シンプルライフ/シンプルライフの達人

横井庄一さんを知っていますか?(4ページ目)

「持たないことを選ぶ」それがシンプルライフです。でも、「持たないことしか選べない」としたら……? これは、戦争によって、そんな究極の選択を28年の間強いられた、一人の普通の青年の物語です。

金子 由紀子

金子 由紀子

シンプルライフ ガイド

子供の頃より「シンプル」「ミニマム」に関心を抱く。学生時代より10年間の一人暮らし賃貸住まい時代に、少ないモノで楽しく暮らすノウハウを模索。出版社にて書籍編集に携わったのちフリーランスに。結婚後二児を得て、新たなシンプルライフの構築にいそしむ日々。

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糸から衣服を自作する

機

帰国後、入院していた病院で再現制作した機織り機。

横井さんのサバイバル生活で最も驚嘆すべきは、その衣服でしょう。軍から支給された衣類は、過酷なジャングル生活で摩耗し、昭和25年頃まったくなくなってしまいました。寒さをしのぐ必要はないものの、藪の中を歩けば皮膚は傷つき、吸血ヒルにも狙われます。

洋服職人だった横井さんは、洋服を糸から手作りすることに。パゴ(ハイビスカス)の皮の繊維を糸にし、1着分を撚るのに1か月。母が織っていた記憶を頼りに自作した機織り機で、糸を布にするのに3か月かかりました。


素晴らしい手仕事

服

全部で3着制作した衣服(写真)。現在は名古屋市博物館に2着、グアム島に1着が収蔵されている

こうして横井さんが作り始めたのは、襟も袖もある、5つボタンの立派なスーツです。砲弾からとった真鍮で針を作り、ボタンはヤシの実で。緻密な織りの生地、丁寧にかがられたボタン穴、美しく揃った縫い目からは、それがジャングルの中で制作されたものとは想像もつきません。

作家の故・松本清張氏は、「わたしも手先の器用な兵隊は見ているが、横井さんのような兵は一万人に一人あるかないかだろう」と新聞コラムに書いています。制作には多くの時間と手間がかかりましたが、ものを作り上げるという確かな喜びは、横井さんの心の支えともなっていたようです。

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