青江三奈「ザ・シャドウ・オブ・ラブ」より「クライ・ミー・ア・リバー」
THE SHADOW OF LOVE
青江三奈といえば、なんといっても「シュドゥビ・ドゥビドゥビ・ドゥビドゥバー」の「伊勢佐木町ブルース」が有名です。ハスキー・ヴォイスで、ルックスからも大人の女の色香を漂わせた昭和を代表する歌手の一人です。
その演歌歌手のイメージが強い青江三奈が、ジャズの本場ニューヨークで現地のミュージシャンと共演したアルバムがこの「ザ・シャドウ・オブ・ラブ」です。
ここでは、なんといっても一曲目の「クライ・ミー・ア・リバー」が聴きものです。イントロは、ニューヨークの夜を徘徊するような、ミステリアスな雰囲気。映画音楽のような洗練された音を、かき分けるように青江のハスキー・ヴォイスが、歌いだします。ベースのジョージ・ムラーツの生々しい音が、臨場感を高め、まるですぐそばで青江が歌っているような錯覚に襲われます。
青江の良さは、何と言ってもハスキーなその声にあります。英語は決してうまいとは言えませんが、そういった欠点を感じさせないほど、この曲との相性はバッチリです。
途中のグローヴァー・ワシントン・Jrによるソプラノ・サックスソロも軽やか。演奏の流れを重くせず、なおかつ都会的なムードを醸し出しています。
単身ニューヨークに乗り込んで、念願のジャズ・ミュージシャンと自分の好きなジャズを思いっきり歌ったこのアルバム。日本でのヒット曲は数多くある青江ですが、本当はこういったジャズを歌いたかったのでは? と思わせる出来です。
自分の良いところをすべてわかったうえでの選曲は、そのまま青江のこのアルバムへの思いを感じさせ、アルバムを通して飽きが来ない作品になっています。
特に聴きとおして感じるのが、「ラブ・レターズ」や「グリーン・アイズ」などのラテンタッチのナンバーにおける、伴奏陣が奏でるリズムの心地よさです。
エキゾチックで非常にゴージャスな大人のラテンサウンドに、歌う青江とフレディ・コールも心地よく乗っているのが良く分かります。
ミュージシャンの人選やアレンジなど、青江や企画したプロデューサーのセンスの良さも感じとることができる一枚です。
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最後におまけ
ジュディ・オング「ジャズ・スタンダードを歌う」より「スターダスト」
ジャズ・スタンダードを歌う
これは、迷いましたが、どうしても好きな一枚なので、ご紹介します。1979年「魅せられて」の二百万枚大ヒットで有名なジュディ・オングがジャズを歌った「ジャズ・スタンダードを歌う」よりの曲「スター・ダスト」です。
このジュディの「スター・ダスト」は、前述した美空ひばりほどの深みはありません。また、江利チエミのようなテクニックも、青江三奈のような強烈な個性もありません。その代わりに、夜空を一瞬にして輝かせる流れ星のような、はかない美しさがあります。ジュディの良さは英語のうまさと、容姿の良さ、そして声の上品さです。思春期に見た、ジュディの「魅せられて」での大人の女性を感じさせる妖艶さは、そうそう忘れられるものではありません。その記憶が、もしかしたらこの歌唱を何倍にも素晴らしく感じさせているのかもしれません。
それでも、音楽というものが、最後にはあくまで個人の主観による評価しかできないことを考えると、ファンの存在と言うものがそういった肩入れによってなっているのも事実です。
一ジャズファン、ジュディ・オングファンとしての私が、本当は教えたくなかった秘蔵の名唱が、この「スター・ダスト」です。
今回の、昭和の歌謡界の歌姫によるジャズ、いかがでしたか? 昭和に産まれ生きてきた私にとっても、楽しいご紹介となりました。また、時期を見て昭和の歌姫シリーズをやりたいと思います。では、また次回お会いしましょう!
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