シンプルライフ/シンプルライフの達人

横井庄一さんを知っていますか?(5ページ目)

「持たないことを選ぶ」それがシンプルライフです。でも、「持たないことしか選べない」としたら……? これは、戦争によって、そんな究極の選択を28年の間強いられた、一人の普通の青年の物語です。

金子 由紀子

執筆者:金子 由紀子

シンプルライフガイド


仏心

帰国後の書「仏心」。12年間言葉を話さず、ほとんど文字も書かなかった人とは思えない筆跡。

帰国後の生活

日本に帰国した後の横井さんは、一躍時の人となり、講演や執筆、テレビ出演に活躍。縁あって現在の夫人・美保子さんと結婚、幸せな家庭生活にも恵まれました。出身地に近い名古屋の自宅では、家庭菜園で野菜を栽培し、粗衣粗食をよしとするつつましい生活を送ります。やがて陶芸に出会ってからは、自宅に窯を据え、焼き物の道に邁進。晩年は若い頃の無理がたたってか健康を害し、美保子夫人に看病されつつ1997年、82歳の生涯を閉じました。


横井さんの遺言

陶芸

60歳から熱中した陶芸作品。ものづくりの才能と熱意が実を結んだ。

貨幣価値や風俗など、またたくまに「現代」に適応したと言われる横井さんですが、「わかるように見えているけど本当はわかってない、“この世”に生きていない(期間があった)から」と美保子夫人は評しています。失われた時間と、その間の日本の変質には埋められないギャップがあったのでしょうか。消費と浪費をほしいままにし、知恵と努力と忍耐ではなくモノと金に頼る日本人に、横井さんは「いいことはいつまでも続かないよ」という言葉を遺しています。


「ない」を選べる時代に

夫人

美保子夫人。「あんなに頭の良い、忍耐強い人はいませんでした」横井さんの生涯を支える、よき理解者となった

シンプルライフは、自ら選び取る「ない」です。横井さんが強いられた「“ない”しかない」生活とはまったく違います。「ない」を選べるとは、すなわち平和ということで、それは何物にも代えがたい幸福です。

それでもなお、「時には塹壕に花を飾ることもあった」という、究極の苦境を経ても人間らしさを失うことのなかった彼の生き方に、現代の我々が学ぶべきことはたくさんあると思うのです。

(取材協力:横井美保子氏)

横井庄一記念館(横井夫人運営による個人博物館。洞穴の再現、日用品の一部、横井さんの作陶等を展示。日曜のみ開館)
横井ケーブ(オリジナルの洞穴のすぐそばに再現展示)
グアム政府観光局
名古屋市博物館(グアム島での生活用品、衣服を収蔵。現在展示はしていない)

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