2008年にセルリアンタワー能楽堂で上演された『ひかり、肖像』は、
源氏物語をコンセプトに能とダンスの融合を描き、大きな賞賛を博しました。
森>『ひかり、肖像』は僕にとって初めての東京での振付の仕事であり、また津村さんと酒井さんという錚々たるメンバーでの公演でしたので、いろいろな意味でプレッシャーを感じていました。それに僕自身小さい頃から西洋の文化の中で育ってきたこともあり、日本の文化にはあまり触れたことがなく、能に関しては全くの無知だった。テーマの『源氏物語』にしても、さほど馴染み深いものではなくて……。でも物語がどうこうというのとは別に、感情面で僕が考えたものと、津村さんが抱いていたイメージがパッと合った。その時点で津村さんが“お任せします”と言ってくださって、僕も“気張らずにやろう、自分を出せばいい”とふっ切れた感じでした。今考えるとすごく贅沢な話ですが、僕がカンパニーのシーズン中で動けなかったので、酒井さんと津村さんが創作のためにドイツまで来てくださったんです。酒井さんは3週間くらい滞在して、昼間は毎日カンパニーと一緒に稽古をし、僕の仕事が終わる夕方から夜の十時頃まで創作をして。津村さんは途中から10日間ほど滞在されて、3人で一緒にリハーサルを重ねていきました。ドイツというおふたりにとっては非日常の場所で、僕にとってはホームグラウンドで、集中して創作ができたのはとても良かったですね。
2008年『ひかり、肖像』(C)Toshi Hirakawa
6年ぶりとなる能楽堂公演は、シェイクスピアの『オセロー』とヴェルディのオペラによる『オテロ』をモチーフにした『オセロー&オテロ』。
今回この題材を選んだ理由とは?
森>今回は能とダンスの2ジャンルだけでなく、そこにピアノが加わり、オペラが加わる。まずは、その関係性で何ができるんだろうと模索するところから始めました。異なるジャンルを繋げるためには、やはり何らかのストーリーラインがある方がいい。実は僕自身、『オセロー』を手掛けるのはこれでもう3回目なんです。全幕でも1回つくっているし、イアーゴも踊ってるし、話に関しては把握している。テノールの水口さんもまた『オテロ』をご希望されたこともあり、シェイクスピアの『オセロー』とオペラの『オテロ』で構成することになりました。(C)佐藤美紀
シェイクスピアのオセローを踊るのは僕自身・森優貴で、デズデモーナに酒井はなさん、ヴェルディのオペラ・オテロをウィーンで活躍するテノール歌手の水口聡さんが、ソプラノ歌手の市原愛さんがデズデモーナを演じます。この作品の鍵をにぎるイヤーゴを能楽師・津村禮次郎さんが全編を通して演じると共に、東京藝術大学音楽学部名誉教授である北川曉子さんがイヤーゴのパートのみピアノでアレンジ・演奏します。
全体の構成としては、物語の重要な部分をピックアップし、それぞれ繋げていく感じです。まずは津村さん演じるイアーゴの視点から見たオセローとデスデモーナの関係や嫉妬心を能で演じ、次にオテロとデスデモーナの出会いをオペラで表現し、イアーゴがオセローを洗脳するところから最後の殺人までをダンスで描くーー。この三部構成をゴールに創作しようと考えています。
(C)佐藤美紀