ベルギー/アントワープ

美術の宝庫、アントワープで名画・名作めぐり(2ページ目)

ブリュッセルに次ぐベルギー第2の都市アントワープ。15世紀以降、欧州交易の中心がブルージュからアントワープに移り変わると、豊な文化を持つ港町として栄えました。街は、美術館だけでなく、教会も、ルーベンスなどバロック期や初期フランドル派の芸術作品の宝庫。しかも、大きな美術館見学に終日かけなくても、街歩きしながら気軽に鑑賞することができるのが魅力です。

栗田 路子

執筆者:栗田 路子

ベルギーガイド

聖母大聖堂

ルーベンスの大作3点がある

アントワープのシンボル聖母大聖堂

アントワープといえば、見逃すことができないのが聖母大聖堂でしょう。1300年代から1500年代に渡り、170年かけて建てられたこの堂々たる大聖堂の特徴は、左右の塔が非対称なこと。向って左側の塔は、123メートルあり、現オランダとベルギー北部を含むこのあたり一帯では最も高く、まるでレースのような繊細な彫刻が施されています。教会の中は、驚くほど多くの芸術作品で埋め尽くされています。

必見はやはりルーベンスの大作、『キリストの昇架』(1609-1610)、『キリストの降架』(1611-1614)、『聖母被昇天』(1625-1626)です。イタリアから戻って最初に仕上げた大作とされるのが『キリストの昇架』。その後に描かれた『キリストの降架』には、当時のアントワープ市長で、この絵を注文したニコラス・ロコックスの姿も描きこまれています。これらの2作品では、カラヴァッジョら、イタリア・バロック絵画の巨匠からの影響が見て取れますが、主祭壇を飾る『聖母被昇天』では、彼独自の表現法が確立されています。ルーベンスは同じテーマで他に何点か仕上げていますが、この大聖堂のものが最も美しいと言われています。

ちなみに、聖母大聖堂とここにあるルーベンスの大作は、日本人にとっては、物語『フランダースの犬』であまりにも有名。ルーベンスのような画家になることに夢見たネロ少年は、貧しさと世間の冷たさに精魂尽き果て、クリスマスの晩によろよろとたどり着いたこの大聖堂の中で、はじめてルーベンスの大作を目の当たりにし、「神様、もう思い残すことはありません」と言って天に召されたのです。でも、あれはあくまでフィクション。ベルギー人の祖母を持つ英国人作家によって英語で書かれた悲劇の物語なので、現地ベルギーでは全く知られていません。物語のあらすじを伝えると、「ベルギー人は、身寄りのないかわいそうな子どもや犬を非人道的に扱ったりしない!」「日本人は、なぜそんな理不尽な児童文学が好きなんだ!」と怒られてしまうかもしれません。

<DATA>
Onze-Lieve-Vrouwekathedraal (聖母大聖堂)
住所:Groenplaats 21, 2000 Antwerpen
TEL:+32 (0)3 213 99 51
入場日時:月~金10:00-17:00、土10:00-15:00、日13:00-16:00
(ただし、葬儀といった宗教上の儀式の際は入場できません。)
入場料:大人6ユーロ、グループ(+20人)と学生4ユーロ、12歳未満無料


聖ヤコブ教会

現在修復工事中で入れない

ルーベンスの墓所のある聖ヤコブス教会

ルーベンスとその家族の墓のある聖ヤコブ教会は、15世紀から17世紀にかけて建設されました。もともとは、巡礼者のためのチャペルで、サンチャゴ・デ・コンポステーラへの巡礼の道のひとつにも含まれています。現在、2018年に終了予定の修復工事の最中で、通常は中に入ることはできないのですが、突然例外的に入れてくれる日もあるようなので、ルーベンス・ファンの方は立ち寄ってみる価値があるかもしれません。

ルーベンスの墓所は主祭壇の裏にあり、墓石の上部には、彼の遺書通りに、彼自身の手による『聖人に囲まれる聖母』が飾られています。かつて富裕層が暮らした地区らしく、教会の中は、大理石の彫刻作
ルーベンスが自分の墓のために描いた名画が

中に入れなくても、教会外に説明が

品が多く、贅沢の粋を尽くした豪華な内装となっています。

<DATA>
Sint-Jacobskerk (聖ヤコブ教会)
住所:Lange Nieuwstraat 73-75, 2000 Antwerpen
TEL:+32 (0)3 232 10 32
入場日時:4月1日~10月31日 毎日14:00-17:00
入場料:大人2ユーロ、グループ(+20人)1.5ユーロ、12歳未満無料


聖カロルス・ボロメウス教会

(c)www.milo-profit

建築家としてのルーベンスを見るために

1615年から1621年にかけてイエズス会士によって建てられた典型的なバロック教会です。興味深いのは、ルーベンスが、画家としてではなく、外装、塔頂上の装飾、そして内装を手がけたという点です。内部が豪華な大理石で飾られたこの教会は、創建当時、この世のパラダイスとまで言われたそうです。創建からおよそ100年後、落雷による火災によって、残念ながら多くが失われてしまいましたが、今でも主祭壇の後陣と聖母礼拝堂はオリジナルの美しい姿を留めています。

聖母礼拝堂に飾られていたルーベンスによる『聖母被昇天』のオリジナルは、現在ウィーンの美術史美術館にあり、今そこに飾られているのはその複製です。

この教会でユニークなのは、主祭壇に飾られる絵画がミサのテーマによってかけ替えられること。もともと4枚の絵画が用意され、ひとつが主祭壇にかけられ、残りの3枚は主祭壇裏の保管所に収められていました。しかし、4枚のうちルーベンスによる2枚が、ウィーンにあるため、現在は、残る2枚と、その後19世紀に加えられた1枚との合計3枚がかけ替えられています。

<DATA>
Sint-Carolus Borromeuskerk (聖カロルス・ボロメウス教会)
TEL:+32 (0)3 231 37 51
入場日時:月~土10:00-12:30、14:00-17:00
水曜日のみ10:00-12:30、14:00-16:00、入場料:無料
※教会内のレース室も見学可。


聖パウルス教会

内部とのコントラストが激しい

ゴルゴダの丘のオブジェに圧倒されます

17世紀、かつてドミニコ会修道院のあった場所に建てられた教会です。まず教会の中に入る前に驚かされるのは、教会の入り口上部に施されたグロテスクとも言えるような建造物でしょう。これは、18世紀に造られたもので、ゴルゴダの丘で十字架にかけられるイエス最後の情景を表現した作品です。

教会内部には、多くの絵画が飾られ、まさしくバロック絵画の美術館そのもの。ルーベンス、ヴァン=ダイク、ヨールダンス、コルネリウス・デ・ヴォス、その他、バロック時代の巨匠たちが描いた15枚の『ロザリオの神秘』。それらは、1617年頃、今ある場所に飾られて以来、全く動かされていないのだそうです。すべて同じ大きさで、等間隔に並べられているため、画家それぞれの特徴を比較しながら見ることができます。

ロザリオのチャペルは左手に

内部は明るく美しい主祭壇

また、『ロザリオのチャペル』には、もともと、イタリア・バロックの巨匠カラヴァッジョが1605年に描いた『ロザリオのマドンナ』があったのですが、オリジナルは18世紀末に、ヨセフ2世によって買い取られて、現在ウィーンの美術史美術館にあるため、今、ここで見られるのは複製。とはいえ、ルーベンスらに強い影響を与えたカラヴァッジョの作品も同時に鑑賞できるのでぜひに。

<DATA>
Sint-Pauluskerk (聖パウルス教会)
住所:Veermarkt 14, 2000 Antwerpen
Tel:+32 (0)3 231 33 21
入場日時:4月1日~10月31日 毎日14:00-17:00
入場無料
  • 前のページへ
  • 1
  • 2
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※海外を訪れる際には最新情報の入手に努め、「外務省 海外安全ホームページ」を確認するなど、安全確保に十分注意を払ってください。

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます