集団パニックという現象は古今東西を問わず、時に起きています

自分ひとりの時と周りに仲間がいる時とでは、心理はかなり違うもの。集団パニックは仲間同士での同調が極端になってしまった場合と見なせるかもしれません

これまで何か思いがけない出来事でパニックになったことはありますか? 例えば、いきなり奥さまから小遣いの減額を打診されでもしたら、ちょっとうろたえてしまうでしょう。心が動揺したせいか思わず笑ってしまい、つられて奥さまも笑い出してしまうことがあるかもしれませんね。

実際このように、誰かにつられて何かをしてしまう事は日常でも多く見られます。今回の例は「笑い」でしたが、これが「過呼吸」などで複数人に連鎖的に起こると、いわゆる集団パニックと呼ばれる現象になります。今回はこの集団パニックを精神医学的観点から詳しく解説します。

集団パニックの症状は「転換性障害」に類似!

集団パニックと呼ばれる現象は、基本的にはその場の誰かが最初に起こした症状が周囲に連鎖していくことです。例えば誰かが突然叫び声をあげ、その場に倒れて痙攣発作を起こす。すると、その場にいた者が連鎖的に同じような症状を起こしていく……。人間には元々周りに同調しやすい傾向はあるものの、なぜ集団パニックのような極端な同調が起こるのか、原因自体は不明です。一般に仲間内の絆が強い閉鎖的なグループで、特に10代の少女たちが起こしやすい傾向があります。

また、集団パニックで個人個人が起こす症状自体は、心の病気の中でも特に「転換性障害」に類似しています。

転換性障害の「転換」とは、何らかの心的問題が身体的症状に転換されたということを意味します。身体的な原因は見当たらないにも関わらず、何かに対する強い不安感、あるいは何らかの心的ストレスといった心的な問題が原因で「体に力が入らない」「吐き気がする」といった身体的症状が出現します。短期間ではありますが、視力低下などの知覚異常や痙攣発作なども起こり得る症状です。

過去に起きた集団パニックの例……「セーラム魔女裁判」

集団パニックなる現象は古今東西、時に起きてきました。中でも有名な例の一つとして、17世紀に「セーラム」という名の北米の村で起きた出来事を紹介します。

村の牧師の家に集った少女たちが事件の発端です。一人が突然奇異な発作を起こし、その場の少女たちも同様の発作を連鎖的に起こしました。少女たちの発作は、あたかも妖術を掛けられたかのような超常的なものに見え、牧師は村に潜む魔女が妖術を掛けたと判断しました。そして魔女探しが始まり、少女たちの口から出た女性は片端から魔女裁判に掛けられていった……といった事が起きたそうです。

当時はまだ魔女や妖術といった事が、地域の文化的背景として人々の心にしっかり根を下していました。それが少女たちの症状のありさまに影響を与えた可能性も大きいでしょうし、また住民たちも魔女が村にいると思い込むだけの要因になったのでしょう。

集団パニックと転換性障害との関わり合いが分かってきたのは、実は20世紀になってからで、それ以前は妖術や黒魔術といった超常現象が原因とされることも多かったようです。

集団パニックの連鎖に巻き込まれる可能性は誰にでもあるもの?

「集団パニックは自分には無縁!」と思われている方が大部分かと思いますが、ひとりでいる時と仲間といる時では、心理状態は異なりませんか? 例えば、自分ひとりだと何となくボーッと過ごしがちな人でも、周りに仲間がいれば気を使うものです。何かの拍子にその場に気まずい沈黙が流れれば、「これはまずい!」と、その場に緊張がみなぎる事もあるでしょう。その時、誰かが緊張を破るかのようにいきなり笑い出したら、それにつられるようにみな笑い出してしまうかもしれません。程度の差はありますが、これも集団パニック的な現象です。

また、集団パニックは社会全体がパニック状態になってしまう現象も指します。1938年の北米の例として、ラジオ番組で火星人来襲が放送され、その放送を聞いていた一部の人が本当の事だと思い込んでしまい、パニックになった……という出来事がありました。

私たちが実際に集団パニック的な現象に巻き込まれる可能性は非常に少ないと思いますが、何らかの条件がそろえば、普段の自分ではない、頭が真っ白な状態になってしまう可能性はあります。そうなった時転換性障害様の症状が出現する可能性もあることは、ぜひ認識しておきたい事だと思います。


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