ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

Star Talk Vol.7 橋本さとし、“旬”を生きる

野性的なアンチヒーロー役者としてデビューし、舞台・映像を問わず様々な作品に出演。その男らしい美声とスケールの大きな演技で、ミュージカル界を代表するスターの一人に数えられるのが橋本さとしさんです。最新作では『アダムス・ファミリー』ミュージカル版に主演。「演じる役の一つ一つが大切な子供」と、役に愛情深く向き合う彼の、思いが迸るトークをお届けします!*2017年晩秋、再演が決定しました!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

橋本さとしundefined66年大阪府生まれ。89年、劇団☆新感線の公演でデビュー、『BEAST IS RED~野獣郎見参!』で主演。退団後映画、テレビドラマ、声優と活動の幅を広げる。現在、NHK『プロフェッショナルundefined仕事の流儀』ナレーションを担当。ドラマ『平清盛』『ラスト・シンデレラ』映画『黒執事』舞台『噂の男』ミュージカル『ミス・サイゴン』『レ・ミゼラブル』『ジェーン・エア』などに出演。(C) Marino Matsushima

橋本さとし 66年大阪府生まれ。89年、劇団☆新感線の公演でデビュー、『BEAST IS RED~野獣郎見参!』で主演。退団後映画、テレビドラマ、声優と活動の幅を広げる。現在、NHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』ナレーションを担当。ドラマ『平清盛』『ラスト・シンデレラ』映画『黒執事』舞台『噂の男』ミュージカル『ミス・サイゴン』『レ・ミゼラブル』『ジェーン・エア』などに出演。(C) Marino Matsushima


最新情報*『アダムス・ファミリー』再演が決定!*
橋本さとしさんが2014年に主演、大きな話題となった『アダムス・ファミリー』が2017年10~11月、神奈川・大阪・富山にて待望の再演。風変りなお化け一家の騒動がさらにパワフルに、ハートウォーミングに描かれます。本作についての橋本さんのお話は本記事の2頁目でたっぷり。また作曲家アンドリュー・リッパへのインタビュー、一家の娘ウェンズデー役・昆夏美さんへのインタビューも併せてお楽しみください!

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NHKのドキュメンタリー『プロフェッショナル 仕事の流儀』のナレーションから、大作ミュージカル『レ・ミゼラブル』ジャン・バルジャンまで、多彩な作品で活躍中の橋本さとしさん。二枚目から敵役、癖のある役までこなす彼ですが、実はミュージカルに出演し始めた頃に筆者がお会いした橋本さんの印象は、ジョン・ボン・ジョビさながらの「ロックスター」。それから18年、どんな道のりを経て現在の彼に至っているのでしょうか。

気が付けば王道ミュージカルの世界へ

――96年の『ROCK TO THE FUTURE』のプロモーションの時にも取材させていただいているのですが、当日はインタビュー終了間際までサングラスをかけていらして、ちょっと怖かったです(笑)。

「ROCK TO THE FUTURE』プログラムより。写真提供:アミューズ

「ROCK TO THE FUTURE』プログラムより。写真提供:アミューズ

「あのころは必死でした(笑)。僕が東京に出てくるきっかけになった作品で、ダイアモンド☆ユカイさんや西城秀樹さんはじめ、錚々たるミュージシャンの中で真ん中を張らせていただいたのです。当時在籍していた劇団☆新感線でも、僕自身が大好きなKISSやエアロスミスなど、憧れのロックスターの姿を、一生懸命自分が体現しながら追いかけていました。でも現実的には僕、普通の大阪のお兄ちゃんなんでね(笑)。そこのギャップというものが(年月を経て)だんだん埋まって来て、本来の自分に近くなり、マイペースでできるようになっていきました」

――そこで出会ったのがミュージカルということでしょうか。

「基本的に、劇団☆新感線で培ったサービス精神、お客さんをとことん楽しませたいという気持ちは変わりません。ただ、昔はミュージカルと言うと“不思議な世界だなあ”と思っていました。目を輝かせながら歌うとか、突然踊りだすとか(笑)。でもどこかファンタジックでいいなあと憧れていました」

――劇団☆新感線の舞台も歌やダンスを取り入れていらっしゃいますが、ミュージカルは“別物”ととらえていたのですか?

「劇団☆新感線のみんなも、ミュージカルは大好きなんですよ。『ロッキー・ホラーショー』『ジーザス・クライスト=スーパースター』『トミー』といったロックミュージカルへの憧れから、劇団がスタートしたような面もあります。だけど劇団四季とか宝塚の方々とか、ミュージカルの王道を目指してやってきた方々とは違って、僕らは狸の着ぐるみを着ながらウェストサイド・ストーリーを踊ったりとか、俗にいうパロディで、ミュージカルに対する愛情を表現していました。『ロッキー・ホラーショー』みたいなエログロナンセンスで時代にショックを与える、かつ娯楽であるというのが劇団の原点だったのではないかな。

劇団を出てから、その『ロッキー・ホラーショー』、宮本亜門さんの『くるみ割り人形』や井上芳雄君と一緒にやった『シンデレラ・ストーリー』といったミュージカルをさせていただいていくうちに、気が付けば昔パロディでやってた『レ・ミゼラブル』のジャン・バルジャンを本気でやっていました」

――いわゆる王道ミュージカルは、2004年の『ミス・サイゴン』からでしょうか?
『ミス・サイゴン』(2002年)写真提供:東宝演劇宣伝部

『ミス・サイゴン』(2004年)写真提供:東宝演劇宣伝部

「はい、チャレンジ精神でオーディションを受けてみたんです。憧れていた王道ミュージカルの世界で、自分がどこまで通用するのか。劇団四季など大きな舞台で鍛えられてきた人たちが中心の世界に、小劇場で育った自分がそこに入ったらどうなるか。小劇場出身だからこそ、表現できるものもあるんじゃないかな、と。結果的に、エンジニア役をやったことで王道ミュージカルの世界に繋がっていったのは大きかったですね。

僕はいまだに突然ナンバーを“では歌います”ということができなくて、演技の延長線上の感情が盛り上がったところで歌うことしかできません。音符に乗ってはいるけど、あくまでも伝えているのは“言葉”。感情の乗った言葉を、音符に乗せて伝えたいと思っています。だから時々、この言葉を立てたいと思うあまり、音符からはみ出してしまうこともありますよ。特に翻訳ミュージカルでは、原詞の英語だと一つの音符に一つの言葉が入るのだけど、日本語だと入りきらないんですよね。英語だと“YOU”が一音に入るけど、日本語だと“あなた”の“た”しか入らなかったり。そうなると英語で作られた音符が手かせ足かせになることもあります」

“言葉”を手掛かりに、大役と格闘

――今まで一番大変だった作品は?

「それはもう、『レ・ミゼラブル』(2007、2009年)ですね。岩谷時子さんの訳詞は本当に素晴らしくて、日本語であのメロディにあわせるにはこれ以上はないと思えるほど完璧だし、シェーンベルクの音楽も感情にすごく乗っている。でも、演じる役者としては感情の流れは人それぞれだし、どう表現したいかというのも人それぞれ。ジョン・ケアードという演出家と“日本語ではこう感じる”とディスカッションの時間を大切にしながら、時間をかけて自分なりのジャン・バルジャンを作りこみました」

――昨年も大作『二都物語』に出演されましたね。
『二都物語』(2013年) 写真提供:東宝演劇宣伝部

『二都物語』(2013年) 写真提供:東宝演劇宣伝部

「『二都物語』は全編が歌というタイプではなく、芝居の中に歌がはめこまれたタイプのミュージカル。僕にとっては劇団四季出身の、濱田めぐみさんという本当にソウルフルな女優さんに出会ったことが大きかったです。妻役の彼女がエキセントリックに暴走するのを僕がどーんと包み込み、受け止めるという役でした。それまで僕はエネルギッシュな役が多くて、こういう役は初めてだったんですが、自分なりに一つ大人っぽい芝居ができたかな。できたかどうかは分からないけど、自分の中では発見のある舞台でした」

――そして今年は『シャーロック・ホームズ~アンダーソン家の秘密~』で幕開け。クールなイメージのホームズ役を橋本さんがなさるのが意外だったのですが、彼の苦悩がほとばしる終盤の大ナンバーを聴いて、なるほど!と感じました。

「先輩方からは“おまえがホームズ役って、謎が解けるのか?”と愛ある言葉をいただいたりもしたんですが(笑)、ご覧になった劇団☆新感線のいのうえひでのりさんと中島かずきさんは“日本一バカな役者がシャーロック・ホームズってどうなんだと思ってたけど、ホームズに見えたよ、役者だね”と言って下さって、勇気に繋がりました。シャーロック・ホームズは世界で聖書の次にたくさん読まれている本だそうで、世界各地のファンがそれぞれにホームズのイメージを持っている。誰が演じても必ず賛否両論になる役柄なので、それなら、と自分の中から生まれて来るものに正直に演じました。
『シャーロックホームズ~アンダーソン家の秘密』撮影:須佐一心

『シャーロック・ホームズ~アンダーソン家の秘密』撮影:須佐一心

終盤の大ナンバーは、エキセントリックで、謎解きにしか興味が無くて、恋愛からも遠いところにいるホームズが、自分の身を犠牲にするほどの愛を目の当たりにして、愛とは、人間の幸せとは、正義とはなんなんだろうと迷い葛藤する曲。人間的な部分にスポットライトをあてたのが僕のシャーロック・ホームズです。ジャン・バルジャンをやるにしてもエンジニアをやるにしても、次回作『アダムス・ファミリー』のゴメスを演じるにしても、僕は“人間的”でありたい。みんな皮膚一枚剥げば絶対赤い血が流れてるじゃないかという前提で、僕は役を演じていきたいです」

――それを伝えるために大切にされているのが“言葉”なのですね。

「そうですね。そこでチョイスされている言葉も重要だと思うんですが、岩谷時子さんも、『シャーロック・ホームズ』や次回作の『アダムス・ファミリー』でお世話になる森雪之丞さんも歌謡曲をたくさん手掛けて、この音符にどの言葉を乗せれば一番伝わるかというのを知り尽くしていらっしゃる。そういう方々が言葉を乗せていらっしゃると、信頼してスタートしていけるし、おのずと心が盛り上がってきます。今日も『アダムス・ファミリー』の歌稽古をやっていたんですが、気持ちよく(森さんの歌詞に)乗っかって歌えています。といってもまだ始まったばかりなので、これから演出の白井晃さんや森さんとディスカッションしながら、言葉の中に何が発見できるのか、どう歌いたいのか、もっともっと探って行けたら、と思っています」

*次ページでいよいよ『アダムス・ファミリー』について詳しく語っていただきます!
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