中古住宅の売買で、ほぼ同時期に購入希望者が重なったとき、誰を優先するべきなのかはたいへん難しい問題です。このような場合における契約の優先権について考えてみましょう。
新築マンションでは一定期間内に購入の申込みを受け付けて抽選をすることも多いでしょうが、中古一戸建て住宅や中古マンションで抽選はほとんどありません。
中古住宅ではなかなか買主が見つからずに困ることが少なくないものの、人気がある物件や割安感のある物件の売出し直後、価格の改定(値下げ)直後、あるいは何らかのタイミングで複数の申込みが相次いで入ることもあるのです。
一般的には購入の申込み(買付証明書の提出・売主側仲介業者への到着)が早かった人を優先するケースが多く、これを「買付優先」(申込み優先)といいます。
ただし、法律による規定があるわけではなく、不動産業界内での決まったルールもありません。「買付優先」という言葉も、業界内で勝手に使っているだけです。
しかし、たとえば上の図で「購入希望者A」が最も早く買付証明書を提出したにもかかわらず、手付金の準備などでいつ契約できるか分からない。それに対して、2番目に買付証明書を提出した「購入希望者C」は明日にでも契約できるという場合はどうでしょうか。
売主側からみれば、契約がいつになるか分からない(契約前にその申込みが撤回されるかもしれない)「購入希望者A」よりも、「購入希望者C」を優先したくなることもあるはずです。
申込みの順番にかかわらず「早く契約ができる人」を優先することは、「契約優先」あるいは「手付優先」といわれます。
もし、「購入希望者A」が住宅ローンを利用する(特約による白紙解除のリスクがある)予定なのに対して「購入希望者C」が現金購入の場合、あるいは「購入希望者A」には価格交渉(値下げ要求)があるのに対して「購入希望者C」にはそれがないような場合なら、売主はなおさら申込みの順番にこだわりたくないでしょう。
そのほかにも物件や売主の状況などに応じて、住宅ローンの事前審査が先に下りた人と契約をする「ローン優先」、残代金を早く支払える人と契約をする「決済優先」などもあります。
また、上の図で「購入希望者B」と契約をすれば、売主側の仲介業者は売主と買主の双方から手数料を得られるため、申込みの順番や条件にかかわりなく「購入希望者B」が優先されることもあります。
当然ながら好ましいことではありませんが、恣意的に操作されることもあるのです。あえて契約条件の悪いほうを優先すれば、売主に対する背信行為にもなるでしょうが……。
人気物件などですぐに購入申込みが入りそうなとき、売却の依頼を受けた売主側の仲介業者があらかじめ「買付優先でいく」あるいは「契約優先でいく」と他の仲介業者に告げることもありますが、それが結果的に守られたのかどうかは売主側の担当者にしか分かりません。
物件を紹介した仲介業者から「優先権を得るために買付証明書をすぐに書いてください」と急かされることもあるでしょうが、それで確実に契約できるというわけではないのです。
買付証明書には法的な拘束力がないため、残念ながらそれが反故にされたときに誰の責任も問えないのが実情です。なお、中古住宅だけではなく新築の建売住宅などで、同様の問題が起きることもあるでしょう。
関連記事
不動産売買お役立ち記事 INDEX不動産売買の流れ・手順
手付金と申込み証拠金