それでも個性が重要視されるがゆえに、一聴ヘタに聴こえたり、すごく上手くてもなんか変? だったりするミュージシャンがいます。そこがジャズの面白いところ。今回は、そんなちょっと変わったヘタウマジャズメンをご紹介します。
バップの高僧 ピアノ&作曲家 セロニアス・モンク「セロニアス・モンク・クインテット」より「煙が目にしみる」
セロニアス・モンク・クインテット
1953年に録音されたセロニアス・モンクによる演奏は、まるでモンク自身のオリジナル曲かのようなサウンドです。その個性的な音には、ダリのような抽象画の世界に連れていかれたかのような圧倒的な世界観があります。
ここでモンクのピアノを初めて聴いた皆さんは、少し驚かれたと思います。飾り気の一切ない、ぶっきらぼうにすら感じるサウンド。ピアノのことはよくわからなくとも、なんとなく上手なピアノとは思わなかったのではないでしょうか。むしろ、子供が弾いているようにヘタだなと思われたというのが、正直なところかもしれません。
それでも、聴き進むうちに、なんとも言えない味のようなものを感じてしまったあなたは、気づかぬうちにモンクのヘタウマの魅力に取りつかれてしまっているのです。
同業のピアニストの中でも、モンクの作曲は認めても、ピアノのプレイ自体はヘタだと公言する人が少なくありません。確かに、そうでしょう。モンクのプレイは、あまりに個性的にすぎるからです。
でもモンクには、心の中に自分の歌があります。自分で作った曲や、気に入った曲を、自分の歌い方で歌っている(演奏している)だけなのです。モンクを理解するには、もしかしたらシンガーソングライターを思えば早いかもしれません。
日本でも有名なシンガーソングライターは数多く活躍しています。その彼らや彼女らは、歌のうまいヘタで語られることはほとんどないでしょう。自分の歌を表現する方法としてのテクニック、歌い方、それがあってのアーティストだからです。代表的なところではユーミンやサザンオールスターズなどが上げられます。
「なんか味がある」こういった味わいを覚えれば、ポピュラーもそしてジャズも新しい可能性や楽しみが増えること請け合いです。そういった意味でも、モンクのピアノはジャズ通になるかどうかの、試金石と言ってもよいのかもしれません。
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ブルーノートの看板ギタリスト グラント・グリーン「アライブ」より「スーキー・スーキー」
Alive
この当時のグラントは、R&Bやファンクを先取りしたかのような演奏を繰り広げており、この「スーキー・スーキー」はその特色が一番良い形で現れた演奏です。
グラントが活躍した時代のジャズギターの世界では、絶対的な第一人者「ウェス・モンゴメリー」が活躍した時期とシンクロしています。そして、グラントはオクターブ奏法で鳴らしたテクニシャンのウェスとは全く逆のスタイルで人気を博しました。
グラントはコードはほとんど弾かずに、シングルトーンのホーンライク(管楽器奏者のよう)なアドリブ一本で勝負に出たのです。しかも、そのフレーズは簡単明瞭。同じコード進行では臆面もなく何回も決まったフレーズを用います。さらにはブルースギターのような同じフレーズを延々と何回も繰り返すことで、興奮を増す効果を狙うというジャズでは型破りなものでした。
毎回のように手を変え品を変え、違うフレーズを繰り出そうと努力しているミュージシャンが大多数の中、同じフレーズの繰り返しがこれ程効果的だと気づかせてくれたのが、グラントその人なのです。
決して、器用ではなく、聴きようによってはヘタなギタリストですが、一回聴けば、なんだか気になってしようがない味があるのです。食べ物で言えば、くさやかドリアンのようなイメージでしょうか。その放たれる強烈な香りから苦手な人も多いですが、好きな人にはたまらないタイプのヘタウマミュージシャン代表がグラントです。
この「アライブ」では、クロード・バーティ(サックス)、ロニー・フォスター(オルガン) 、アイドリース・ムハマッド(ドラムス)という、それぞれの楽器でのヘタウマミュージシャンが大集合。独自の大ヘタウマワールドを展開しています。
期待もせずに、ふらっと入ったライブで、思わぬ拾い物をしたようなそんな気にさせる、力の抜けたゴキゲンな演奏です。
次のページでは、現代の最高峰のヘタウマトランペット奏者の登場です!
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