瀧廉太郎の友人、と知人とその他の諸々

1月28日~2月1日=草月ホール

『瀧廉太郎の友人、と知人とその他の諸々』

『瀧廉太郎の友人、と知人とその他の諸々』

【見どころ】

昨年の初演が大好評を博した登米裕一さん・作の音楽劇(昨年の稽古場&観劇レポートはこちら)が、一部キャストを変え、演出に『フォーエヴァー・プラット』等を手掛けた板垣恭一さんを迎えて再登場。日本の近代音楽の礎となった作曲家、瀧廉太郎が留学中のドイツを舞台に、文部省唱歌にまつわる或る「謎」の鍵となる、若者たちの切ない人間関係を、『花』『朧月夜』等、お馴染みの唱歌を交えながら描いて行きます。

瀧と深くかかわる同窓生の岡野貞一役・原田優一さん、ひそかに瀧を慕う留学生、幸田幸役の和音美桜さん、文部省役人役の佐野瑞樹さんは続投ですが、今回、瀧廉太郎役には兼崎健太郎さん、幸の世話役であるフク役に新垣里沙さん、謎の男、基吉役には白又敦さんが新たにキャスティング。ふだんは『レ・ミゼラブル』等の海外ミュージカルで活躍する原田さん、和音さんは、初演時、「感情を乗せる」ことが求められるミュージカルの楽曲とは異なる唱歌を前に「どんなさじ加減で歌おう」ととまどったそうですが、美しい言葉がぴたりとはまった音楽の魅力を再発見する日々だったそう。伴奏はピアノ一台。清らかな歌声を堪能でき、最後には登場人物たちの友情、優しさ、切ない思いに胸熱くなる珠玉の舞台、昨年見逃した方はぜひ。

TRAILS

1月28日~2月1日=シアター・グリーンBIG TREE THEATER

『TRAILS』

『TRAILS』

【見どころ】

12年にコンサートバージョンでの上演が好評を博したミュージカルが、フル・ステージ版として初登場。ニューヨーク・ミュージカル・フェスティバル2010の音楽部門で優勝した本作は、12年ぶりに再会した青年二人が、山脈のトレイル・コース3500キロを歩きながら、重い過去に対峙してゆく様を描きます。過去の情景がフラッシュバック的に差し挟まれながら、二人は徐々に、12年間の音信不通の理由でもある、一つの真実に近づく。それは二人にとってあまりにも痛切な出来事で、乗り越えることは不可能に見えた……。

一つのモチーフを出演者たちが少しずつずらして歌うカノン的なナンバーなど、ジェフ・トムソン、ジョーダン・マンによる本作の音楽は技巧を凝らしつつも力強く、主人公たちはもとより、アンサンブル的なキャラクターに至るまで、かなりの歌唱力を要します。主人公セスとマイクにはコンサート版でも同役を演じた藤岡正明さんと、『レ・ミゼラブル』等の大型ミュージカルで活躍するtekkanさん、ほか富田麻帆さん、RiRiKAさん、柳瀬大輔さんら、実力派の俳優たちが出演。シアター・グリーンというほどよい規模の劇場で、二人の魂の叫びがこだまする迫真のドラマが立ち現れそうです。

【観劇レポート】

初日前日のゲネプロ(ダブルキャストはエイミー役が富田麻帆さん、ママ・ハーレー役が荒木里佳さん、フェイス役が水野貴以さん)を鑑賞。はじめに今回のプロデューサー、翻訳者で、2年前のコンサート版ではマイク役で出演もした四宮貴久さんが挨拶。09年に友人の脚本家クリスティ・ホールから「今、新作を書いている」と聞いてCDを聴かせてもらったところ、その洗練された音楽が胸に響き「日本で上演したい」と強く思ったのだそうです。12年のコンサート版以降、作者たちは改訂を重ね、今回は最新版の内容になっているとのこと。

確かに、コンサート版では幕開けがセス(藤岡正明さん) の独唱だった記憶がありますが、今回はアンサンブル(柳瀬大輔さん、荒木さん、水野さん)がかわるがわるソロを歌う中にセスとエイミー、そしてマイクの幼年時代が挟み込まれる形。より立体的な作りが意識されているようです。

ヴァイオリンの柔らかな音色を活かした楽曲はカントリー、ロック、クラシックと様々な音楽要素を取り込みながら、心の痛みを「お腹の中のハチ」に例えたナンバーはドライな子ども唄風、トレイルの果てしなさを歌うナンバーではカノンで地道な一歩一歩を表現するなど、各場面を鮮やかに描写。二人のドラマを星座物語に例える歌詞も美しく、魅力的です。また分かりやすさばかりを追求せず、「冥府の果てまで」など詩的な言葉も使った訳詞も効果的。

セス役の藤岡さんは『RENT』のようなロックミュージカル、『レ・ミゼラブル』等の大作ではその張りのある声が何よりの魅力ですが、今回は極力抑え、セスの内面を繊細に表現。「自分は負け組」と決め込んだ青年が長いトンネルを抜けて人間的に成長してゆくまでを誠実に演じ、観る者を引き込みます。またマイクが旅の途中で出会う初老の男ヴァージル役・柳瀬さんは、自身の苦悩を重低音で歌うナンバーを舞台全体に墨をぶちまけんばかりの迫力で歌い、たった一曲で圧倒的な存在感を示します。マイク役tekkanさん、幼馴染みエイミー役・富田さんも丁寧に役を演じ、セスとマイクが旅の途中に出会うママ・ハーレー役の荒木さん、フェイス役の水野さんも役どころをよく心得た演技を見せています。

終盤につらい真実が明らかになり、激情をぶつけあうセスとマイクですが、その幕切れはあくまで爽やか。そのきっかけを与える幼馴染エイミーの言葉は、神々しいまでに優しいものです。陰鬱な出来事の多い昨今だからこそ、彼女のシンプルな言葉は人間がこの世で生きてゆくのに必要なことに気づかせ、背中をそっと押すかのよう。観ている側の心にも小さな灯がともる佳作です。


映画『ANNIE/アニー

1月24日全国公開 
『ANNIE/アニー』写真提供:Sony Pictures

『ANNIE/アニー』写真提供:Sony Pictures

【見どころ】

また一つ、押さえておくべきミュージカル映画が誕生しました。題材は77年にブロードウェイで開幕し、日本でも恒例の上演でお馴染みの『アニー』。82年に原作に忠実な設定で一度映画化されていますが、今回は音楽にもストリート風のビートを効かせ、大胆なアレンジを施した「現代版」です。

『ANNIE/アニー』写真提供:Sony Pictures

『ANNIE/アニー』写真提供:Sony Pictures

舞台は現代のNYとなり、主人公アニー(クワベンジャネ・ウォレス、素直な歌唱)、大富豪(原作ではウォーバックさんですが今回はIT長者のスタックスさん=『ドリームガールズ』等でも絶品の歌唱を聴かせたジェイミー・フォックス)ともに白人ではなく、アフリカ系。ミス・ハニガン(キャメロン・ディアス)は孤児院の先生ではなく、州からの「里親制度」の助成金目当てで6人の女の子たちを住まわせている「成功しそこなった元ミュージシャン」。IT長者は市長選挙に立候補しており、支持率アップのために街で偶然出会ったアニーを数週間自宅に招くものの、仕事一筋で「家族」に対する願望がまったくなく、アニーに対しても何の感情も生まれてこない。ここが、ウォーバックさんが出会って比較的すぐにアニーに魅了される舞台版との最大の違いでしょう。

『ANNIE/アニー』写真提供:Sony Pictures

『ANNIE/アニー』写真提供:Sony Pictures

アニーの方も利用されていることは承知で、目的は立場を利用しての、本当の親探し。こんな二人がいったい原作通りに固い絆で結ばれるのだろうか?が興味のポイントです。「トゥモロー」を初めとする名曲ももちろん登場しますが、現代的な視点を盛り込んだ新曲3曲も魅力的。特に後半、間違った選択をしてしまった主人公たちが後悔し、「でも今日がある、まだ遅くない、やり直そう」と歌う「Who am I?」は「トゥモロー」とも呼応する内容で、心を揺さぶる名曲です。往年の名作ミュージカルもこんな形で「現代化」できる、つまり時代を超えた普遍性があると体験できる本作、ぜひ大スクリーンで体験を!

*次ページで『メンフィス』以降の作品を紹介します!*