ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

2015年1~2月の注目!ミュージカル(2ページ目)

謹賀新年、皆さん初芝居は楽しまれましたか?さて、この冬は(様々な意味で)いい男が活躍するミュージカルが続々登場!『氷刀火伝 カムイレラ2』『メンフィス』『ラ・カージュ・オ・フォール』『Golden Songs』『モンティ・パイソンのSPAMALOT』『メリー・ウィドウ』『クリエ・ミュージカル・コレクション2』等をご紹介します。観劇レポートは随時掲載。また今回は松島まり乃的「2014年ミュージカル大賞」も!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド


【今月の1本 Pick of the Month JANUARY 】

氷刀火伝 カムイレラ2

1月28日~2月1日=IMAホール
『氷刀火伝』稽古よりundefined(C) Marino Matsushima

『氷刀火伝』稽古より (C) Marino Matsushima

【見どころ】
平安時代、東北の民「蝦夷(えみし)」の長として、侵攻する朝廷軍と闘った英雄アテルイの息子、ヒトカ。「美しいが、心は鬼」と呼ばれた少年は父の死後、再び戦に巻き込まれ、自らの生きる意味を見出す…。日本古代の北の民たちの生き様を描く、ミュージカル座「カムイレラ」三部作の第二弾がいよいよ誕生します。第一作『カムイレラ』(12年初演)では江戸時代の北海道でのアイヌと幕府軍の戦いが舞台でしたが、今回はその1000年前の東北が舞台。作者は同じ(藤倉梓さん)ですが物語的な関連性は無いため、第一作を観ていない方でも全く問題はないそうです。

主人公のヒトカ(氷刀火)を演じるのは、先だって『金魚鉢』で脚本家としての才気も見せた西川大貴さん。盟友、琅丸役は今年『レ・ミゼラブル』『アラジン』への出演も決定している海宝直人さん。ほか瀬戸早妃さん、今拓哉さん、木村花代さんら実力派俳優が集結し、“運命の子”の魂の成長と追われる民の哀しみを熱く、重厚に描き出してくれそうです。
『氷刀火伝』稽古よりundefined(C) Marino Matsushima

『氷刀火伝』稽古より (C) Marino Matsushima

【稽古場レポート】
1月初旬、北浦和のミュージカル座を訪ねると、氷刀火の不思議な能力によってパニックが起こるクライマックスの稽古が始まっていました。20名弱で数千の人々が逃げまどう様を表現すべく、振付の大塚庸介さん(イッツフォーリーズ)はアンサンブルの俳優たちのタイミングをずらし、段階的に動くよう提案。やってみると確かに場面に立体感が増して見え、俳優たちも納得しながら動きを体に入れています。
『氷刀火伝』稽古よりundefined(C) Marino Matsushima

『氷刀火伝』稽古より (C) Marino Matsushima

俳優からの質問、提案が飛び交い、少しずつ小返ししながら稽古は進行。丁寧な舞台づくりを統括するのは、台本・作詞作曲・演出を手掛ける新進気鋭のクリエイター、藤倉梓さんです。

テーマに“アイヌ”を選んだのは、小学生の時にアイヌの人々の踊りを観てその言語や美しい旋律、衣裳に魅了され、以来ずっと興味があったため。ヒトカについては現地で調査をしても二点ほどの情報しか見つからなかったが、それを逆手にとって『オイディプス王』『ハムレット』『出エジプト記』的なエッセンスを盛り込み、一つのフィクションとして台本を書き上げたのだそう。「例えば父を殺され、狂気じみたように見えて切れ者でもある点で、ヒトカにはアイデンティティを模索する青年、ハムレットを重ね合わせています。この役を西川大貴さんにお願いしたのは、彼のライブを観て、屈折した世界観がぴったりだと思ったから。ふだんはあて書きはしないのですが、“ここは彼に任せよう”と思ったりしながら台本を書きました」。
作・演出の藤倉梓さん。(C)Marino Matsushima

作・演出の藤倉梓さん。(C)Marino Matsushima

大学のミュージカル・サークル、東宝ミュージカル・アカデミーでの女優経験を経て、クリエイター・デビューをした藤倉さん。語り口に漲る“ミュージカル作りが楽しくてしかたない”オーラは、韓国ミュージカルの活況を支える大学路のクリエイターたちを彷彿とさせます。これからも「日本人として日本というテーマにこだわり、知られざるエピソードを発掘してどんどん舞台を創っていきたい」と、夢いっぱいの彼女。そんな藤倉さんを信頼し、活発な意見で稽古を盛り上げるベテラン俳優たちの姿が印象的です。月末にはきっと、密度の濃い歴史ロマンミュージカルが誕生することでしょう。

【観劇レポート】
『氷刀火伝』写真提供:ミュージカル座

『氷刀火伝』写真提供:ミュージカル座

後方の台に限定した、シンプルなセット。冒頭に現れた和洋折衷風衣裳の女性たちが平安の昔、蝦夷と朝廷の戦とその終焉を文語体で語りながら舞い、その後方で白装束の若者が、薄い装束の裾を翼のようにはためかせながら、コンテンポラリー・ダンス風に動きます。彼こそは本作の主人公、ヒトカ(西川大貴さん)。蝦夷の長、アテルイの忘れ形見です。本編はこのヒトカが父の死後行方不明となり、3年後に盟友、琅丸(海宝直人さん)によって発見されるところから始まります。当初は部族の長の宿命を拒むヒトカですが、坂上田村麻呂(今拓哉さん)率いる朝廷軍が再び攻め寄せ、決断を迫られる。人々の命が危険に晒される中で、彼の中の何かが変わって行く…。
『氷刀火伝』写真提供:ミュージカル座

『氷刀火伝』写真提供:ミュージカル座

己の持つ不思議な“力”に気付き、生まれてきた意味を悟るヒトカ。演じる西川さんのダンス力を随所で活かしながら、作品は少年の苦悩と覚醒を瑞々しく見せてゆきます。また琅丸という頼もしい友、“敵”役の田村麻呂、都落ち部族である物部氏のアトイ(木村花代さん)、長老の小飛(田中利花さん)ら、ヒトカに関わる人々それぞれに毅然として骨太の存在感があることで、物語世界がさらに力強いものに。特に、蝦夷の敵でありながら、実は彼らの文化に魅せられ、平和主義のドリーマー的な田村麻呂はヒトカに劣らず興味深い役ですが、この役を今拓哉さんが風格と清廉さをもって演じることにより、作品にさらなる奥深さが生まれています。木村花代さん、海宝直人さん、琅丸の父・母礼役の鎌田誠樹さん、田中利花さん、物部氏の男サルガ役・田中秀哉さんの揺るぎない歌声も印象的。
『氷刀火伝』写真提供:ミュージカル座

『氷刀火伝』写真提供:ミュージカル座

細かな点では、例えばヒトカの恋人(瀬戸早妃さん)にもう少ししどころがあれば等、これからさらに手を加えていけそうなポイントはあるものの、日本古来の物語、音、動きをミュージカルという形式に落とし込み、編み上げた意欲と手腕には大いに注目するべきでしょう。(作・演出・作曲=藤倉梓さん、振付=大塚庸介さん)。三部作の締めくくりとなる次回作への期待もいっそう高まります。


*次ページで『瀧廉太郎の友人、と知人とその他の諸々』以降の作品をご紹介します!

  • 前のページへ
  • 1
  • 2
  • 3
  • 8
  • 次のページへ

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます