冴えない気持ちが日常レベルを超えてしまえば、うつ病の可能性も出てきます。その際、脳内の不調のメカニズムが何であれ、現われている症状がうつ病と診断できるものであれば、うつ病と診断されるでしょう
心の病気に対する病名はどのように理解しておくと良いのか、その特徴も含めて基本的な知識を詳しく解説します。
心の病気は基本的には身体的な病気と同じもの
気持ちが全く冴えず、目先の作業に集中力が続かない場合、ストレスで心身が疲れきっているなどの何らかの理由が思い当たるでしょう。しかし、身体の問題として脳内神経伝達物質のセロトニンの機能に問題が生じ、脳内環境が悪化している可能性を意識する事はあまり無いでしょう。やはり、心の不調は身体的な不調とは違うという方は多いかと思います。こうした心の不調時、周りの人は本人に対して「気合が足りていないのではないか」とネガティブに捉えてしまう可能性もありますが、実は、心の不調が日常範囲内のレベルを超えてしまうと、いくら気合いを入れて頑張りたくてもできません。病的になってしまった脳の機能を正常化させるためには、精神論ではなく、その他の身体的な疾患と同じように薬物療法などの治療が必要になってくるのです。
心の病気は症状によって診断されます!
「気持ちが冴えない」、あるいはその反対で「気持ちが高揚している」。また、「不安が強い」、「何らかの幻覚がある」、あるいは「アルコールなどの欲求をコントロールしにくい」……など、精神症状は多様です。こうした精神症状は古来より知られており、紀元前のギリシアで医聖といわれたヒポクラテスの時代から、こうした症状を表わす語として
「マニア(mania:そう状態)」、「ヒステリア(hysteria:ヒステリー)」があります。精神症状の原因が脳内環境の問題などとして科学的に理解できるようになったのは、実は20世紀に入ってからで、心の病気が発症する詳細なメカニズムにはまだまだ不明な部分が多いものです。
そのため、心の病気は基本的には、現われている症状を分析する事によって診断されます。現在世界的に精神疾患の分類基準となっている、アメリカ精神医学学会の「精神障害の診断と統計マニュアル」は改訂を重ね、昨年第5版(DSM-5)になりました。DSMにおいては個々の精神疾患に対して、それを診断をする際必ず見られるべき症状のリストが明記されています。例えばうつ病の診断に必要な症状としては、「体重の変化」「睡眠の変化」などに関する内容もリストに挙げられています。
病名は医学用語!日常用語のイメージからは切り離してみて
心の病気の病名は基本的に、国際分類である英語の病名を日本語に翻訳したものです。例えば、eating disorder の「eating」は「摂食」、「disorder」は「障害」として、「摂食障害」となります。もしかすると、「障害」という言葉に何か重い響きを感じてしまう人もいらっしゃるのではないでしょうか。ここで是非ご注意して頂きたい事は、上記の通り病名は基本的に英語の病名を日本語に翻訳した医学用語であるということです。ですから、心の病気の病名でよく見られる「障害」は、日常で使う際のイメージと重ならないように、単に英語の「disorder」に対応する語であると認識するのが良いかもしれません。
またこのことに関して言えば、昨年DSMが5版になったことに伴い、日本語の病名も一部変更されることになりました。例えば、「パニック障害」は「パニック症」になります。これは「disorder」に対応する語が「障害」から「症」になるという事ですが、こうした変更によって日常的な用法から来る、混乱や誤解はかなり減じるのではないでしょうか。
心の病気の認識は時代と共に進化していくもの!
心の病気の原因は先に述べましたように、まだ、明確には分かっていません。しかし最近の科学の進歩は急速です。人の遺伝子の解析もどんどん進み、統合失調症の発症に関連する遺伝子が判明した……といったニュースも出てきています。現時点では統合失調症は幻聴や妄想など、統合失調症に特徴的な精神症状の有無を分析する事で診断されます。そのため、そうした症状がほぼ同じ2人の場合、発症メカニズムが異なっていたとしても、共に統合失調症と診断される事になります。
しかし科学の進歩により、10年後、あるいは20年後には統合失調症の発症メカニズムは完全に解明されている可能性もあるのではないでしょうか。現時点では統合失調症と診断される病態に、もしも発症メカニズムが大きく異なる場合があれば、それぞれ別々の病名になる可能性もあるでしょう。心の病気に対する理解や認識はこれからも大きく進化していく可能性がある事は、ぜひ知っておきたい事だと思います。