体験談は科学的根拠にはならない
健康や美容に役立つといわれることは、誰でも関心があるものです。
テレビ番組で5人の人が1週間○○を食べ続けた結果と、コホート研究のように10,000人の全国の男女を10年間追跡調査して結果では、どちらが信頼度は高いでしょうか。少ない人数では偶然の場合もありますし、広く一般の人にあてはまるかどうかはわかりませんね。
あくまで「この人にはたまたま合ったかもしれないが、私に合うかどうかわからない」という程度の情報として受け止めましょう。
専門家のコメントを見聞きすると、「専門家の意見だから間違いない」と思ってしまいがちです。これも具体的な研究に基づいていないものであれば、個人的な見解にすぎません。
具体的な研究結果のチェックポイント
では具体的な研究が行われた場合の情報は、どのようなことに注意をして見ればよいのでしょうか。・対象は?
研究は、試験管で行われた実験なのか、あるいはマウスなどの動物が対象なのか、ヒトを対象にしているのか?
動物では効果が見られても、ヒトでは同じようなメカニズムで作用するかはわかりません。様々な成分の機能性が注目されていますが、ヒトにおいての研究で十分に確認がとれているものはほとんどないと見られています。
・量や摂取方法をチェック
研究で使用された機能性成分の有効な量は、どれくらいでしょう。実験では濃縮した成分であることも多く、実際にその成分を含む食品から有効成分の量を摂取するには、○kg分食べる必要がある、というような非現実的な量になることもあります。
また摂取方法は、注射などで投与しているのか、食品として口から食べても同様の効果があるのかどうかもチェックしたいところです。
・研究デザインのタイプは?
健康・医療分野でよく耳にするエビデンスとは科学的根拠を意味し、実験や調査などの研究結果から導かれた「裏付け」のこと。エビデンスがある情報、商品なのかをチェックしましょう。またそのエビデンスの信頼度は、研究方法に偏りがないか、また研究の規模や種類によって異なります。
例えば、疫学研究などは、仮説をたてる記述疫学(症例報告など) → 仮説を分析する分析疫学(奨励対照研究やコホート研究等) → 仮説を検証する介入研究(無作為割り付けしない・無作為割り付けした)と、どんどんふるいにかけて、信頼性の高いエビデンスが作られていきます(その分、予算も期間も必要となります)。
しかし介入研究が倫理的に問題があるため不可能な場合には、コホート研究等の分析疫学が最も信頼度が高くなることもあります。
こうしたエビデンスが研究者によって学術論文としてまとめられ、学術誌などに発表されたり、複数の研究で指示されていると、信頼性が高いと見ることができます。
・情報には鮮度がある
体内で必要に応じてビタミンAに変わるβ-カロテンは、以前は、肺がん予防に役立つと考えられていました。しかしその後、欧米で行われた大規模な無作為化比較試験では、予想に反し高用量のβ-カロテンの服用が喫煙者の肺がんリスクを高める結果となりました (食品安全委員会)。このため、日本でもサプリメントなどのβ-カロテンの補給は、肺がん予防には注意が必要とされています。
このように、研究が重ねられることで、今までの結果が覆ってしまうこともあることを知っておきましょう。しかし、その情報がいきわたらず、古い情報がそのまま取り上げられていることもありますので、注意が必要です。