どれもが、秋を表しています。秋はそれほどにいろいろの顔を持つ季節です。そして、忘れてならないのは、恋をするにもピッタリの季節だということです。そんな大人な季節の秋には、やはり大人の音楽が似合うもの。
昔から、秋をテーマにした楽曲や歌は多くありました。ジャズの世界でも例外ではありません。
今回最初にご紹介するのは、元々はビッグバンド・ジャズの人気楽団、ウッディ・ハーマン楽団のヒット作。水も滴るような若き日のスタン・ゲッツをフィーチャーし、文字通りゲッツの出世作となったこの曲です。ここでは、そのゲッツとも因縁浅からぬヴォーカルのバージョンをご紹介します。
「アーリー・オータム」アニタ・オデイ「シングス・ウィナーズ」より
シングス・ザ・ウィナーズ
少々大音量すぎるビッグバンドの音に張り合ってしまっては、この曲の持つ初秋のはかない風情は台無しになってしまいます。歌としては音程を取るのが難しいこの曲を、アニタはメロディに注意して丁寧に歌っています。結果として、アニタの歌のうまさが一際引き立つ出来になりました。
アニタは、子供の頃に扁桃腺(へんとうせん)を手術により失い、ビブラートができなくなりました。そこで、アニタは、同じ音を何回も歌うという独自の唱法をあみだしたのです。
その上、アップテンポの曲では、モダン・ジャズ期のホーン奏者同様、ビブラートを使わない歌い方。それが、ハスキーヴォイスとも相まって、切れの良い独自のスタイルへと発展しました。
子供の頃から、自分でお金を稼いでいた鉄火肌のアニタ。ジャズ・ヴォーカルとして大成してからは、その実力と雰囲気から、「ジャズ界の悪女」、「ザ・イザベル・オブ・ジャズ」(The Jezebel of Jazz)と呼ばれました。
イザベル(Jezebel)とは、旧約聖書にのっている悪女です。今日では、実力のある清純派ではない女性、つまりは魅力と権勢を合わせ持つ悪女をさす言葉になっています。ジャズ界の悪女とは、歌と男と金と薬、奔放に生きたアニタのことをまさに言い当てている言葉です。
アニタは、1940年代初頭のスウィング時代に人気のあったスタン・ケントン楽団で大スターの仲間入りをしました。そのケントンの楽団時代が、人気と実力がかみ合った最初の絶頂期と言えます。
丁度そんな時期に、駆け出しのテナーだったスタン・ゲッツが、ジャック・ティーガーデンの楽団から移ってきました。当時のゲッツはまだ10代。この後にウッディ・ハーマン楽団に移り大ヒットを飛ばす前です。
スタン・ケントン楽団に入ってきたゲッツは、まだまだ若すぎて、ソロを取らせてもらえませんでした。なんとかソロを取りたいやんちゃなゲッツが泣きついたのが、8歳年上の姉御肌のアニタでした。
ゲッツはアニタの口利きでようやくソロを取らせてもらえるようになったのです。いわば、はじめて一人前にしてやったのがアニタと言えます。
ちょっと蓮っ葉だけど、実力があり、面倒見がよいジャズ界の姉御、「ザ・イザベル・オブ・ジャズ」の面目躍如たるエピソードです。
その世話を焼いてやったゲッツが、数年後にはジャズ界を代表する人気サックスプレイヤーとなりました。アニタはうれしかったに違いありません。
ゲッツの成功のきっかけとなった出世作「アーリー・オータム」を、今度はアニタがまるでゲッツの成功を祝福するかのように、大勢の男のミュージシャンを従えて、抑制のきいた堂々たる歌唱で貫録を見せます。
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アニタの熱唱は、他にも、以前ご紹介した「真夏の夜のジャズ」という映画でも観ることができます。アニタの魅力に必ずやノックアウトされるおススメのジャズ映画です。
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次のページでは、人生の終わりに近づいたテナーマンが、わが身の秋を振り返りながら奏でる曲の登場です!
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