ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

Creators Vol.3 『女神様が見ている』の若き作者たち(2ページ目)

50年代の朝鮮戦争を舞台に、無人島に打ち上げられた南北軍人たちの人間ドラマを描き、昨年の初演から大評判をとっている『女神様が見ている』が来日中です。本作で一躍脚光を浴びた脚本家、演出家、作曲家は、どんな過程を経て本作を練り上げていったのでしょうか。現在の韓国創作ミュージカルの勢いを象徴する、夢と希望に満ちた若い才能たちの声をお届けします!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

たった一ページの記述からインスピレーションを得て

――次に内容についてうかがいたいのですが、ジョンソクさんは当初から朝鮮戦争を描きたかったのですか?それとも設定としてたまたまこのシチュエーションになったのでしょうか?
『女神様が見ている』来日公演より (C) アミューズ2014

『女神様が見ている』来日公演より (C) アミューズ2014

ジョンソク「ロマン・ガリというフランスの小説家の作品(注・『空の根(邦題・自由の大地)』と思われます)に、フランスの捕虜収容所の逸話として、そこに貴婦人がいるという仮想によって捕虜たちが野蛮にならず、安定と秩序の中で生活することができたというエピソードがあります。たった一ページほどの記述なのですが、そこからアイディアを膨らませたのが本作です」

――そのエピソードの何があなたの心を掴んだのですか?

ジョンソク「人間を救うのも破滅させるのも人間だ、と強く思ったのです。人間の想像力や希望というものが、人間自身にとってどれだけ良い効果を及ぼすだろう、と興味を持ち、掘り下げて行きました」

――そのテーマと朝鮮戦争という時代背景を組み合わせたのは?
『女神様が見ている』来日公演より (C) アミューズ2014

『女神様が見ている』来日公演より (C) アミューズ2014

ジョンソク「そのメッセージ性にどういう時代背景を持って来れば効果的かということを考えたときに、やはり自分は韓国人であって、いまだに終わっていないこの朝鮮戦争というものが、自分の伝えたいメッセージに適していると思えたのです。改めてじっくりとリサーチをしました。戦争関連のドキュメンタリー映像や映画はほとんど観ましたし、論文にも広くあたった上で執筆にとりかかりました」

――日本のニュース番組では時折、今の北朝鮮市民の生活が紹介されることがありますが、そこに登場する人々は明らかに、一般的な韓国の方々とは暮らしぶりも考え方も違って見えます。しかし本作では北の人民軍と南の韓国軍の兵士たちが比較的早い段階で心を通わせ、それほど「違う」人たちには描かれていないのが印象的です。どのような意図があるのでしょうか?

ジョンソク「日本の方々には全く違うと映るかもしれませんが、辿ってみれば彼らは同じ民族、同胞です。それが思想なりイデオロギーなりで別れることになったが、人間対人間として通じ合うものがあるのではないか、という思いが僕の中にはありました。だからこそこの作品が幅広い方々に理解していただけたのではないかと思います」

ソヨン「本作の舞台設定となっている52年当時は、お隣同士だった人たちが敵対することになってしまった時代です。今とは違い、当時は完全に分離されているわけではなく、(南と北は)近い存在だったのです」
『女神様が見ている』来日公演より (C) アミューズ2014

『女神様が見ている』来日公演より (C) アミューズ2014

ジョンソク「その(北と南の)境界線にいるのが、“女神様”の存在をまっさきに信じるスンホという存在です。彼は自分の理念で人民軍に入ったわけではなく、なりゆきでそうなってしまった。そんな彼を通してメッセージを投げかけようと思ったのです」


“親しみやすいメロディ”の意味

――作曲はどの段階でされたのでしょうか?

ソンヨン「ジョンソクさんとストーリーを検討していた頃から、どういう音楽がいいのか話し合ってきました。2回のショーケースでたたき台が出来上がりました」

――一度聴いたら忘れられないサビの主題歌を始め、メロディが親しみやすいのはどんな意図によるものですか?

ソンヨン「検討段階から、シンプルで親しみやすいものがいいねと言い合っていました。耳から離れない、フックとなるようなメロディを作りたい、と。50年代が舞台なので、今の音楽のようにコードの展開が華麗だったり複雑なものではなく、シンプルでありながら感性的なものを乗せて、恋しさ、懐かしさを感じられるように。そして何より、戦争という背景を大切にしよう、と言い合っていました。
『女神様が見ている』来日公演より (C) アミューズ2014

『女神様が見ている』来日公演より (C) アミューズ2014

ただ、親しみやすくはあっても歌うのが簡単というわけではありません。女神が歌う子守歌的な『花咲く木には』やスンホが歌う『あなたのために』のような、素直に自分の気持ちを表現するような曲は聴きやすいメロディを意識していますが、序盤に船上の緊迫した状況や無人島で心がすさむ状況で歌っているナンバーはキーが非常に高く、役者たちはかなり苦労をしているようです(笑)」

――ちなみに、子守歌は何か原曲があるのですか?

ソンヨン「いえ、私のオリジナルで、本作を通して一番最初に出来上がった曲です」

――音楽的なボキャブラリーの豊かな作曲家でいらっしゃいますが、ご自身はどんな作曲家から影響を?

ソンヨン「坂本龍一さんが大好きですね。ただ、あまり特定の作曲家に影響を受けているわけではなく、人々の日常的な会話やヒップホップ、ワールドミュージックといった様々な“音”からヒントを得ています。あとは洋画ですね。映画を観ながら、そのシーンが表現しようとしている感情をどれくらい音楽がバックアップできているかな、と考えたりしています」

――演出のコンセプトはどう組み立てていったのでしょうか?

ソヨン「例えば無人島一つをとっても、それをリアルに表現するとなると絶壁や海など果てしなく複雑になってしまうので、どれだけ単純明快に表現できるかということを考えました。まずは“船”から“無人島”に移行し、そこからはシンプルにと。無人島に登場人物たちがあがって以降は、彼らの心理的な変化に重点を置きました。船がフリーズしている様子を俳優の後ろ姿で比ゆ的に表現するなど、俳優の肉体を使った表現も工夫しています。

この作品では、俳優が舞台から袖にはける(消える)シーンがあまりないんです。ほぼみんながずっとそこにいる。その状況は、はじめは自分の意思ではなく外からの力で押しつけられた戦争というものの比喩だけれど、それが時間の経過とともに“共にいる”ということに変化してゆく。共存という構図に変わってゆくということを示したかったのです」
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