ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

Star Talk Vol.11 今井清隆、新境地(?!)への挑戦(2ページ目)

その温もり溢れる声と存在感が愛され、『レ・ミゼラブル』『オペラ座の怪人』をはじめ、日本で大当たりした作品にはすべて出ている?!というほどの売れっ子役者、今井清隆さん。6月には話題作『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』に出演します。稽古が始まって1週間、百戦錬磨のベテラン俳優は余裕の笑顔で作品を語ってくれると思われましたが、意外にも……?!*観劇レポートを追記更新しました!*

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド


シェーンベルクの一言が転機に

――プロフィールを拝見していましたら、今井さんは英語の専門学校のご出身なのですね。

「英語の勉強をしようと思って入ったんだけど、そこの同じクラスに風早美樹さんという演劇評論家の方がいらしたんです。当時既に60歳くらいで、“おじさん、何しているの?”と話しかけたら、ミュージカルのことをいろいろ教えて下さって。家に遊びにいったら資料もたくさん持っていて、なんだかやりたくなっちゃったんですね。学校でミュージカル・サークルを作って、学園祭で『ラマンチャの男』を英語で覚えて演じたりしていました。あれが(芸の道を志した)始まりですね」

――今井さんというと、真っ先にそのお声を思い出される方が多いかと思います。生まれつきのお声なのでしょうか、それともだんだんと耕して来られたお声ですか?

「もともとこんな声で、子どもの頃から歌は好きだったけど、特に上手だと思ったことは無かったですね。それに、役者修業の最初の頃は和ものをやっていたんだけど、ずっと“変な声だ”と言われてたんです。脇役をやってると“主役みたいな大げさな声出すんじゃない”と怒られましたし。和ものの軽快な、長屋の会話みたいな芝居には向いてない、“お前は役者に向いてない”と言われて、ああそうなのかと思っていたけれど、『レ・ミゼ』に出たのが転機でした。作曲家のクロード=ミシェル・シェーンベルクから“素晴らしい声だ”と言われたのが、いまだに自分の支えになっています。“very, very, very, very nice voice”と言われたんですよ。もしかしたらみんなに言っているのかもしれないけれど(笑)。それまでそんなこと言われたことがなかったのに、世界の『レ・ミゼ』の作曲家に言ってもらえて、あれは嬉しかったですね」

――『レ・ミゼ』はやはりご自身の代表作と言えますでしょうか。

「大好きですよ。アンサンブルもやっていたから、日本ではかなり出演回数の多い俳優ではないかな。(昨年の)新演出バージョンも観ましたよ。初めての方にもとても分かりやすい演出ですよね。森とか下水道といった背景が映像で出てきて、状況がすぐ分かるし、映像がどんどん動いていって映画のような面白さがある。オリジナル版の方は、そういうものがないから、お客様が想像する。お客様と出演者が一緒に作り上げる舞台だったと思います。
『レ・ミゼラブル』写真提供:東宝演劇部

『レ・ミゼラブル』写真提供:東宝演劇部

ただ、バルジャンがジャベールを逃がした後、オリジナル版だと皆がライフルでカンカンカンと床を鳴らして称えるという演出だったけど、新演出だと誰かが『よくやってくれました』と言葉で言っているのが気になりました。私は、芝居の面白さって、想像することだと思うんですよ。そこには思い違いも生まれるかもしれないけど、それも含めて面白い。だから、鎌で刈る様子を(道具を使わず)仕草で表現したりするオリジナル演出が当初、私には新鮮に感じられたけど、(新演出版のリアルさの追求は)もしかしたらそれは今のお客さんの感性とは違うということなのかもしれないですね」

――今井さんほど大作にコンスタントに出演されている役者さんも珍しいと思いますが、それはとりもなおさず、安定性が高いということかと思います。安定性を保つ秘訣は?

「私、作品数はそんなに多くないですよ。ほどほどです。マネージャーの腕がいいんじゃない?(笑) 安定しているという実感もないですよ。毎回、必死で必死で。ついこの間も(『アダムス・ファミリー』(関連記事はこちら)のフェスタ―叔父さんという)不思議なお化けの役でねえ……」
『アダムス・ファミリー』撮影:引地信彦

『アダムス・ファミリー』撮影:引地信彦

――宣伝写真を拝見して、最初どなたか分かりませんでしたが(笑)、ノリノリでやっていらっしゃるのかなと思ってしまいました。

「分からないと思いますよ、でかい頭にしなくちゃいけないということで、鬘の中にいろいろ詰め物していましたし。おかげで本番中は暑くて大変でした。でも、恥ずかしがってたら観ている側も恥ずかしくなってしまうと思ったので、自分が楽しむということを最優先にやっていました」

――フェスタ―叔父さんはいわば、“いっちゃっている人たちの中でも一番いっちゃっている人”という役どころでしたね。
『アダムス・ファミリー』撮影:引地信彦

『アダムス・ファミリー』撮影:引地信彦

「でも、公演中は他の共演者たちが凄すぎて(笑)。私が一番まともなんじゃないか、もうちょっといかないといけないんじゃないかと悩んでましたよ。ただ台本では、フェスタ―叔父さんは月に恋して、最後は月に向かって飛んでいってしまうという設定で、面白く出来ていたんですよね。突然、月に恋焦がれて歌うソロナンバーが出て来るんだけど、あの歌が意外とリズムをとるのが難しくて。逆アクセントでとっていかないと半拍ずれていってしまうので、いつも拍数を数えながら、しかも暗闇で階段から落ちないように注意しながら歌っていました。でも、家族のことを誰よりも心配している叔父さんで、ちょっと間抜けなところもあって、愛すべきキャラクターでしたね」

――これまでたくさんのお役を演じていらっしゃいますが、個人的に最も共感できたお役は?

「たぶん『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』のハンラティになりそうですね。かなり好きですよ。長く演じたバルジャンや(『オペラ座の怪人』の)ファントムも好きでしたけれど」

――私は、ひょっとして『グロリアス・ワンズ』(関連記事はこちら)のフラミニオかな?と思ったのですが。最後のナンバーが役者さんの普遍的な心情を表しているように感じられます。
『グロリアス・ワンズ』写真提供:タチ・ワールド

『グロリアス・ワンズ』写真提供:タチ・ワールド

「観て下さっていたんですか! あれはね、役者にとっては泣かせる作品なんです。最後の歌(『I was here』私はここにいた)はね、人として生まれて何かを残したい、でも芝居って、形にできないじゃないですか。瞬間芸術で消えてなくなるものだもの、でも何か残したいという思いは、役者一人一人みんな持ってると思うんですよね。とても好きでした。ただ、あの作品も意外に歌が難しくて、5拍子と3拍子の組み合わせで、数えてないと間違うんですよ。今までやった中で一番難しい音楽でしたね。自分のコンサートであの曲を、ですか?いやあ、名曲でも、コンサートであの一曲だけ歌うのでは良さはでないでしょう。やはりあの劇世界でコメディア・デラルテの栄枯盛衰があって、座長のフラミニオが居場所が無くなって衝撃の行動があって、その後に出てきて歌うことで歌詞が効いてくる。切ないんですよね。役者として、『グロリアス・ワンズ』に出演して、あのナンバーを歌うことが出来たのは幸せでした」

――今、抱かれている目標は?

「とにかく、自分に負けないことですね。年齢とともに、台詞を覚えるのに時間がかかるとか、以前は出来てたことが出来なくなってくると、正直、くじけそうになることがあります。でも、そこであきらめたらさらに悪化するから、まだまだ若手には負けないぞ!という気持ちに戻ります。(先輩では)『ラマンチャの男』の松本幸四郎さんもますますいいお声になっていらっしゃるし、いっちゃん(市村正親さん)も頑張っている。先輩や同年代の方々の姿に触発されて、私も“よし、やろう!”といつも奮起しています」

*****

急遽決まった『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』のキャスト変更にあたって、今井さんからこぼれ出た、「泣きそう~(笑)」というお言葉。数々の大役を務めてきたスターには似つかわしくないかもしれませんが、飾り立てることのない姿からは、常に等身大で周囲の人々と作品を創り上げてきた彼の生き方がうかがえます。作品を、ミュージカルを愛するがゆえに、関わった作品、観た作品に納得できない点があれば、容赦なく鋭い批評を口にすることも。そんな彼が「既にかなり大好き」と公言するハンラティ役、貴重な(?)ダンス姿のみならず、今井さんの人生を反映した、滋味あふれる人間像に大いに期待できそうです。

*公演情報*『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン
6月21日~7月13日=シアタークリエ 7月16日=愛知県芸術劇場大ホール 7月18~20日=梅田芸術劇場シアタードラマシティ 

*次頁で観劇レポートを掲載しました!*

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