絵本

世界を変えた色の話『いろいろへんないろのはじまり』

物事には必ず始まりがあります。では、絵本に欠かせない「色」はどのように始まったのでしょうか? 実は、色の始まりにはある魔法使いが絡んでいました。色とりどりのこの世界が愛おしくなる、愉快な絵本をご紹介します。

執筆者:大橋 悦子

昔、世の中には灰色だけしか存在しなかった?!

みなさんはバナナが何色かご存知ですか? 「黄色に決まっているでしょ!」と思った方、ちょっと待ってください。ご紹介する絵本『いろいろへんないろのはじまり』によれば、ずっと昔、この世の中には黄色はもちろん「色」というものがなかったというのです。ほとんどが灰色か白または黒だったという時代に、美しい色はどのように誕生したのでしょう? ひょんなことから色を発明した魔法使いの、楽しくてちょっぴり深いお話をご紹介します。

色をめぐる「もしも……」を描く『いろいろへんないろのはじまり』

絵本『いろいろへんないろのはじまり』の表紙画像

単色の世界に戸惑う人たちの表情にもご注目!

おはなしの始まりは「はいいろのとき」。世の中に色というものが存在せず、何もかもが灰色で、さもなければ白か黒という時代です。ひとりの魔法使いがその状況に違和感を感じていましたが、どうしたらよいかわかりませんでした。そこで、気を紛らわせるために魔法の薬を調合したり呪文を唱えたりしていると、面白いことが起こりました。

彼が色々なものを少しずつ合わせてかき混ぜていくと、「色」を作ることができたのです! 「あおいろのとき」「きいろのとき」「あかいろのとき」と、美しい色が次々に生み出されました。色の三原色です。けれども、どの「とき」もただ1つの色だけで世界が彩られたため、それぞれに困ったことになってしまいます。

青一色の世界は、人々に憂うつをもたらしました。黄色一色のときは、みんな目がチカチカして頭が痛くなりました。赤一色の世界では、誰もが怒りっぽくなって喧嘩が絶えませんでした。作者は、まるで色彩心理学のテキストのように、色によって人々の感情が変化するさまを絶妙に描いていきます。

青くなった東京タワーのイメージ画像

現代がもしも「あおのとき」なら、東京タワーも青色に……

一方で、青・黄色・赤とお話が繰り返されるたびに、単色世界の不自然さが読者の心にじわじわ広がってきて、なんとなく不安な気持ちになります。これは、作者・ローベルの狙いなのでしょうか。何もかもが画一化され、違いを許さない世界への警鐘が鳴らされているようにも思えます。

それだけに、お話の最後に目に飛び込んでくるカラフルな世界のありさまは、何より美しく大切なものに感じられます。はたして、魔法使いや人々はどのようにして、このカラフルな美しい世界を手に入れたのでしょうか? お話を読み終えたら、今私たちの目の前に広がるこの世界が、ちょっぴり違って見えてくるかもしれません。


【書籍DATA】
アーノルド・ローベル:作 まきたまつこ:訳
価格:1512円
出版社:冨山房
推奨年齢:4歳くらいから
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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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