Andrew Lippa 1964年英国生まれ。2歳で米国に移住。ミシガン大学で歌唱と音楽を学ぶ。NYの高校で音楽教師を勤めながら作曲を続け、2000年に『The Wild Party』でオフブロードウェイ・デビュー、ドラマ・デスク・アワード他を受賞。『小公女』(2004)、『アダムス・ファミリー』(2010、トニー賞作曲賞ノミネート)、『ビッグ・フィッシュ』(2013)等のミュージカルの他、イベント・テーマ曲なども手掛ける。(C) Marino Matsushima

Andrew Lippa 1964年英国生まれ。2歳で米国に移住。ミシガン大学で歌唱と音楽を学ぶ。NYの高校で音楽教師を勤めながら作曲を続け、2000年に『The Wild Party』でオフブロードウェイ・デビュー、ドラマ・デスク・アワード他を受賞。『小公女』(2004)、『アダムス・ファミリー』(2010、トニー賞作曲賞ノミネート)、『ビッグ・フィッシュ』(2013)等のミュージカルの他、イベント・テーマ曲なども手掛ける。(C) Marino Matsushima

最新情報*『アダムス・ファミリー』再演が決定!*
2014年に初演、大きな話題となった『アダムス・ファミリー』が2017年10~11月、神奈川・大阪・富山にて待望の再演。風変りなお化け一家の騒動がさらにパワフルに、ハートウォーミングに描かれます。本作については主演・橋本さとしさんへのインタビュー、一家の娘ウェンズデー役・昆夏美さんへのインタビューも併せてお楽しみください!

*****
2001年に世界的なヒットを飛ばした映画版でも知られるひとコマ漫画、『アダムス・ファミリー』。そのミュージカル版は2010年、ブロードウェイを代表するスター、ネイサン・レインとビビ・ニューワースをオリジナルキャストに迎えて開幕し、スマッシュ・ヒットとなりました。作詞・作曲を手掛けたアンドリュー・リッパさんは本作の成功を受け、13年にはスーザン・ストローマンの新作『ビッグ・フィッシュ』にも起用。今、最も注目される作曲家のひとりでもあります。それまでも業界内では知られていた彼を一気にスポットライトの中に押し出した『アダムス・ファミリー』は、どのように作られていったのでしょう。そして彼自身、熾烈な競争を勝ち抜いてブロードウェイでどうチャンスを掴んできたのか、とっくりとうかがいました。

ブロードウェイ公演を到達点とせず、手を入れ続けた『アダムス・ファミリー』

――まずはリッパさんが『アダムス・ファミリー』に関わることになった経緯から教えて下さい。
『アダムス・ファミリー』撮影:引地信彦

『アダムス・ファミリー』撮影:引地信彦

「2006年のことです。シカゴの大学で、学生たちが創作ミュージカルを形にするのを手伝う仕事をしていた私に、スチュアート・オーケンというプロデューサーが“ランチをしながら新しいプロジェクトの話をしたいのだけど”と誘ってきて、“話というのは他でもない、『アダムス・ファミリー』のミュージカル化なのだけど、どうかな?”というんです。他に誰が関わっているのかと聞くと、マーシャル・ブリックマンとリック・エリスが脚本を書いているという。彼らが関わっているなら、と僕はすぐ“イエス”と言いました。原作にはテレビ番組で親しんでいて、キャラクターも好きだったし、大きなショーを書くいい機会だと思えましたしね。“で、どんなストーリーなの?”と聞くと、まだ何もないと言う。“それじゃ話し合わなきゃね”ということで、どんな物語ならありえるか、どうしたいか、どうあるべきかを話し合い始めました。驚くほどとんとん拍子に運んだプロジェクトだったんです」

――2006年にスタートして、2009年にシカゴで試演、その翌年にブロードウェイで開幕。その間、内容的に大きな変更はあったのでしょうか?

「大いにありますよ。もとのままの作品って、ほとんどないんじゃないかな。必要だと思って12ページ書いたシーンが、実は3ページで済んでしまったりしますからね。たいがいの人は要らないことを書きすぎるんです(笑)。アメリカでは作品が形になってくると1週間、俳優たちと集まって“29時間リーディング”というのをやります。ここで、本番でも実際に演じることになるかもしれない俳優たちの声で台詞や歌を発してもらい、皆で検討するんです。今回は幸運なことに、ネイサン・レインが初期段階から参加してくれました。そしてシカゴに持って行って大きく手を入れ、その後ブロードウェイに。また、成功作としては珍しいことに、ブロードウェイで上演後、国内ツアーに出るにあたって皆で話し合い、また変更を加えることにしました。僕は4曲を捨てて3曲新曲を書き、脚本家もかなり台本に手をいれました。だからこそ今、世界各地で本作が成功しているのではないかな。ここまでたどり着くにはかなりの紆余曲折があったけれど、とても満足しています」

――テーマは常に「家族の絆」だったのですか?
『アダムス・ファミリー』撮影:引地信彦

『アダムス・ファミリー』撮影:引地信彦

「だいたいね。ブロードウェイ版終了後の大きな変更点としては、主人公ゴメスと妻モーティシアの在り方があげられます。原作のコミックやテレビショーなどを観ると、ゴメスとモーティシアは常に(二人で一人的な)ユニットとして機能していて、事件は常に彼らとそれ以外の人たちとの間で起こっていました。ブロードウェイ版ではゴメスとモーティシアを単体として切り離してみたんだけど、それだけで十分だったのか?彼ら自身の間で衝突があるべきだったのではないか?という話がブロードウェイ閉幕後に出たんです。そこで、ゴメスが妻に対して秘密を抱えているという部分を膨らませることにしました。序盤に“Trapped”という曲があるでしょう。ツアーの最初にニューオーリンズで上演したら、この曲でそれまで聞いたことのない笑いが起きたんです。“これ知ってるよ、うちの家族でもこんなようなことが起きたよ”という笑い。これが新しいバージョンを開ける鍵となりました。ゴメスが秘密を抱えていたことに妻が激怒するという展開が加わることで、作品がより面白くなり、感情の起伏がつくことになったんです」

――苦労された点は?

「最初は、ネイサン・レインが主演ということで彼にソロを歌わせたいのだけど、ゴメスは一人になりたがらないキャラクターなので2幕までソロが無く、これはまずいと試行錯誤がありました。ブロードウェイまでに4回書き直し、その間、たくさん曲を書きましたよ。ブロードウェイ版では、蜘蛛が好き、妻のこともダークで好きという内容のナンバーがあって、それはそれでよかったんだけど厳密には僕らの求めるものじゃないと感じていた。ツアーで出したTrappedが非常に受けて、5曲目にしてようやく落ち着きました。僕の仕事はこのように、どんぴしゃの曲をどんぴしゃの位置に持ってくることなんです」

おバカなコメディに隠された深淵なテーマ

――それではお気に入りの箇所は?
『アダムス・ファミリー』撮影:引地信彦

『アダムス・ファミリー』撮影:引地信彦

「選ぶのは難しいけれど、一つはウェンズデーが家族に、ボーイフレンド一家が来るからちゃんとしてねと歌うナンバー、One Normal Nightです。家の中から始まってセントラルパークに出て、そこにはご先祖様たちもお出ましになって皆が一堂に会するというとても長いシーンで、話がうまく流れていると思います。もう一つは最後のMove Toward The Darkness。ここではアダムス家の生き方が歌われるのだけど、困難にぶつかるということは、自分たち自身、神、家族のみんなとの関係が深まるということだ。そこから逃げるのではなく、悲しみも困難も受け止めよう、という生き方なんです。ジョセフ・キャンベルと言う有名な作家が“あなたが入ることを恐れる洞穴の中には、あなたが求める宝がある”と言っているのですが、僕は本当にそうだと思う。前進は恐ろしくても、そこからは大きな力が生まれるものです。フェスタ―おじさんが月に飛んで行ったりと、ばかばかしさも程があるストーリーだけど、そこにはある真実が隠されています。批評家たちも観客も気が付かないようだけど、僕自身はここが気に入っています」

――日本の観客にどう楽しんでほしいですか?

「日本に縁のある知人たちからは、日本の観客は静けさのなかに敬意を秘めていると聞いています。だから彼らが曲のあとにいちいち拍手したり笑ったりしていなくとも、落ち込むなと。本作はアメリカのほか、ブラジル、アルゼンチン、フィリピン、スウェーデン、オーストラリアで上演されているし、今秋にはドイツ、来年はパリでも上演されます。国を問わず、“家族の危機”というのは普遍的なテーマだと思うし、誰もが同じようなことを感じると思います。文化が違っても「核」は同じなんです。日本の観客ともきっと、この作品のテーマを共有できるのではと期待しています。そしてできれば、大いに笑ってほしいですね。昨日、キャストの皆さんとともに記者会見に出たのですが、ゴメス役の俳優(注・橋本さとしさん)が言っている日本語は全く分からないにも関わらず、僕はずっと笑いっぱなしでした。彼の話し方とか場の持っていき方が、とても面白かったんです。きっと皆さんも彼や他のキャストを気に入るんじゃないかな」