消費増税の影響が大きかった2014年の不動産マーケット
マンションの供給戸数減少 新築戸建ての売行き悪化
2015年の不動産マーケットは、どうなっていくのか? 2015年の不動産市場の行方を考える識者インタビューの第2弾として、不動産アナリストでHOME’S総合研究所 副所長の中山登志朗氏にインタビューしました。価格上昇が顕著だった2014年でしたが、2015年は様々な要素が絡みマーケットが複雑化しそうです。■プロフィール:中山 登志朗(なかやま としあき)
株式会社ネクスト HOME’S総合研究所 副所長 チーフアナリスト。1963年 横浜市中区生まれ。出版社、不動産調査会社を経て、2014年より現職。現在、不動産市況全般の調査・情報分析を担当。不動産シンクタンクのチーフアナリストとして、新聞・雑誌・テレビ・ウェブサイトなどに多くの原稿・コメントを提供。
―――中山さん。よろしくお願いします。まずは、2014年の不動産市場を振り返っていかがでしたか?
中山氏:
消費税のインパクトの大きかった2014年だったと思います。増税前の駆け込み需要の反動と増税分を含めた価格上昇の影響は大きかったのではないでしょうか。都心エリアのマンションは、株高による資産効果や相続税対策などで、比較的堅調な売れ行きでしたが郊外エリアのマンションは建築費の上昇もあって供給戸数が落ち込みました。新築戸建ての売行きも郊外エリアは鈍いようです。一方、中古マンションや中古戸建ては、新築マンション価格の上昇が鮮明になった秋以降、反響件数等が回復してきています。広いものを安く買いたい人などは、中古マンションや中古戸建てと新築物件を比較して検討しているようです。
また、4月の消費税引き上げや相続税控除額の引き下げ(2015年1月施行)、12月衆議院選挙と制度面から不動産が注目された1年でもありました。12月は、選挙の影響もあり不動産の動きには影響がでました。
―――賃貸市場はどうですか?
中山氏:
2014年後半から都心部や東京23区エリアはデータを見ると賃料は底入れしています。しかし、フリーレント可の募集物件も依然多く、借り手市場は続いています。東京23区以外のほとんどのエリアは、賃料は緩やかに下落しており回復するにはまだまだ時間がかかりそうです。景気回復が鮮明になって給与所得が上がっていかないと回復は難しいでしょう。都心の賃料が底入れしているのも、物件価格上昇によって賃貸を選択する人が増えている面もあると思います。
―――2015年の注目トピックスは何ですか?
中山氏:
まず挙げたいのは、今月施行された相続税の控除額の引き下げです。昨年の都心部のマンションの売行きを見ても、相続対策として不動産が注目されているのは確かです。制度も1月に施行され、2015年は相続税対策元年でもあります。実際対策を取るかどうかは別として、家族で資産承継を考えるきっかけになっていると思います。12月30日に発表された2015年度の税制大綱でも、住宅取得にかかわる直系尊属の贈与税の特例の拡充など資産承継を促す施策がとられています。景気浮揚策として新築住宅の購入促進につながるでしょう。
もう一つは、超低金利です。日本銀行の異次元の金融緩和で、住宅ローン金利はかつてない水準まで下がっています。さらに景気対策で住宅金融支援機構による長期固定金利の住宅ローン「フラット35S」の優遇金利が今後0.3%から0.6%に拡充される予定です。2015年1月のフラット35の最低金利が1.47%(35年ローンの場合)ですから優遇期間は1%を切った固定金利ということになります。フラット35Sの貸し出しシェアは70%程度で推移していますから、住宅購入を検討されている方への影響は大きいと思います。民間金融機関の住宅ローン金利も変動金利では金利競争が激しいですが、変動・固定の金利差がここまで小さくなるのは極めて珍しいケースでしょう。価格上昇が顕著で、不動産の買い材料が少ない中、買い手にとっての大きなメリットといえるのではないでしょうか。
―――2015年の不動産市場はどんな感じになるとお考えですか?
中山氏:
公共事業の増加による人件費の上昇、円安要因などの資材価格の上昇、地価の底入れと新築物件の価格は、上昇せざるをえない状況です。しかし、価格転嫁がスムーズにいっているのは、都心エリアや城南エリアなどの人気エリアに限られます。特に都心6区(千代田・中央・港・文京・新宿・渋谷)などの交通利便性の高い場所のマンションは、実需層だけでなく、日本の投資家や相続税対策を考える資産家、海外の投資家などのニーズもあり売れ行きは堅調です。2015年も1割から2割程度上昇する場所も出てくるでしょう。供給戸数も維持すると思います。一方、郊外エリアの需要層は、実需層が大半になります。よって市場の動向を見ながら、デベロッパー各社が供給調整をしてくると思います。全体の供給戸数は、減ると予想しています。
―――昨年秋ごろの着工戸数を見ると持ち直している感じもするのですが
中山氏:
当初予定された、2015年10月の消費税引き上げに備えてのものだと思います。2017年4月に先送りされたため販売のタイミングを見定めていくと思われます。用地手当は、各社済んでいるので、潜在供給余力はあります。コーポレートファイナンスもしやすい状況ですので、売れ行き次第といったところでしょう。価格上昇による需要減を踏まえると供給戸数は良くて前年並みでおそらく減少すると思います。
―――2015年は買い時としては、いかがですか?
中山氏:
新築物件なら消費税が8%のうちに買いたいところでしょう。低金利を活かせるという点では、今年買うメリットはあると思います。郊外であれば、新築マンション、新築戸建てだけでなく、中古マンション、中古戸建てを見比べて探すのが良いと思います。中古を買ってリフォームするのも選択肢の一つだと思います。
―――注意すべき点はどんなことですか?
中山氏:
税制が大きく変わってきている点に注意してください。例えば、ローン控除が使えるかどうか、住宅取得にかかわる贈与税の非課税枠なども様々な要件があり対象となる人や物件によって異なります。例えば、5000万の物件を購入するにしても物件だけでなく、住宅ローンの選択や組み方によって実質的な総返済額が大きく変わります。将来を考えて戦略的に購入プランを立てることが大切だと思います。また、資産価値を考慮するのも重要です。将来買いかえるかもしれないといった視点を持つことも大事だと思います。
―――2015年に住宅を探す方アドバイスをお願いします。
中山氏:
物件選びは、当然大切ですが、住宅ローンも金融商品であることを認識しましょう。8大疾病特約付きの住宅ローンをはじめ、金利以外に繰り上げ返済手数料やローン保証料など比較すべき点はいろいろあります。住宅購入と同時に保険を見直すことで、生活費を減額することも可能です。そうした点も考慮して住まい探しをすることも重要です。
―――本日は、ありがとうございました。
編集後記
中山氏から「超低金利」という話がありました。買い手にとっては、メリットが大きい反面、売り手にとっても物件を売りやすい利点があります。低金利だからと、予算を大幅に伸ばすのではなく、身の丈に合った住宅選びも大切だと感じました。また、新築物件にとらわれるのではなく、リフォームも想定して中古戸建て・中古マンションを検討するといった多面的に考えることも重要だと思います。制度変更や価格動向の動きが激しい昨今。納得感のある住まい選びには、押さえるべきポイントが増えてきているのも事実。「これを見落としていた」ということがないように、制度改正のチェックが必要だと思いました。
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