、県道38号線で吉田方面へ。
菅谷たたら山内:〒690-2801 島根県雲南市吉田町吉田1214(地図)
鉄の歴史博物館:〒690-2801 島根県雲南市吉田町吉田2533(地図)
たたら鍛冶工房:〒690-2801 島根県雲南市吉田町吉田892-1(地図)

●奥出雲 たたらと刀剣館
JR木次(きすき)線 出雲横田駅から徒歩10分。
ただし列車の本数は少ないので、レンタカー等の利用が便利です。
車の場合、出雲側からは松江道 三刀屋木次(みとやきすき)インターチェンジより国道314号線で横田へ。
広島、三次側からは高野インターチェンジより国道432号線と国道314号線で横田へ。
奥出雲 たたらと刀剣館:〒699-1832 島根県仁多郡奥出雲町横田1380-1(地図)

●絲原記念館
JR木次線 出雲三成駅、または出雲横田駅から、奥出雲交通バスに乗車し、絲原記念館バス停下車。
列車及びバスの本数が少ないので、レンタカー等の利用が便利です。
車の場合、出雲側からは松江道 三刀屋木次インターチェンジから国道314号線で三成へ。県道25号線、県道270号線に進み、案内の看板に従います。
広島、三次側からは松江道 高野インターチェンジより国道432号線で三成へ向かい、県道25号線、県道270号線に進みます。
絲原記念館:〒699-1812 島根県仁多郡奥出雲町大谷856(地図)

【関連サイト】 「中国(山陽・山陰)の名所」に、「名所・旧跡」ガイドで中国地方(山陽・山陰)地方の名所・旧跡を紹介した記事の一覧をまとめてあります。

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