クラシックCDアワード 2014 ワールド部門
国内外問わずのオールのランキングです。2014年に発売された新譜の中で、一体どのアルバムが1位に選ばれたのでしょうか? オススメの10枚をカウントダウンです!10位:管楽器とピアノ~レ・ヴァン・フランセの真髄
木管アンサンブルの最高峰による至芸
北:盛りだくさんですよね。木管楽器のアンサンブルとしては別格で、これ以上はないのでは?という出来なんじゃないでしょうか。かつてRCAから出したCDにも今回収録のプーランクの六重奏曲があって、あのプーランクを聴いた時も「すごいな、これ以上はないな」と思ったんですが、今回は更に練られていて、また一歩上を行く六重奏曲が聴けたという喜びが一つ大きいです。
大:巧みでチャーミングな感じ。ほんと、あっぱれって感じですね(笑)。
北:(笑)。あと、収録されているのが、フランスの作曲家、モーツァルト、ベートーヴェン、ロシアの作曲家と、国も時代もバラバラなのに、ものすごく高い次元で一つのレ・ヴァン・フランセのレパートリーとして演奏しているというのがもう一つの驚き。技術的、様式的な配慮も踏まえられていて、3枚通して聴くと、ある意味統一されているアルバムでもあるな、という印象です。あと、ピアノのルサージュがものすごく良い役割をしていますね。とにかくこれ以上、何も望むべくもないというか、アガリ的演奏と感じた盤でした。
峯:本当ですよね。編成が特殊ですから、どれも作曲家のメインのレパートリーとは言えず、CDも多くないところに、これだけの演奏家がこれだけの録音をするのは決定的ですよね。また、音楽ファンの間口を広げる意味でも、すごく意味を持っていると思いますね。ベートーヴェンやモーツァルトよりフランス系の曲の方がしっくり来ますが。
大:そうなんですよね。学生の時に木管楽器をやっていたものの今は滅多にクラシックを聴かないけれど、彼らのコンサートには行ってみた、という人の話も聞きました。CDでもコンサートでも、有名な曲があるわけではないのに、これだけ人を集められているのはすごいなと思いますね。
北:木管楽器のアンサンブルというと、今までは限定的なお客様が多かったですが、もうそれを超えているんでしょうね。一般的なクラシックファン、更にはそれ以上に認知され、音楽的にも超えている。
久:実際、管楽器っていう狭い分野じゃなくて、より広い方に聴いてもらえている気がしますね。
峯:それにしても、このメンバーでできるレパートリーは全部制覇する勢いですよね。
大:本当ですよね。それなのに3枚セットで出していいのかと(笑)。
北:もったいない感じもして(笑)。1枚1枚もアルバムとして十分成り立ちますしね。
大:でもほんと、レパートリーいつか終わりますよね、全曲。
峯:そうなったら、ベートーヴェンの交響曲とかやりだしたりして(笑)。
大:彼らは何を買っても何を聴いても最強な感じがしますが(笑)。
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9位:ラトル(指揮) シューマン:交響曲全集
ベルリン・フィルがこれからの音楽の在り方を世に問う自主制作盤
峯:日経新聞のディスク紹介ではなくて、普通の記事として紹介されたりして、社会現象というと大げさですが、音楽業界以外からも注目されたセットという感じがしましたね。演奏はもちろん良いのですけれど、これからのディスクのあり方として注目を浴びた、今年を代表する1枚、セットだと思いますね。
北:この後に、ロンドン交響楽団が自主制作したゲルギエフ指揮のベルリオーズ盤が、SACDハイブリッドに加えて、ピュア・オーディオ・ブルーレイ・ディスクが同梱。更にブルーレイ・ディスクにボーナス映像も。そういうのが出てき始めましたね。
峯:確実に影響していますよね。演奏については前回の座談会から付け足すことはないですけれど、でも、改めて聴いてみて3番『ライン』なんかは本当に良い演奏だなと。
久:『ライン』は一番好きですね。最初から引き込まれますね。
峯:ラトルは『ライン』が合っているかなと思いますね。
久:この後は、シベリウスの交響曲全集を出す予定という話でしたっけ?
北:そうでしたね。あと、アーノンクールのシューベルト交響曲全集。
久:続けてほしいですよね。こういうカタチで出したものを。
北:直接聞いたわけではないですが、オケ側としては反応が良かったと考えているみたいですね。
大:他のラトルの録音と比較してどんな受け入れられ方をしたと思います? 高額な商品だったので比較しづらいとは思いますが。
峯:そうですね、ラトルの商品というより、これはベルリン・フィルが前面に来ている印象ですよね。
北:過去に売れたものだと、彼らの2013年の『春の祭典』はとても売れましたね。
峯:確かにハルサイは売れました。ただ、メーカーの方針なのかもしれませんが、ラトルとベルリン・フィルは系統立てて録音してきませんでしたね。この10年やってきて何を残したの?というところだと、パッと答えられるものがないというか、最終的にこのセットになるのかもしれないですね。ここ10年の積み重ねというのがディスクとして記録されているものが少ないかなぁ。
大:確かに、そういうところで、これはまた意味があるかもしれないですね。
峯:今後出てくるものも期待ですね。この10何年かの集大成という意味で。
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8位:ベルグルンド(指揮) ショスタコーヴィチ:交響曲第8番、他
知匠の精緻な棒と、ベルリン・フィルのパワーの歴史的共演
北:シベリウスの名指揮者として知られるベルグルンドによる数少ないベルリン・フィルの定期コンサートの登場の最後から2番目。ベルリン・フィルはショスタコーヴィチのオケという認識はないかもしれませんが、実はショスタコーヴィチをよく演奏しているオケだと思うんですよ。それで、ベルリン・フィルがやると、一歩も二歩も抜きん出た表現、鳥肌が立つような演奏になっています。
大:これは思いのほか結構熱い演奏で驚きました!
北:ベルグルンドは、ショスタコーヴィチをボーンマス交響楽団と録音していて、8番はロシア・ナショナル管と残しています。解釈としては後者に似ているのですが、不思議なことにベルグルンドとベルリン・フィルの演奏は、熱い響きなんですけれど、弦に透明感が増したり、弦楽器が迫りくるクレッシェンドが怖いくらいの箇所があるんですよね。それはロシア・ナショナル管と入れた盤にはない要素。あと、最初から最後まで一本線が通っている。太いというか主張がすごく感じられる。5楽章でも、1楽章の最初の詩的なものを引きずっている。
当たり前ですがムラヴィンスキー(ショスタコーヴィチと親交のあったロシアの名指揮者)とはまた違うんですよね。西側のオケによる8番の名盤と言うと、ショルティとシカゴや、ハイティンクのも凄まじかったですが、それらに匹敵する秀逸な演奏じゃないかなと思いました。ただ、8番が好きな方というのは少し限られているかもしれませんが。
大:僕は8番好きですよ! この演奏は3楽章のおバカっぽさが少し足りませんでしたが(笑)。
北:それは確かに(笑)。テンポもそんなに速くないですし、追い込んではいないですよね。ただ、1楽章で金管が爆発してイングリッシュホルンのソロが入るちょっと前の弦楽器の怒涛のパワーとかは、ベルリン・フィルならでは。
大:そうなんですよね。1楽章4楽章5楽章などで特に巨大で深遠な演奏に引き込まれました。
峯:そしてまた、フィルハーモニー(ベルリン・フィルの本拠地のホール)の音響がショスタコーヴィチに妙に合っていますね。おどろおどろしい感じで、空間にドーンと響き渡る感じが。そういうのも雰囲気づくりに役立っている気がしますね。森のような。
久:黒い森のような(笑)。
北:また、この時代のベルリン・フィルのティンパニとコントラバスはすごいですね。これはびっくりしますよね。
峯:2000年前後のベルリン・フィルは割と指揮者陣が豪華だったというか、いろいろな放送音源があるはずなんですよね。これからフィルハーモニーでのいろいろなライブが出てくると良いかな。
北:そうですね。ギーレンがカラヤン時代のメンバーが残っているベルリン・フィルを振ったマーラーの7番を2013年に発売しましたが、それもかなり凄まじい演奏。年間で最も売れましたね。
大:あれも熱い演奏でしたね。ところで、ベルグルンドってリバイバル人気な感じなのでしょうか?
北:ディスクに偏りがあり、点数も少ないですから、大きなリバイバルというのにはならないかもですが、シベリウスは未だに売れていますね。
峯:シベリウスは定盤で売れていますね。
北:冷たい表現になるかなと思われるところもあるかもしれませんけれど、すごく考えられた理知的な指揮をする方だと思います。
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7位:アバド(指揮) ブルックナー:交響曲第9番
名匠アバドが到達した、ひたすら美しい最後の録音
久:正直に言って、もう元気ないのかな、と、聴く前はあまり期待していなかったのですが、思ったよりも力強くて、半年後に亡くなってしまうとは思えない演奏だと思いましたね。とにかくやっぱり美しい。息の長い旋律をたっぷり歌わせる美しさは、晩年のアバドの特徴というか、大編成のオーケストラでもすごく美しく聴かせてくれていて、良い演奏だなと思いました。
大:本当ですよね。迫力ある部分はちゃんと迫力ありますけど、何より透徹した美しさや自然なポジティブさのようなものを感じました。
久:要素が増えるところで音を整理しきれていないような場面も若干ありますけれど、ルツェルン祝祭管弦楽団はアバドが組織した名人集団のオケということもあり、信頼関係の強さをすごく感じますね。実はこの日、アバドはかなり調子が悪かったそうですが、アバドとオケの意思疎通がきちんとでき、オケが意を汲んで演奏できているというか、単にルツェルンが名人集団だからというより、アバドとルツェルンの信頼関係の強さを感じる気がしましたね。
北:結局中止となったこの後の日本公演では、この曲を振る予定だったんですよね。アバドというと、あまりブルックナー指揮者という印象が薄かったんですが、これはテンポも遅くなって。ジュリーニやバーンスタインもそうですが、なぜか晩年に9番を録音する人が多く、どれもが独特な一期一会の演奏になっていますね。
大:最後の録音がブルックナー9番といわれると、どうしても気になっちゃいますね(笑)。
北:それはありますね。これは買っておかないと、という意識にさせる(笑)。
久:自分は昔アバドをあまり評価していなくて、晩年になってから割と好きになってきたんですけれど、ルツェルンと言わず、大病した後にベルリン・フィルを振ったワーグナーがすごく好きで、ワーグナーというと、英雄的で攻撃的な音楽というイメージだったのが変わったというか。タンホイザーがとにかくきれいで、その時とこのブルックナー9番は同じ印象ですね。
峯:ルツェルンを振り始めてからの最後の10年くらいで、昔からアバド嫌いだった人たちに随分と見直されたでしょうし、モーツァルト管弦楽団との活動と並んで最後の幸せな指揮者人生だったのかなと。1枚1枚CDが出る度、演奏会がある度にそういう感想を持ちました。自分の好きなようにやっているなぁと。
大:だんだん故人を偲ぶ会な感じに……(苦笑)。あと、そう、これ、CDを取るとアバドがステージから降りる写真が出てきて、また寂しいんですよね。
久:バーンスタイン最後の演奏会ライヴもバーンスタインが去る写真が使われていましたね。
峯:アバドはザルツブルク音楽祭でマーラーを振って華々しく登場し、マーラー全曲を2種類録音して、ブルックナーは一部でしたけど、ベートーヴェンもブラームスも入れて、モーツァルトも協奏曲も相当入れた。しかもメジャーレーベルに。クラシックのレパートリーはほぼやりつくしたんじゃないかっていうくらい、充実した人生だったんじゃないでしょうか。って、なんかどうしても惜別になっちゃいますね……。
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