【これまでの話】
女子一人暮らし・危険の始まりは“ピンポ~ン”から
女子一人暮らし・玄関開けたら“ストーカー”?

友人と会ってから帰宅した翠。アパートの通路には人影は見えない。ホッとして自分の部屋に向かったが……。

帰宅時の出来事

玄関ドアを開ける前に気配をチェック!

玄関ドアを開ける前に気配をチェック!

翠はバッグからキーホルダーを出した。鈴が付いている小さなキーホルダーで、チリチリと鈴が鳴った。ドアを開けて玄関に入った。バッグを下ろすと、右足を上げてブーツを脱いだ。右足だけまずスリッパを履いて、ブーツをたたきに置いて、左足のブーツを脱ごうとしたときだった。

玄関ドアが音もなく開いた。と思うと、男が風のように入ってきて後ろ手にドアを閉めた。右足だけスリッパで左はまだブーツを履いたままという間の抜けたような姿で、翠は驚愕していた。何か言おうにも、息すらまともにできない。男は無表情で冷たいような、それでいて異様な光を放つ目で翠を見ていた。

激しい恐怖を感じながら、翠は一つ深呼吸をしてやっと声を出した。

「出て、出て行ってください!」
「………」
「勝手に人の家に入って来るなんて! 警察、呼びますよ!」
「………」

男は無言のまま、翠の腕をつかもうとした。翠は体を硬くして、悲鳴を上げた。

「出てって! 出てって! 出て~~~」

翠は脱いだばかりのブーツを取り上げると、男に向かって振り下ろした。男は両腕でガードするようにして体を引いた。翠は、自分でも驚くほどの声で叫んでいた。

ブーツを振り回されて大声を出されたせいか、男は肩をすくめながらドアを開けて外に出て行った。翠は左はブーツ、右はスリッパという足元に、手にブーツを持ちながら、急いで玄関ドアを引いた。そして鍵をかけると、ドアチェーンもかけた。そして、ドアスコープから外を見た。誰も見えない。男は去って行ったのだろうか。

一人暮らしの恐怖

恐怖から手足が震えていた。ようやくブーツを脱いで、部屋にあがった。カーテンの端から外を見た。何も変わりはなかった。翠は両手で顔を覆って、大きなため息をついた。涙があふれて出た。しばらく嗚咽した。ベッドに腰掛けると、携帯電話を取り出して、一緒に遊びに出かけた真理に電話をかけた。

「あ、翠? どした? 無事だった?」
「まりっぺ~、無事じゃなかったよぉ~。あーもう、どうして~って感じぃ」

翠は真理にいましがたの一部始終を話した。真理は黙って聞いていたが、翠が落ち着いたところで、静かに話し出した。

「翠の部屋は一番奥なんでしょ? その先はどうなってるの?」
「その先って、もう建物のはずれだけど」
「誰か人が入れるようになってる?」
「えっ? って、誰も入らないと思うけど」
「入らない、じゃなくて入れるかどうか、よ」
「そりゃまぁ、スペースはあるけど」

「じゃあ、そこに男がひそんでいたってことよね」
「あっ……。そうかも」
「家のドアを開ける前にそこに人がかくれていないか見たほうがいいよね。それと、家の鍵を開けて玄関に入ってからまず何をした?」
「何って、ブーツだったからブーツを片方ずつ脱いで。あ、バッグを床に置いたのが先かな」
「ダメじゃん。鍵を開けて入ったら、すぐにまずドアを引いて鍵をかけないと」
「あっ。わたし、いつも靴を脱いでから鍵をかけていた」

「その間はドアは開いたままでしょ? 近くに誰かひそんでいたら、ドアは開いているんだから、いきなりドアを開けられて入り込まれちゃうよ。ドアはすぐに閉めないと」
「うう。考えたこともなかったよぉ」
「玄関開けたら、すぐに鍵、だよ」
「わかったぁ~」

「それから、出かけるときもドアスコープで外をチェックしたほうがいいよ」
「あぁ、そうだね。そうする」
「あと、玄関ドアを開けるときって、今日のそんなことみたいに誰かに侵入されても怖いから、絶対にドアチェーンね。かけておいて」
「うん。わかった。ああ、なんだかもう玄関を開けるのが怖くなったよ」

「自宅はどこよりも安全であるべき場所なんだから、そこの鍵をしっかりかけるのは常識よ。開け閉めのときも慎重にしないと。出入りはすみやかに!」
「はぁ~。なんだか一人暮らしってメチャ怖いよぉ」
「なに言ってるの。まだ始まったばかりじゃない。まだ危険はあると思うよ」
「やだぁ。そんなこと言わないで~」
「とりあえず、今日の男がもう来ないことを祈ろう」

「警察に言ったほうがいいだろうか。でも面倒だな」
「届け出たほうが記録に残してもらえるし、パトロールも強化してもらえるかも」
「うーん。でも、めんどいからいいや。実害はなかったし」
「住居侵入の実害があったじゃん。まあ、今日の事件を時間経過でメモしておくとかね。男の人相風体とか。私も話は聞いたから覚えておく」
「よろしくねぇ。あー、もう怖い目に遭うのはイヤだ」
「気をつけることはたくさんあるから。ま、まめに連絡してよね」
「真理先生、頼みます!」

頼もしい真理という友人がいて本当に心強い。しかし、一人暮らしは楽しいものと思っていたが、怖いこともあるのだ。小さな部屋の中で、翠は寒気を覚えていた。



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