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J-POPのジャズメンおススメ三選 昭和編(2ページ目)

1980年代に生まれたJ-POPという呼称。それまでニューミュージックと呼ばれていたジャンルが普通の歌謡曲との違いを表明したものです。洋楽に負けない日本発のおしゃれな音楽を目指したJ-POPには、多くのジャズメンがサイドメンとして参加しています。今回は、その中でもJ-POPの黎明期、昭和のJ-POPに参加したジャズメンをご紹介します。

大須賀 進

執筆者:大須賀 進

ジャズガイド

石黒ケイ 「アドリブ」より「暗闇のラブ・ソング」アルトサックスソロ アート・ペッパー

 

アドリブ

アドリブ

石黒ケイは、この「アドリブ」を入れた1980年当時、次作「アンダートーン」も含めてジャズ歌謡という独自の路線を開拓した、女優業もこなすシンガーソングライターです。

「アドリブ」はその石黒の出世作。共演するミュージシャンの豪華さでも興味深いアルバムと言えます。参加している生粋のジャズメン、アルトサックス奏者のアート・ペッパーは、もともと唄伴が得意なミュージシャンです。

アートはビッグバンド出身なので、譜面にも強く、プロ中のプロのサックス奏者と言えます。そのアートが大真面目に、ジャズ歌謡の石黒の曲を演奏しているのが、この作品です。

石黒のサウンドは、声質や歌い方に独特のアクはありますが、トータルな世界観はやや希薄。声の質は、硬く暗く、フォーク世代のような時代観を感じさせます。

そんな中、アートのサックスは、ジャズそのもの。確かに、イントロとエンディングのアレンジされた決めフレーズは、あまりに歌謡曲的ではありますが、アートのプレイ自体はやはりジャズとしての矜持を保った演奏と言えます。

イントロやエンディングは、おそらくは譜面に書いてあるか、アレンジャーの指示通りに吹いたのでしょう。その辺に、晩年に至っても仕事人としてのアートの真面目さを感じさせ微笑ましいところでもあります。

いずれにしても、今日アートが参加したJ-POPが残されたという事実だけでも、貴重な作品と言えます。

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そのアートのジャズ唄伴の決定版と言えば、何と言ってもこの作品。メル・トーメの「スウィングス・シューバート・アレイ」です。
 
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「スウィングス・シューバート・アレイ」

全曲これぞ唄伴サックスの見本といったキレのある快演を聴くことができます。特に一曲目「トゥー・クロース・フォー・カムフォート」は白眉。

アート・ペッパーは、前期と後期ではスタイルが全く違ってしまったアーティストです。両方好きというファンはむしろ少なく、大体においてどちらのアートが良いかという議論になります。私は、断然前期の方が素晴らしいと思います。

なぜならば、前期には、サックスの音色やフレージングに匂い立つような艶があったからです。そのオーラとも思える艶はアートにしか表現できないものでした。

アートのサックスは、同時代に活躍したアルトサックスの中でも異色です。この時代はモダンジャズの最盛期。多くの名人がいましたが、大方のアルトサックス奏者はチャーリー・パーカーの影響を受けていました。

そしてそのパーカーのスタイルは、コード進行の細分化によるフレージングの妙味であり、音自体はフラットにフルで鳴らされるものです。どんなに超スピードで吹き鳴らされたとしても、音自体の、ヴォリュームバランスはほとんど一定ということです。

アートは、そのチャーリー・パーカーを「音が汚いから嫌いだ」と公言した、数少ないアルト奏者です。アートは、フレージングというよりもむしろ、音の強弱で勝負するタイプ。ふわふわと幾分はね気味の音出しもユニークそのもの。その音自体の強弱が、スピード感を産み、聴くものに緊張とスピード感を味わわせてくれるのです。

この「トゥー・クロース・フォー・カムフォート」での短いソロでも、アートの切れ味が存分に表れています。メルの歌唱もベスト。このアルバムは全曲が楽しい、ジャズヴォーカルファンにも超おすすめの一枚です。

次のページには、たった一枚のアルバムを残して忽然と消えたシンガーソングライターの作品が登場します!

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