『マザー・テレサ 愛のうた』
11月17~23日=シアター1010ミニシアター『マザー・テレサ 愛のうた』
『ひめゆり』をはじめ多数のオリジナル・ミュージカルを送り出してきたミュージカル座の最新作。「無償の愛」を体現し、多くの人々に生きる勇気と感動を与えてきたマザー・テレサの人生が、コンサート形式で綴られます。脚本・作詞・演出・振付を手掛けるのは、彼女の言葉を歌にしたステージをと、長年構想を抱いていたというハマナカトオルさん。作曲・編曲・音楽監督はtakさんが担当します。
マザー・テレサ役は土居裕子さん。当初はこの大役のオファーにしり込みしたそうですが、マザー・テレサが最も精力的に活動した年代にご自身がさしかかったこともあり、「後悔したくない」と決意されたそうです。清廉な歌声がマザー・テレサにぴったりの土居さんが、彼女の慈愛に満ちた言葉をどう歌で表現するのか。光枝明彦さん、先日「Studio 323ミュージカル・アサ・コンサート」でも活躍されていた阿川建一郎さんら、脇を固めるキャストも魅力的。心に沁みるひとときとなりそうです。(すでに売り切れ日もアリ。)
『マザー・テレサ 愛のうた』 写真提供:ミュージカル座
後方中央にヴァイオリン、ピアノ、ギターの3人編成のバンドが位置し、彼らを挟む形で、柔らかな表情の出演者たちが登場。前方のマザー・テレサ役、土居裕子さんが口上を述べると、舞台は「マザー・テレサ」の生涯を歌と芝居で綴り始めます。マケドニアの裕福な家庭に生まれた少女アグネスは、母親や本を通して知った聖者たちの影響を受け、修道女となってインドの貧しい人々の傍に赴くことを決意する。コンサート形式と銘打たれてはいますが、役者たちが完全に歌詞や台詞を体に入れ、スペースをフルに使って動くため、印象としてはかなりフル・ステージに近い仕上がりです。
彼女が「マザー・テレサ」としてカルカッタで活動し、ノーベル平和賞を受賞するに至る経緯は、ともすると美談の羅列で演劇的には平板に見えてしまう可能性もあったかもしれませんが、本作では行き倒れた病人を病院に担ぎ込み、診察を待ち続けるエピソード、瀕死の人々の最期を看取っていた彼女たちが施設を追い出されそうになるエピソードなどを効果的に盛り込み、劇的な起伏のある2時間弱となっています。
『マザー・テレサ 愛のうた』写真提供:ミュージカル座
Takさんによる音楽は、切々と歌い上げる王道ミュージカル調からゴスペル調、ブルース調まで多彩。狂言回しの新聞記者役、光枝明彦さんをはじめ、温かみのある声質の男性キャスト(tekkanさん、阿部よしつぐさん、五大輝一さん、阿川建一郎さん、及川心太さん)が作品をカラフルに盛り立て、女性陣も情感をこめて歌っています。「いいことをするときは、海に石を投げるように、誰にも見られてはいけない」「世の中で一番ひどい飢えは、自分は誰からも必要とされていないという飢え。それは愛によってしか満たされない」「私たちには今日だけがあるのです」等々、作中にはマザー・テレサやその母による「心に残る言葉」も多数。信仰にかかわらず、観る者を溢れるような優しさで満たす舞台です。再演の際にはお見逃しなく!
*次ページで『金魚鉢』をご紹介します!