日本版ならではの風合いを持つ
「失われた記憶、過去」との対峙の物語
『ブラック メリーポピンズ』撮影:難波亮
『ブラック メリーポピンズ』撮影:難波亮
『ブラック メリーポピンズ』撮影:難波亮
『ブラック メリーポピンズ』脚本・作詞・音楽
ソ・ユンミさんインタビュー
(この取材は日本版の開幕前に行われましたが、いわゆる「ネタバレ」も含まれているため、初日を待っての公開とさせていただきました。これからご覧になる方は、舞台をご覧になった後でお読みくださるのが良いかもしれません。また、ソ・ユンミさんには『恋の駆け引きの誕生』来日公演の折にもインタビューしていますので、宜しければそちらもご参照ください。)――『ブラック メリーポピンズ』はとても独創的な作品ですが、どこからアイディアが生まれたのでしょうか。
「私は、世の中のどんな結果も、たった一つの原因から生まれることはないと思っています。様々な可能性の要素が絡み合い、ある結果を創り出すのではないでしょうか。それと同様、本作のアイディアは一か所からではなく、以下に挙げている様々な考え、人生の経験が絡み合って生まれてきました。
1 愛する母が突然亡くなり、“いなくなる”ことについて考えるようになったこと。
2 小さなころ、母が自分で結末を想像することを促しながら読んでくれた絵本と、オルゴールの遺品。
3 思いがけない不幸にみまわれ、記憶を消したいと思ったけれど、幸せな記憶が一つでもあるのなら消せないと思った経験。
4 催眠治療を試してみたが、医者を信頼できず、催眠状態に陥るまでに至らなかった経験。
5 ドキュメンタリー作家をしていた頃、犯罪者をインタビューし、誤った考えと異常な信念のために“罪”さえ“罪”であると認識できていない姿を見た経験。
6 入試の論述を教えながら西洋史授業をする中で感じた、時空間を乗り越える歴史の普遍性と、それが個人の人生に及ぼす影響。
7 普段から、失敗した実験にも価値があるという話を書いてみたかった。
8 私のいろいろな作品世界の主人公たちの自由意思。
その他……こんな全ての要素が入り交り、一つのストーリーが生まれました」
『ブラック メリーポピンズ』撮影:難波亮
「5歳の時からピアノを弾いてきましたが、演奏の才能はないと思い、音楽は専門にしていませんでした。スコアを見て暗譜するのがうまくできず、自由気ままに作曲して弾きながら、レッスン時間を過ごしていました。
小さい頃に学んだクラシックの影響を受けていると思います。クラシックの作曲家ではとりわけラフマニノフが好きです。高校生のころには夜明けに『ペ・ユジョン(Bae Yoojung 韓国の有名なMC兼通訳)の映画音楽』というラジオ番組を聞きながら眠りましたが、その時に聴いた映画音楽、なかでもエンニオ・モリコーネ、久石譲、ダニー・エルフマンなどの音楽のメロディを覚え、翌日ピアノで弾いてみたりしていました」
――作品の鍵となる人物がメリーかと思いますが、韓国版では若い女優さんが演じていらっしゃるようですね。今回日本で上演されるにあたり、この役をどんな人物として演じて欲しいと思っていらっしゃいますか?
「メリーは今現在にはいない“記憶の存在”ですから、30代の中盤、後半の若い女優さんをキャスティングしてきましたが、あえて若い女優をキャスティングする必要はありません。
記憶は編集され、歪曲されるものなので、ある記憶は鮮明に、ある記憶は薄暗く残ったりします。鮮明だった時間の中の美しい姿を思いながら(メリー役の)キャスティングをしました。
『ブラック メリーポピンズ』撮影:難波亮