おまけ:映画『不機嫌なママにメルシィ!』
監督・脚本のギヨーム・ガリエンヌが、本人と母親の二役を演じているからスゴイ!
(C)2013 LGM FILMS, RECTANGLE PRODUCTIONS, DON’T BE SHY PRODUCTIONS, GAUMONT, FRANCE 3 CINEMA, NEXUS FACTORY AND UFILM
緊張の面持ちで鏡台に向かっているギヨーム。やおら道化師風のメイクを落として素顔になったギヨームは、楽屋から舞台へと進み、客席に向かって自らの風変わりな半生を語りはじめます。
ギヨームは裕福な家庭に生まれ、3人の男兄弟の末っ子で、ママンから女の子のように(ゲイだとみなされて)育てられます。スポーツが苦手なせいで父親には「男らしくしろ」とにらまれますが、それでもママンやおばあちゃん(彼を「私のお人形さん」と呼んでいます)や親戚のおばさんたちに愛され、ときどき自分が貴婦人(オーストリア皇后シシィと教育係ゾフィ大公妃とか)であるかのように妄想したり、ママンのマネをしたり(家族にも間違われるくらいソックリに)、そのうちいろんな女性を観察して仕草や息遣いを学んだりして「女子力」を高めていきます。
そんなギヨームも中学くらいになると、父親に男子ばかりの寄宿舎に入れられます。夜中の恐ろしい光景(みんなが一斉に性的な行為を…)に震え、いじめられ、それでも、合唱で拍手を浴びたり(曲は「We are the Champions」笑)、優しい男の子に恋したり、失恋のショックで落ち込んだりしながら、紆余曲折、波乱万丈な思春期を経て、とうとう本当の自分の幸せを見つけるのです…
自分のことをずっと女の子だと思っていたギヨームがママンに「(あなたは間違いなく)ゲイよ、冗談は顔だけにして」と言われてビックリしたり、精神科の先生がギヨームについて書いた診断書を読んだ別の医師が「これはひどい…ウララー」と顔色を変えたり、(同性愛者で知られるルートヴィヒ2世にちなんでバイエルンの)スパに行ってマッチョな整体師に痛めつけられたかと思うと肛門にホースを突っ込まれたり、荒くれ男たちに輪姦されそうになったり、「馬並み」のイチモツにショックを受けて乗馬教室に通いはじめたり、とにかく笑えるエピソードが満載です(ゲラゲラというよりは、クスクスって感じ)
ギヨームのママンがなぜ「不機嫌」だったのか、ギヨームはどのようにして俳優になったのか、ギヨームにとっての本当の幸せとは何だったのか、終盤、あっと驚く展開が待っています(意外と泣けちゃうかも…)
同性婚も認められたフランスではゲイなんて珍しくもなんともない存在になっていると思いますが(それでも、あの父親のように「男らしさ」を強制されたり、学校でいじめられたりするわけですが)、ゲイが当たり前になった時代においてなお、小説よりも奇なる事実(実存)があるということ、(近年LGBTという言い方が正しいとされてきていますが)いわゆる「ゲイ」とか「トランスジェンダー」とかいうカテゴライズでは言い表せないような、まさに「クィア」と呼ぶほかないありようがあると、この映画は雄弁に物語っています。人間のセクシュアリティの奥深さに、きっと誰もが感じ入るところがあるはずです。
映画の時間軸が複雑で(自在に過去のエピソードを行き来する)、どこまでがリアルでどこからがフィクションなのかが判然としないつくり(心象風景を映像化する表現が多々ある)だったりもして、ちょっととっつきにくいかもしれませんが、よくある自伝映画でもなく、ファンタジー作品でもない、そして音楽の使い方も面白い、とてもユニークなエンタメ作品になっていると思います。
「不機嫌なママにメルシィ!」
2013年/フランス=ベルギー合作/配給:セテラ・インターナショナル/監督・脚本・出演:ギヨーム・ガリエンヌ/出演:アンドレ・マルコン、フランソワーズ・ファビアン、ダイアン・クルーガー、レダ・カテブほか/新宿武蔵野館ほかで公開中