建物譲受人による看板の撤去要求の可否(最判平成25年4月9日)
1 事実と判決内容【事実の概要】
建物の地下1階部分を賃借して店舗を営む者が建物の所有者の承諾の下に1階部分の外壁等に看板等を設置していた場合において,建物の譲受人が賃借人に対して当該看板等の撤去を求めることが権利の濫用に当たるとされた事例(最判平成25年4月9日)
渋谷駅周辺の地下街にある建物の地下1階部分を賃借してそば屋を経営するYが、その建物の所有者の承諾を得たうえで1階部分の外壁等に看板等を設置していたところ、その建物全部を譲り受けたXが、Yに対し、所有権に基づき、地下1階部分の明渡しと賃料相当損害金の支払を求めるとともに、上記看板等の撤去をも求めた事案です。
【高等裁判所の判断】(東京高等裁判所 平成24年6月28日)
「本件建物部分の賃借権には本件看板等の設置権原は含まれていないとした上で、Yによる本件看板等の撤去請求が権利の濫用に当たるような事情は見受けられない」
として、Yの請求が容認されました。
【争 点】
Yの看板等の撤去の要求が権利濫用に当たるかが争点となりました。
【最高裁判所の判断】 Yの請求を棄却
「本件看板等は、本件建物部分における本件店舗の営業の用に供されており、本件建物部分と社会通念上一体のものとして利用されてきたということができる。Xにおいて本件看板等を撤去せざるを得ないこととなると、本件建物周辺の繁華街の通行人らに対し本件建物部分で本件店舗を営業していることを示す手段はほぼ失われることになり、その営業の継続は著しく困難となることが明らかであって、Xには本件看板等を利用する強い必要性がある。」
「他方、上記売買契約書の記載や、本件看板等の位置などからすると、本件看板等の設置が本件建物の所有者の承諾を得たものであることは、Yにおいて十分知り得たものということができる。また、Yに本件看板等の設置箇所の利用について特に具体的な目的があることも、本件看板等が存在することによりYの本件建物の所有に具体的な支障が生じていることもうかがわれない。」
と判断して、Yの看板等の撤去の要求が権利の濫用にあたるとしました。
2 こんな出題が予想されます
【予想問題】 次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、誤っているものはどれか。(選択肢省略)
- 建物の地下1階部分を賃借して店舗を営む者が建物の所有者の承諾の下に1階部分の外壁等に看板等を設置していた場合において、建物の譲受人が賃借人に対して当該看板等の撤去を求めることは権利の濫用に当たる可能性がある。
《解 説》
⇒ 正しい 繁華街に位置する建物の地下1階部分を賃借して店舗を営む者が建物の所有者の承諾の下に1階部分の外壁等に看板等を設置していた場合において、建物の譲受人が賃借人に対して当該看板等の撤去を求めることは、次の(1)~(4)などの事情の下においては、権利の濫用に当たるとされました(最判平成25年04月09日)。
(1) 上記看板等は、上記店舗の営業の用に供されており、建物の地下1階部分と社会通念上一体のものとして利用されてきた。
(2) 賃借人において上記看板等を撤去せざるを得ないこととなると、建物周辺の通行人らに対し建物の地下1階部分で上記店舗を営業していることを示す手段はほぼ失われ、その営業の継続は著しく困難となる。
(3) 上記看板等の設置が建物の所有者の承諾を得たものであることは、譲受人において十分知り得たものである。
(4) 譲受人に上記看板等の設置箇所の利用について特に具体的な目的があることも、上記看板等が存在することにより譲受人の建物の所有に具体的な支障が生じていることもうかがわれない。
3 学習のポイント
本件は、権利関係(民法)の一般規定である権利濫用が問題となった事案です。権利濫用はとても抽象的な概念なので、テキスト等でその定義を学習しても直接点数につながるようなことはありません。それよりも、重要性の高い最高裁判例をいくつか読んでおく方が点数につながります。
過去問を利用して権利濫用の判例を学習しておきましょう。
余裕があれば、以下の判例を読むとよいでしょう。
・隣接居宅の日照通風を妨害する建物建築につき不法行為の成立が認められた事例(最判昭和47年6月27日)
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51918
・ 隣接地に下水管を敷設する工事の承諾及び当該工事の妨害禁止請求が権利の濫用に当たるとされた事例(最判平成5年9月24日)
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52781
・一体として利用されている二筆の借地のうち一方の土地上にのみ借地権者所有の登記されている建物がある場合において両地の買主による他方の土地の明渡請求が権利の濫用に当たるとされた事例( 最判平成9年7月1日)
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=54790