ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

2015年1~2月の注目!ミュージカル(4ページ目)

謹賀新年、皆さん初芝居は楽しまれましたか?さて、この冬は(様々な意味で)いい男が活躍するミュージカルが続々登場!『氷刀火伝 カムイレラ2』『メンフィス』『ラ・カージュ・オ・フォール』『Golden Songs』『モンティ・パイソンのSPAMALOT』『メリー・ウィドウ』『クリエ・ミュージカル・コレクション2』等をご紹介します。観劇レポートは随時掲載。また今回は松島まり乃的「2014年ミュージカル大賞」も!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

メンフィス

1月30日~2月10日=赤坂ACTシアター
『メンフィス』製作発表にて。(C)Marino Matsushima

『メンフィス』製作発表にて。(C)Marino Matsushima

【見どころ】
50年代アメリカで初めてブラックミュージックをラジオで流した白人DJの実話をもとに、音楽が人種差別に風穴を開けてゆく様を描いたミュージカル。2010年のトニー賞で作品賞、脚本賞、作曲賞、編曲賞を獲得した話題作が、ついに日本に上陸します。出演は、ナイトクラブで歌姫フェリシアの歌声に魅了され、彼女の歌を放送する青年ヒューイ役に山本耕史さん、フェリシア役に濱田めぐみさんほか、ジェロさん、JAY’EDさん、吉原光夫さんら、豪華にして実力派揃い。作曲はハード・ロックバンドBON JOVIのデヴィッド・ブライアンで、ソウル・ミュージックはもちろん、BON JOVIを聴いたことのある人ならすぐにそれと分かるロックも登場。濃厚かつノリノリの音楽世界が楽しめます。日本版の演出はインドネシア出身、NYで活躍する演出家のエド・イスカンダル、振付はビヨンセのPV等で知られるジェフリー・ページが担当するのも話題。

ス』製作発表にて。(C)Marino Matsushima

『メンフィス』製作発表にて。(C)Marino Matsushima

【製作発表レポート】
昨年11月、赤坂ACTシアターにて行われた製作発表では、まず山本さん、濱田さん、ジェロさん、JAY’EDさん、吉原さんによるナンバーの披露が。『メンフィス』メドレーではソウルフルなナンバーがムードたっぷりに歌われ、最後にBON JOVI風の爽快なロックナンバー「スティール・ユア・ロックンロール」を全員で歌唱。昂揚感さめやらぬなか、続いてホリプロの堀義貴社長が主催者挨拶。「音楽の素晴らしさを描いた作品を、魂で歌う俳優さんたちで上演します」と語り、脚本・作詞のジョー・ディピエトロからの「愛と音楽で困難に立ち向かった人間の話を日本の皆さんと分かち合えることを嬉しく思っています」というメッセージも読み上げられました。

『メンフィス』製作発表にて。(C)Marino Matsushima

『メンフィス』製作発表にて。(C)Marino Matsushima

役者たちもそれぞれに抱負を述べ、山本さんは「今でこそいろいろな人種が共存して平和に暮らせるのも、誰かがそれを築いたから。(今回のヒューイ役を)ただのカッコいい白人ではなく、不器用だけど一直線、それが魅力的に見えるように演じたい」、濱田さんは「楽曲のすてきな作品なので、楽しんでその世界に埋没したいし、作品のテーマをきちんと打ち出したい」、ジェロさんは「自分のライブでは一曲ごとに3分間のストーリーを演じ、曲が変わればまた違う主人公を演じるという感じですが、ミュージカルではずっと同じ人物を演じるという魅力がある。魂のある曲ばかりで、自分のルーツも勉強できるかなと思っています」、JAY’EDさんは「初ミュージカルでどきどき。人種など、様々な壁が音楽によって壊せることを語っているし、ソウルミュージックがどう生まれたかもわかる作品だと思います」、吉原光夫さんは「日本人が黒人を演じる難しさはあるかと思いますが、人間は生まれ育ったコミュニティをなかなか出られない、でもそこから出てみることの素晴らしさというテーマを日本に置き換えてみたら(日本人の胸にも)響く作品なのではと思います」と、それぞれ熱く語りました。

『メンフィス』製作発表にて。(C)Marino Matsushima

『メンフィス』製作発表にて。(C)Marino Matsushima

濱田さんは「地声が高いので(本作の楽曲が歌いこなせるよう)このテイストの曲を常に身近に置き、時間をかけて聴いたり喉になじませていきたい」とおっしゃっていましたが、それから2か月あまり、さぞや“じっくりアプローチ”の成果も出て来られたことでしょう。もともと歌唱力に定評のある面々がNYの新進気鋭の演出家のもとどう作品を理解し、形作ってゆくのか、期待が高まります。

【初日観劇レポート】

『メンフィス』左からデルレイ役ジェロ、フェリシア役濱田めぐみ、ヒューイ役山本耕史undefined撮影:田中亜紀

『メンフィス』左からデルレイ役ジェロ、フェリシア役濱田めぐみ、ヒューイ役山本耕史 撮影:田中亜紀

黒人の集うクラブで、オーナーであるデルレイ(ジェロさん)の歌を聞きながら踊る若者たち。アフリカン・ダンスのエッセンスを活かし、体の芯から躍動しながらばらばらに見えて連動する斬新な振付(ジェフリー・ページさん)に目を見張っていると、やがてデルレイの妹フェリシア(濱田めぐみさん)が登場、歌い始めます。

人種差別がまかり通る社会のなかで、ここだけは聖域とばかりにフェリシアはのびのび、心から楽しんで歌い、若者たちも踊る。その声に導かれてふらりと入ってきた白人青年、ヒューイ(山本耕史さん)。「なぜ白人のあんたが?」といぶかしがられるヒューイですが、彼らの音楽に自然に溶け込み、共に歌い踊る姿に、フェリシアたちのみならず観客たちもすぐに悟らされます。「彼は心からこの音楽が好きなのだ」と。
『メンフィス』左からヒューイ役・山本耕史、フェリシア役・濱田めぐみundefined撮影:田中亜紀

『メンフィス』左からヒューイ役・山本耕史、フェリシア役・濱田めぐみ 撮影:田中亜紀


余計な説明を排し、音楽の力で観る者のハートを鷲掴みにする舞台はこの後、ヒューイがその無鉄砲なまでの純粋な音楽愛で、ラジオ局で初めて黒人音楽を流し、音楽を通して社会に風穴をあけてゆく様をスリリングに描いていきます。中央に川に見立てた赤い通路、左右に橋に見立てたステップを置いた伊藤雅子さんによる舞台美術を活かし、人物の置き方に配慮しながらテンポのよい芝居を紡いでゆくエド・イスカンダルさんの演出手腕。そしてサクセスストーリーの疾走感ばかり強調せず、台詞の端々に潜む社会問題の重さをしっかりと伝える俳優たちの技量にも唸らされます。
『メンフィス』ヒューイ役・山本耕史undefined撮影:田中亜紀

『メンフィス』ヒューイ役・山本耕史 撮影:田中亜紀

とりわけ今回が生涯の当たり役?とも思える演技を見せているのが、ヒューイ役・山本耕史さん。アメリカの音楽文化を変えたといってもいい役柄ではありますが、キャラクター的には「子供の頃はいじめられ」、仕事も長続きせず、絶好のチャンスも逃してしまう世渡り下手。“二枚目”からは程遠い青年を、時折せわしなく帽子や体に手をやったりといった身体表現や、「音楽が憑依した」とでも言うべき無心の歌唱を織り交ぜ、「ヒューイその人」を演じ切っています。後半の、妥協を迫る業界人たちに抗って見せるパフォーマンスには、軽快な中にも鬼気迫るものが。永く忘れられない演技です。

フェリシア役の濱田めぐみさんは、艶やかなその声質は本来、ブラック・ミュージックではあまり聞かないタイプと言えますが、技術的に「それらしく」聞かせるのではなく、ミュージカルの発声で一音一音をクリアに聞かせつつも、歌に込められた人間の悲喜こもごもを細やかに表現。『アイーダ』『ウィキッド』『カルメン』等で虐げられる立場を演じてきた経験が、今回の役でも大きく活きているようです。ヒューイを愛しながらも、現実を見、自分の道を歩いてゆく女性像にも、濱田さんならではの力強さが。
『メンフィス』フェリシア役・濱田めぐみundefined撮影:田中亜紀

『メンフィス』フェリシア役・濱田めぐみ 撮影:田中亜紀

その他のキャストも入魂の芝居を見せていますが、特に目覚ましいのがヒューイの母、グラディス役の根岸季衣さんと、ラジオ局の掃除夫ボビー役の吉原光夫さん。グラディスは白人とはいえ、恵まれた生活を送っているとは言えないシングルマザーで、ヒューイとフェリシアの仲を知り、当初は言語道断と切り捨てます。それが次第に変化してゆく様を、根岸さんは思いのこもった「ソウルフル」な歌唱で表現、特にデルロイ、ボビー、ゲーター(JAY’ED)さんをバックダンサー風に従えた二幕のナンバーはとびきりクールで、ショー・ストッパー的に盛り上がります。掃除夫だったボビーがテレビ番組の撮影で「成り行き」的に歌手デビューを果たしてしまうシーンも、それまで音楽好きの黒人青年の中で積もり積もっていた情熱が一気に溢れ出てゆく様が、吉原さんの歌と爆発的なステップで炸裂。もう一つ目に焼き付けられるシーンとなっています。

舞台は終盤、やや哀愁を帯びて終わりかけますが、最後の最後に素敵なサプライズが。すべてを乗り越え、今ある生を「肯定」しようとするフィナーレは何とも爽快です。“ミュージカル、かくあるべし”と思わせる、傑作舞台の誕生です。


*次ページで『ラ・カージュ・オ・フォール 籠の中の道化たち』以降の作品をご紹介します!*

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