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マンション間取りの「S」って何?| マンション間取りの基本

マンションの間取り図を見ているとさまざまな記号が出てきます。その中で『S』と表示される部屋があります。今回はこの間取りの『S』について解説します。

井上 恵子

執筆者:井上 恵子

住まいの性能・安全ガイド

マンションの間取り図ではアルファベットを用いて部屋の種類を示すことがあります。前回は書斎や趣味の部屋『DEN』について解説しましたが、今回は『2LD・K+S』などと表示される『S』について、間取り図を用いながら説明いたします。
 

『S』とはサービスルーム・納戸のこと

上記の『2LD・K+S』と表示された間取りは、2ベッドルーム+リビングダイニング+キッチン+サービスルーム・納戸であることを示しています。それではさっそく『2LDK+S』の間取り例を見てみましょう【図1】。
 
【図1】Sのある間取り例。グリーンの着色された部屋が「S」

【図1】Sのある間取り例。グリーンの着色された部屋が『S』(クリックで拡大)
 

一見普通の洋室と変わらない部屋『S』

【図1】は専有面積70.86m2の一般的なファミリータイプのマンションの間取り図です。間取り表記は『2LD・K+S+2WIC』で、2つのベッドルームとリビングダイニング、1つのサービスルーム、2つの『WIC(ウオークインクロゼット)』で構成された間取りです。

今回注目する『S』はグリーンの部分です。窓もついていて5畳の広さがあり、一見普通の洋室のように見えます。しかし間取り図上の表記は『S』です。この間取りでは他に洋室(1)洋室(2)がありますが、その『洋室』とこの『サービスルーム・納戸』はどこが違うのでしょうか。
 

洋室扱いするために必要な法知識

ここで建築基準法に定められた居室要件をおさらいしておきましょう。建築基準法とは『(前略)国民の生命、健康及び財産の保護を図り、もって公共の福祉の増進に資することを目的』として建物の敷地や構造、設備、用途などに関する最低限の基準を定めたものです。

この法律に基づき、人が長い間そこで過ごすと想定される部屋、例えばリビングや個室など『居室』と呼ばれる部屋には、採光や通風などが一定以上確保できなければならないと定められています。

戸建てやマンションを問わず住宅の『居室』では、一定以上のお日様が当たる窓の面積、すなわち有効採光面積の基準があり、部屋の床面積の1/7以上の面積を確保することが最低条件となっています。洋室(1)(2)やリビング・ダイニングには窓があり、この条件をクリアしています。
 

窓があってもサービスルーム・納戸のワケ

しかし【図1】をよくよく見ると、窓がついています。窓があるのになぜ洋室表記ができないかというと、実は、その理由はサービスルームの前面にある『共用階段』にあります。

先ほども述べたように、建築基準法では、ただ窓がついていればそれを採光有効と見なすのではなく、窓の前面が有効に開放されており、その窓にちゃんとお日様が届くかどうかも検証するように定めています。

【図1】のサービスルームの窓の前面には共用階段がついており、それがじゃまをして窓にはお日様が届かないと判定され、採光に有効な窓とカウントすることができません。従って、この部屋は『居室』扱いをすることができず、『洋室』ではなく『S』と表記しているのです。
 

もし共用階段が無かったら?

もし【図1】と全く同じの間取りでかつ共用廊下側に共用階段やエレベーターなど採光を遮るものがなかった場合、窓の面積が室面積の1/7以上あると確認できれば、この納戸は『洋室』と表記することができます。

その場合、全く同じ間取りですが、表示は『3LD・K+2WIC』となります。『3ベッドルーム+リビング・ダイニング+キッチン+2つのウオークインクロゼット』の間取りです。

現在マンションで最も採用されている『外廊下型マンション』の場合は、かまぼこ型に横に同じ間取りが並ぶケースも多々みられますので、同じマンションで同じ間取りでも、窓の前方に採光を遮るものがあるため『2LD・K+S+2WIC』と表記される部屋と、どの窓も採光有効と見なされ『3LD・K+2WIC』と表記される部屋と、位置によって表記方法が異なる住戸が混在するケースもあります。
「納戸」なのでクーラー用のスリーブ(穴)やコンセント、テレビ端子などが設置されていない可能性も

「納戸」なのでクーラー用のスリーブ(穴)やコンセント、テレビ端子などが設置されていない可能性も。

 

サービスルーム・納戸の注意点

『S』と表記された部屋がある場合の注意点を挙げます。建築基準法上、採光有効の窓とは判定されませんでしたが実際に窓はついており、間取り図を見た限りでは他の洋室と同じに見えます。従って、子ども部屋として使おうと考える人がいるかもしれません。

購入後、その部屋をどのように使おうとも購入者側の自由ではありますが、建築基準法で『居室ではない』と判定されているため、居室として必要なクーラー専用のコンセント、テレビ・電話用の端末等が設置されていないケースもあります。もし購入後、居室として使用する予定がある時は、その辺を重点的にチェックするようにしてください。
 

サービスルーム・納戸のある住戸の利点

今までご説明してきたように、同じ間取り・同じ広さの住戸でも、採光条件より『2LD・K+S+2WIC』と『3LD・K+2WIC』と異なる表記になることがあります。その場合、何に差が出てくるかと言うと販売価格です。どちらが安く設定されるかというと、居室数が少ない前者の方です。

ですから一つの部屋がサービスルーム・納戸扱いでもよいと割り切れば、同じ面積、同じ間取りの住戸を安く購入できる可能性があります。家族構成や使い方によりますが、問題がなければお値頃感のある住戸といえるかもしれません。
 

サービスルームは下階に多い

もうひとつ、同じ間取りなのに居室がサービスルーム扱いになっているケースをよく見かけるのは下の方の階です。縦方向に同じ間取りがずらっと並ぶのはマンションではよくあることですが、例えば1~2階の住戸はある部屋がサービスルーム扱いで、3階以上は同じ部屋が居室扱いで『洋室』と表示が切り替わることがあります。
 
【図2】下階になるほどお日様が当たりにくいことを示す概念図

【図2】下階になるほどお日様が当たりにくいことを示す概念図

窓の前面に別な建物が近接している場合には、その建物との距離や、建物の一番高い部分であるパラペット天端からどのくらい下に窓があるかなどを元に、窓の採光が取れているか判定します。従って、上層階の窓では採光が取れる窓でも、下層階にいくと採光が取れないと見なされる窓になるケースがあります(【図2】参照)。
 

もう一つの納戸『N』との違い

今回は、マンションの間取りで見かける『S』表記の部屋について解説しました。『S』はサービスルーム・納戸のことで、中には個室と同じくらいの面積があるものの、採光面積などの基準が満たせず『洋室』という表記ができないため、『S』表記としているケースがあると念頭においておいてください。

実は、その他にも『N』という室名表記もあり、それも納戸を示します。しかし、『N』と表記された納戸は広さが1~2畳程度で窓はなく、本来の意味の納戸として計画されたものが多いようです。

なぜ洋室ではなく『S』表記なのか、『S』と『N』とはどう違うのか、購入時の注意点などを知っていれば、『S』=サービスルーム・納戸の部屋がある間取りを購入する際の判断材料にすることができます。

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