ミュージカル/ミュージカル・スペシャルインタビュー

小野田龍之介、遥かな目標【気になる新星vol.6】(2ページ目)

ダンスに歌、演技と3拍子が揃い、近年、『ウェストサイド物語』『ミス・サイゴン』等、様々な大作ミュージカルで活躍中の小野田龍之介さん。今年も『ラブ・ネバー・ダイ』に始まって大役が続く彼に、充実の日々を語っていただきました!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

小野田龍之介インタビュー(2014年)

小野田龍之介 91年神奈川生まれ。幼少からダンスを学び、舞台で活動を始める。ミュージカル『葉っぱのフレディ~いのちの旅』『テニスの王子様』『ドラキュラ』『新オオカミ王ロボ』『フットルース』『ザ・ビューティフル・ゲーム』など、多くのミュージカル、コンサートに出演。11年のシルヴェスター・リーヴァイ国際ミュージカル歌唱コンクールでは特別賞を受賞。(C) Marino Matsushima

小野田龍之介 91年神奈川生まれ。幼少からダンスを学び、舞台で活動を始める。ミュージカル『葉っぱのフレディ~いのちの旅』『テニスの王子様』『ドラキュラ』『新オオカミ王ロボ』『フットルース』『ザ・ビューティフル・ゲーム』など、多くのミュージカル、コンサートに出演。11年のシルヴェスター・リーヴァイ国際ミュージカル歌唱コンクールでは特別賞を受賞。(C) Marino Matsushima

人間界に降りてきた悪魔があちこちで起こす恋の騒動を描くミュージカル・コメディ『Love Chase!!!』。この日、稽古場では、さえない女の子が男性を紹介してもらえることになり、勇気を出して出かける場面がじっくりと練られていました。全体の様子を見た後で、演出家の玉野和紀さんは細かくディレクション。とりわけ、女の子が会う予定の青年と連れだって登場する友人3人衆に様々な注文を出し、その一人を演じる小野田龍之介さんは「こういうことですか」とすぐに応じ、芝居を膨らませていきます。人気ショー『CLUB SEVEN』シリーズで玉野演出は経験済みということもあってか、若手キャストの中でひときわ頼もしそうな存在に見えた小野田さん……ですが、後でカンパニー最年少であることが判明しました。
 

大笑いしながらも、ほろりとする作品に

――資料を拝見したら1991年生まれとのことで、まだ23歳なのですね。

「いえ、22で、7月に23歳になります。まだ22歳なの?とよく驚かれます。『Love Chase!!』のカンパニーでも、実は廣瀬大介君と僕が一番年下なんですが、信じてもらえません(笑)。自信が無いのに自信があるとか、緊張しているのに緊張してなさそうと思われたり……。なぜなのか、僕も知りたいです」

――今回、『Love Chase!!』ではどんなお役なのですか?

「一言で言えば“盛りだくさん”の役。若い男の子が、いろいろな愛の形を経験していくのですが、僕だけでなく全員がいろんなことをやる作品で、いったん舞台からはけてもすぐ違うことをしに出てきて、歌ったり踊ったり芝居をしたりで、休む暇がありません(笑)。いろいろなことが起こって、最初はお客様は“なんのこっちゃ”と思われるかもしれませんが、全てが伏線で繋がっていて、その意味が1幕の最後に分かる。お客様にどんどん前のめりになっていただけるよう、テンポよく僕たちが運んでいければと思います」
『ラブ・チェイス!!』

『Love Chase!!』

――2幕にはシェイクスピアをモチーフにした部分もあって、楽しいですね。

「名作の有名な台詞が出てきたりもするのですが、今回、僕は役作りというより、“小野田龍之介”として居ようと思っています。小野田龍之介がいろんな恋愛を通して勉強していく、というか……。ただ、玉野さんには強く言わせて頂きたいのが、今回僕は恋が一つも実らない設定なんですよ。廣瀬君と僕とで同じ職業の役を演じて、廣瀬君だけかわいく結ばれるシーンがあるんですが、そこで玉野さんがおっしゃったのは、“龍(之介)は得意でしょ、こっちのポジション”。ちょっと下世話な3枚目ということで、思わず“そっちですか!”と言っちゃいました。でも、2幕でほんの少しの間恋人がいる状況があるので、そこはめいっぱい楽しんで愛する喜びや苦悩を感じて、その後どーんとどん底に落ちれたらと思います(笑)」

――どんな舞台にされたいですか?

「実は僕、今回、本読み稽古の時に泣きそうになっちゃったんです。恋愛もそうですが友達とか、人間関係において忘れかけていた大切なことが作品に含まれていて、ついほろりとしてしまったんですね。後で玉野さんに話したら“そうだよね、今回はご覧になる方もほろりとするか、(登場人物たちが)バカだな~と大笑いするか、どちらかだよね”とおっしゃっていました。大笑いしながらも、ほろりとしていただける作品になればと思います。ラブが、心に沁みていただけたらいいですね」
 

ディズニー・ショーに憧れてミュージカルの道へ

――これまでの道のりも伺いたいのですが、小野田さんは10歳の頃から舞台に出ていたのですね。

「もう少し早かったかな。小学校2,3年生の頃からです。母親がダンサーだったこともあって、ダンスは身近だったし、イベントなどに声をかけていただくことも少なくなかったんです。最初に憧れたのは『おかあさんといっしょ』の歌のお兄さん。僕の頃は坂田おさむさんが歌のお兄さんで、よくマネしていました。その後、ディズニーランドでショーを観て、すごく幸せな気分になり、“僕もこうやって人を楽しませる人間になりたい!”と思って、練習を積んでいました。

そうこうするうちに、“そんなにダンスが好きならうちのスタジオに来ませんか?”とプロのダンススタジオの方に誘われて、行ってみたらディズニー・ショーのダンサーの方や元宝塚、元劇団四季の方々がたくさんいるところで。そこから徐々にプロのミュージカルに出演するようになっていきました」

――外から見るのと実際に経験するのとでギャップはありましたか?
 
『新オオカミ王・ロボ』(13年)ビンゴ役

『新オオカミ王・ロボ』(13年)ビンゴ役

「なかったですね。大変なのはもちろんですけど、舞台に出た時の喜びというのはお客さんとして観て得る喜びの倍以上あるので。最近、年下の人たちから“小野田さんと共演したくてレッスンしてます”と言われることがあって、かつてディズニーのダンサーたちに憧れた頃の自分を思い出して、とても幸せな気持ちになります。しんどさはもちろん毎日感じているけど、やめようと思ったことは今まで一度もありません」

――転機になった作品は?

「最近では『パルレ~洗濯~』というミュージカルです。今回共演している野島直人さんとWキャストで、初めて海外の演出家と仕事したんです。韓国人の彼は基本的には演劇の演出家で、その手法はとても勉強になりました。例えば、屋上で好きな人を思い浮かべながら洗濯物を干して歌うシーンで、気持ちが盛り上がるので僕もうわ~っと歌っていたら、演出家さんが「龍之介さん、ここはどこですか」と言う。「屋上です」「屋上でそんな声出してたら通報されちゃいますよ。鼻歌を歌うくらいでいいです」。

もちろん、それはその演出家のやり方で、それがすべてではないと思いますが、それまで大きな劇場でやらせていただくことが多かったので、「声って大きく出さなくてもいいんだ」というのは大きな発見でした。それまでは、10代でとにかくエネルギッシュにやることが多くて、若い俳優が出させていただく意義ってとにかくエネルギーを出し切ることだから、それでよかったのですが、『パルレ』をきっかけに内に秘めた役もやらせていただくようになって、新たなお芝居の楽しさを感じられるようになりました」

――2011年にシルヴェスター・リーヴァイ国際ミュージカル歌唱コンクールに出場されたそうですが、どんな経緯だったのですか?

「当初ハンガリーで、ヨーロッパ人だけを対象に行う予定だったそうですが、リーヴァイさんが来日された折に“日本からも出場者を募りたい”ということで急遽俳優が集められ、日本代表のオーディションが行われたんです。『エリザベート』のルドルフの曲と『モーツァルト!』の「僕こそミュージック」を歌ったら、翌日、選ばれたからハンガリーに飛んで下さいと言われました。

セルビアのスボチカ市でまず準決勝があったのですが、出場者は100人以上で、二日間にわたって行われました。僕は二日目だったので一日目は客席で聴いていたら、まるでコンサートに来たみたいに皆うまいし、審査員席にはリーヴァイさんはもちろん、『エリザベート』のタイトルロールを演じたマヤ・ハックフォールトさんを始め、有名な方々ばかり。二日目、僕はちょっと(海外風の歌唱の)真似をしてみようと思って、やり過ぎなくらいに歌ってみたら、決勝に進めることになって、ハンガリーでの決勝でも特別賞をいただくことができました。後で、出場者はヨーロッパで『春の目覚め』や『ロミオ&ジュリエット』で主役を演じている俳優ばかりだったと聞いて、そういう中で賞をいただけて光栄だし、本当に音楽に国境はないんだと感じました。この時出会った人たちとは今も交流が続いています。このコンクールも僕にとっては大きな転機です」

――“やり過ぎな歌唱”が出来るということは、海外ミュージカルに向いていらっしゃるのですね。

「リーヴァイさんやワイルドホーンさんの作品が好きです。今まで自分が歌って一番好きだったナンバーは、ワイルドホーンさんの『ドラキュラ』で精神病患者のレンフィールドが歌うナンバー。20歳になりたての頃だったので、ぐいぐい歌ってしまったけど、今ならもう少し違った風に歌えるかもしれません。ぜひもう一度やってみたい役です」

――小野田さんは様々な役を手堅く演じていますが、今後、自分の中で得意にしたい役どころは?
 
『ザ・ビューティフル・ゲーム』撮影:近藤明子/(C)スマートボーイズ

『ザ・ビューティフル・ゲーム』撮影:近藤明子/(C)スマートボーイズ

「王子様系より、変わった役が面白いです。ミュージカルなら『エリザベート』のルキーニとか、大好きですね。狂言回しで、人を斜めから見ている。きれいな役よりロックな役とか苦悩する役が好きなんですよ。『エビータ』のチェや、『ジーザス・クライスト=スーパースター』のユダもやってみたいです。年齢的にはルドルフだとかウォルフガングを目指すべきなのかもしれませんが……。でも、最高級に目指しているのは、『シラノ』です。二枚目でも何でもないけど、一筋に人を思ったり、自分の意思で生きていくこの役が、男から観てもカッコよくて、歳を重ねたらぜひ到達したい役です」

――最近のスケジュールを拝見すると、一つの作品が終わって1カ月足らずでまた次の舞台が開幕といった具合に、大変な売れっ子ぶりです。

「ありがたい事です。でもいろんな作品に巡り合うということは、いろんな人生を送れるわけで、スケジュールが重なると大変ではあるけど、舞台に立てば“楽しい!”と思えるから、全然苦ではありません」

――今後、役者の道をどう歩んでいこうと思っていらっしゃいますか?

「最近、共演者からちょっと教えてもらったことが影響して、少し歌唱法が変わってきたんですよ。そういうことがあると、一か月どこかに留学したり、どこかの劇団に属してみるといったことも体験してみると、さらにいろんな表現が身について大きくなっていけるのかなとも思ったりします。

一つ一つの役との出会いを大切にすることはもちろん、プライベートでもいろんな人に出会って、妥協しない人生を送りたいです。そういう中で大人の魅力だったり、ダンディさが生まれてくるのかと思っています。自分の信じた道を懸命に歩いていきたいです」
 

演出家、玉野和紀さんが語る“役者・小野田龍之介への期待”

その後、名ダンサーでもある本作の演出家、玉野和紀さんに、小野田評をうかがいました。玉野さんの人気ショー『CLUB SEVEN』シリーズでも起用され、小野田さんは玉野作品の常連俳優となりつつあります。

――小野田さんを今回起用されたのは?

「龍は若手だけど歌えて踊れる。そういう人材が今回必要だったんです」

――どんな役者でしょうか?

「もちろん若いからこれからではあるけれど、小さい時からやっているので踊りとか歌とかテクニカルなことは備わっている。これから内面を磨いていけばと思います。
 
『CLUB SEVEN 9th Stage!』写真提供:東宝演劇宣伝部

『CLUB SEVEN 9th Stage!』写真提供:東宝演劇宣伝部

でも全然焦ることはありませんよ。プリンシパル(主役)が出来るレベルではあるけど、逆にそれをやらないで、しっかり下積みしていけばいいなと思って見ています。30歳前にいい役がつけばいいわけで、それまではまだまだ勉強することはいっぱいあります。テクニカルなことだけではなくて人間的な部分、それがお芝居になってくるんですよ」

――どう成長していきそうでしょうか?

「まだまだ未知ですよね。若手で踊れる人間が少ない中で、彼は踊れるので希少価値は高いと思います。踊りのニュアンス含め、いろいろ勉強し続けていけば、ある日ぼっと大輪の花が咲くのではないかな。

今は人気があれば10代でもとりあえず主演させるような世の中になってきているけれど、それは本人にとっては良くないんですよ。身についているものがないから、30歳でもうキャリアが終わってしまったりする。僕たちが若いころは、20代はレッスンの日々で、実力がないと出られなかったし、いい意味の年功序列で、うまく踊れても先輩が前というのがあったけれど、それが良かったような気がします。出た時には本当にうまくなっていて、50、60(歳)になっても続けていられるわけですから」

――『Love Chase!!』、どんな舞台になりそうでしょうか?
 
『Love Chase!!』稽古より。右から玉野和紀さん、小野田龍之介さん、青柳塁斗さん。(C) Marino Matsushima

『Love Chase!!』稽古より。右から玉野和紀さん、小野田龍之介さん、青柳塁斗さん。(C) Marino Matsushima

「まだ分からないですね。(技術的に)難しいことをやっているので、慣れていない出演者にとってはなかなか掴みにくいかもしれません。1幕はオムニバスで、パワーとダッシュが必要なんですよ。一本もののゆったりと物語を追っていく作品とは違って、背景が何もない中で、ぽっと面白いものをやっていかなくてはいけない。俳優としては、地あかりだけで衣裳も無しで“やってみろ”と言われているような感じでしょう。それだけ心を全部オープンにしていかないと成立しません。

紫吹淳さんや水夏希さんは宝塚でいろんなことをやってきているのでさすがだなと思うし、(原田)優一や龍は『CLUB SEVEN』にも出ているので僕の感覚は掴んでいるけど、他の面々はちょっとやっては“違う”と言って、苦労しています。コメディって、悲しいドラマよりむしろ難しいし、ダンスも(形にするまで)時間と手間がかかる。作っている今はとてもしんどいけど、その分、開幕した時にはみな、役者として一皮むけて、楽しい舞台が出来上がっている……はずです(笑)」

一見素っ気なく聞こえる玉野さんのコメントからは、小野田さんをはじめとする若手俳優たちに対する、「息の長い、真の役者に大成してほしい」という玉野さんの親心(?!)が、ひしひしと伝わります。「人を育てる、ましてやコメディでというのは大変」と言いつつもあえてその任を担う玉野さんの期待に、小野田さんたちがどう応えるか。ハチャメチャなラブ・コメディに大笑いしながらも、作り手、演じ手たちの熱いハートに、ほろりとさせられる舞台となりそうです。

*公演情報*『Love Chase!!』2014年4月9日(水)~4月24日(木)/シアタークリエ、5月1日(木)/愛知県芸術劇場大ホール、5月3日(土)~4日(日)/サンケイホールブリーゼ

*次頁で『Love Chase!!』観劇レポートをお届けします!
 
  • 前のページへ
  • 1
  • 2
  • 3
  • 次のページへ

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます