ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

Star Talk Vol.13 原田優一、劇場文化に抱く夢(3ページ目)

清潔感漂う二枚目もこなせば、お遊び要素たっぷりの“ゲイ・バーのママ”役も楽しく演じ、その振り幅の大きさが半端でない俳優、原田優一さん。31歳の若さにして、“天才子役”時代からかれこれ20年間もミュージカルの第一線で活躍を続ける彼に、お話を伺いました。最新作『ミス・サイゴン』から役者としての矜持まで、盛りだくさんの内容です!*観劇レポートを掲載しました!*

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド


何もかもが楽しかった子役時代

――ところで、原田さんは子役から舞台の世界に入られたのですね。きっかけはいとこさんが出ていた舞台に触発されてとうかがいましたが、舞台の何に惹かれたのですか?

「もともとお芝居に興味があったんですね。歌や踊りが好きだったので、いとこが『レ・ミゼラブル』で(ガブローシュ役を)楽しそうにやっているのを見たときの衝撃たるやなかったです。“あっち側(舞台)で僕もやりたい!”とすぐ思ってしまいました」

――小学校3年で劇団若草に入られたのですよね。お稽古は大変でしたか?

「いや、楽しかったです。行きたいと言い出したのは小学校1年の時。両親は“3年生になって、一人で電車で通えるようになったらいいよ”と言っていて、どうやら、それまでに忘れて違うものへの興味を見つけるだろうと思っていたようです。でも僕は3年になると即、自分で切符を買って通いだしました。

『レ・ミゼラブル』94年上演プログラムより、ガブローシュ役の原田優一少年(資料提供:東宝演劇部)

『レ・ミゼラブル』94年上演プログラムより、ガブローシュ役の原田優一少年(資料提供:東宝演劇部)

基本的なレッスンの他にダンスや歌の追加授業もあったんですが、それらも全部、自分から選択してやっていました。入って1年ほどしてガブローシュ役のオーディションがあると聞き、“え!受ける受ける!”と言って受けたのが、94年の『レ・ミゼラブル』。合格して初めて大型ミュージカルに出演した喜びで、プログラムのプロフィール欄では“将来はミュージカルはいゆうになりたい”とコメントしていますが、当初は舞台に限らず、テレビも楽しそうだな~と思っていました。実際、映像が続いてちょっと舞台から遠ざかっていた時期もあります。それが舞台に回帰したのは、高校生のころ。一人でニューヨークに行ってブロードウェイミュージカルを観た時に、“やっぱりこれだ!”と思ったんです。以後は劇団以外にも積極的に歌のレッスンを受けたりしていました。

――『レ・ミゼラブル』と同じ年に出演された『ファルセットズ』、拝見しました。

「あれは難しかったですね。歌が大人でも“どうしよう”と思うような難しいメロディで、子供にもこんなハモりをさせるの?みたいな本気の音楽で。怒られてばかりだったけど、楽しかったです。その後『サウンド・オブ・ミュージック』にも出させていただいて、子役でやりたかった作品は全部出来たかな。『アニー』はさすがに(女の子のお話なので)無理でしたけど……」

――途中で、お芝居をやめようと思ったことはありませんでしたか?

「思わなかったです。気づいた時には劇団に入っていて、お芝居をすることが既に生活の一部になっていました。それがお仕事になるというのがすごくうれしくて、学校に行くより現場に行くほうが楽しかったです。お芝居が自分に向いていた?どうなんでしょう、分からないけど、でも同期の子役で今もこの世界に残っている人はほとんどいないことを考えると、やっぱり僕には向いていたのでしょうか。プラス才能、ですか?うーん、でも続けるということも一つの才能かもしれません。続けることってそんなに簡単ではないですからね。続けていて良かったことは、例えば今回、『ミス・サイゴン』の稽古場では駒田さんだったり岡さんだったり、自分が子役の時から知っている方が多いので、何でも家族のように相談できるというのは有難いですね。もちろん先輩として尊敬していますが、本当に聞きづらいことでも聞ける。“もう~”と言いながら教えていただけます」

――今でも聞くことがあるのですか?

「いっぱいありますよ! 自分がどう歌っているか、どう踊っているか。稽古でやってみて“今のどうでしたか?率直な意見をください”とお願いしたりしています」

――読者の中には子供を子役にしたいとお考えの親御さんがいらっしゃるかもしれません。何か成功のためのアドバイスなどありますか?

「お子さんにいろいろなことをやらせてみて、その中で芝居が好きだ!となったらやらせてみていいんじゃないでしょうか。言ってはなんですが、親が無理やりやらせている子って、だいたい長続きしないですね。自分は楽しんでやっていたけれど、今から思えば競争は熾烈でした。それさえも楽しいと思えれば続けられると思います。芝居に限らず、どの世界でも同じことだと思いますが」

――わたくしごとですが、私、小学生の頃に放送局の児童劇団におりまして、そこはお稽古ごとというスタンスだったので朗読の授業が中心でしたが、時折、教育ドラマの生徒役などに駆り出されていたんです。で、現場に行くと他の児童劇団の方たちがものすご~く大人に見えてびっくりしたことを覚えています。“この局はギャラが安いから”なんておっしゃっていて。

「僕もそういうこと言ってましたよ(笑)。現場に行ったら大人の人しかいないから、大人っぽくもなりますよ。僕が子供のころはまだ喫煙所とかも別になっていなくて、大人の方々が煙草を吸いながら深い話をしているのが全部聞こえてくる。役者って、たぶん一般の方より観察や分析が好きだから、なぜ君はそういう考え方なのかだとか、人生の悟りみたいな話が多くて。小さい時から人生哲学を聞いているから、自然と“こども大人”になっていっちゃいましたね(笑)」

数々の出会いを経て、今、志すこと

――話は変わりますが、原田さんのチャーミングポイントの一つに、その歌声があるかと思います。明るく軽やかでブレないテノール、どのようにトレーニングされたのですか?

「中学生のころ、音楽高校を受験しようかと思って2年間音楽校受験塾に通っていたんですが、あとは普通にボーカルレッスンを重ねてきたくらいです。本格的な声楽をやったわけではないので、歌はコンプレックスなんですよ。でもそのいっぽうで、音大出身の方は、楽譜通りに歌う訓練を積んでいるので、逆に“ラフに崩して”と言われると“どうやって?”と途惑ってしまうとよく聞きますが、自分はアカデミックなことはやってないので、崩すことは楽にできます。

今回のクリスの歌唱に関して言うと、実は僕にとってクリス役は得意な音域ではないんです。もう少し低いか、逆にもっと高いほうが声を出しやすいんですが、“高すぎるね”ではなくて“高いね”というものすごく微妙なところでずっと進行していきます。でも、このギリギリの感じが、逆に芝居にとってはいいのかなと思うんです。音大出身の方だったら(楽々と)びーんと発声されるかと思いますが、僕にとってはこのギリギリ感が、この芝居にはすごく合っていると思います」

――これまで様々な人、作品との出会いがあったかと思いますが、その中でも「この出会いがなかったら違う道に行っていたかも」というほどのものはありましたか?

『レ・ミゼラブル』94年上演プログラムより。後方で担がれているのがガブローシュ役の原田優一少年。(資料提供:東宝演劇部)

『レ・ミゼラブル』94年上演プログラムより。後方で担がれているのがガブローシュ役の原田優一少年。(資料提供:東宝演劇部)

「(即答で)『レ・ミゼラブル』ですね。この作品はやっぱり大きかったですよ。もちろんそれまでも舞台は好きだったけれど、この作品が無かったら“舞台って凄い”とそこまで思わなかったかもしれません。この作品で出会った方たちは今も仲良くしていただいていて、岡(幸二郎)さんなんて今も兄弟のようにしていただいていますし」

――『レ・ミゼラブル』の何がそこまで“凄い”と思わせたのでしょう?

「『レ・ミゼラブル』の魅力については、子供のころに感じることと年齢を重ねて感じることとでは違ってくるかと思います。今の段階では、そうですね……それ、大きい質問ですね(笑)。年齢や性別によっても変わってくるとも思いますが、今、自分はジャベールの自殺にぐっときます。男性特有の感性かもしれませんが、ある意味“まっとうした生き方”に対しての感動ですね。彼にとっては死ぬところまでが使命で、いうなれば武士道的な生き方ですよね。今後の夢として、もちろん興味あります! 年齢とともに、見方も変わってきますよね。『ミス・サイゴン』でも以前はすごくクリスに惹かれたけれど、今は本当にエンジニアって面白い役だなと思います。エンジニアのニンには見えないですか? そうですね……でも将来的には、分かりませんよ(笑)」

――原田さんの好みとしては、どんな作品がお好みなんですか?

「僕が今年掲げている目標は“振り幅”なんですが、『LOVE CHASE!』のようなコメディもやれば『ミス・サイゴン』のような重い作品もやるというように、極端なところが好きなんですよ。この2作品両方にかぶっているスタッフの方がいらして、“同じ原田優一さんとは思えないね”と言われたりしているんですが、それは快感でたまらないですね(笑)。昔からそういう傾向があって、人の前で演じるということってそういうことなのかな」

――一つのイメージを保ちたいタイプの役者さんもいらっしゃいますが。

「僕にはそういう感覚は全然ないです(笑)。それぞれ、作品の稽古に入ったら“自分”では無くなりますから。“原田優一”というもののイメージは逆につけられたくないという想いさえあります。クリスをやっているときはクリスにしか見えない、と思っていただきたいし、『LOVE CHASE!』のような作品の時には“本当に馬鹿だねこいつ”と思っていただきたい。作品の中で生きることが好きだから、自分のイメージを保つということは頭の中に何もないです」

――今後、出てみたい作品はありますか?

「作品ではないのですが、極めつけの悪役をやってみたいですね。(素に戻って)街に出た時に“あの人……”と指をさされるような、狂気じゃないですけど、“あの人ほんとに大丈夫なの?”と思われるような役を。ミュージカルだと、どこか救いのある悪役が多いですよね。人間臭くてどこか憎めないよね、的な。そうではなくて、誰もが嫌う役。感情移入できない役。登場したら、“うわ、出てこないで”と言われるほどの役。きっと難しいと思います。みんなから好かれるのも難しいけど、みんなから嫌われるのも難しいと思います。そういう役が登場する芝居を作るのもいいですよね。

――原田さんはクリエイティブマインドもお持ちで、『KAKAI歌会』などで演出にも挑戦されています。今後はどんな表現者を目指しているのでしょうか?
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『KAKAI歌会』(2013) 写真提供:ショウビズ

「この人本当はどういう人なの?この人の“素”ってなんだろう、と思われるような役者になりたいです。そのいっぽうで、日本で舞台という世界をもっと広げていきたい。アメリカやイギリスでは、皆さん古典のミュージカルをご存じじゃないですか。でも日本では、ミュージカルのみならず伝統文化の歌舞伎すら観たことがない方も多いですよね。舞台文化を日本でもっともっと広げていきたいと思うし、それが叶えば日本人の価値観もがらりと変わってくると思うんです。そこに貢献できるような役者になりたいです。

そのためには、映像に出ること(で知名度を上げるの)も一つかもしれませんが、まずは着々と、役者として大きくなること。技量、腕を磨いて行くこと。一つ一つ作品をこなしてゆくことだと思っています。演出をやるのも、そういった自分のビジョンのためのものです。演出に挑戦することで役者の自分にもいい影響があると思うし、ふだん役者をやっているからこそ演出の時に出演者を(うまく)動かせるというのもあると思います。もの作りにあたっては、僕はちょっとひねくれているかもしれません。いつも“斜め”から物事を見たい。お客様が素直に一つの面を見ているとしたら、僕は別の角度から見て、“こっち側も面白いですよ~、気づいてますか?”と囁きかけるような作品を作っていきたいですね」

*****
『ミス・サイゴン』のクリス役について、期せずしてディープなお話をさせていただけた今回のインタビュー。どんな質問に対しても間髪入れず、明晰に、説得力をもって答える原田さんのご様子に、つい素朴な疑問を次々と繰り出してしまったのでした。この頼もしさ、流石は小学生のころから日本のミュージカルを担い続けてきた俳優さんならでは。今後エンジニア役も似合う役者になってゆくのか(?!)という興味はさておき、「日本の演劇界に貢献できる存在に」という志を必ずや遂げてくれるのでは、と大きな期待を寄せずにはいられません。

*公演情報*『ミス・サイゴン』2014年7月25日~8月26日(プレビュー公演7月21~24日)=帝国劇場、その後10月まで新潟、名古屋、大阪、福岡、横須賀を巡演。

*次ページで『ミス・サイゴン』観劇レポートを掲載しています!*
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