※2013/11/12 11月東京公演のレポートを追記
『レ・ミゼラブル』冒頭、囚人たちの労働シーン。写真提供:東宝

『レ・ミゼラブル』冒頭、囚人たちの労働シーン。写真提供:東宝演劇部

今年ロンドン初演から28年目となる『レ・ミゼラブル(以下レミゼ)』は、様々な点でミュージカルの新たな歴史を拓いた作品ですが、その一つに『オペラ座の怪人』などと並び、演出と上演権をセットで扱うようになった先駆的作品であることが挙げられます。

それまで、ミュージカルは台本と譜面に沿って自由に演出されるのが基本でしたが、80年代以降は逆に、世界中どこでも同じ演出で上演されるのが主流になってきたのです。『レミゼ』のオリジナル演出は、バリケードのシーンが他のミュージカル(『クレイジー・フォー・ユー』)でジョークネタにされるほど、世界各国の観客に強烈な印象を残し、クラシック(古典)と化していました。

それだけに、プロデューサー、キャメロン・マッキントッシュの「25周年を記念して、演出を刷新しよう」という決断は、非常に大きなものだったはずです。

演出の出発点は原作者ユーゴー作の抽象画

ある意味「賭け」ともいえる、今回の新演出。引き受けたローレンス・コナーとジェームズ・パウエルは、観客にまず一枚の絵画を呈示します。

舞台上に映し出されるその絵は、「青空」と呼ぶにはあまりにもくすんだ鼠色の空間に、殴りつけるように黒い筆跡を走らせたもの。下方にあるサインから、ミュージカルの原作者ヴィクトル・ユーゴーが描いたものであることが分かります。19世紀の絵画としては異例な、抽象画に近いこの作品は、いったい何を描こうとしているのか。当時の不穏な世相の反映か、民衆の、あるいは作者自身の抑圧された感情か……。

あれこれ想像を巡らせたころ、オーケストラの重厚な音色が響き渡ります。絵画を通して作者の内面を考えさせることで、観客はスムーズにユーゴーの視点から、その時代のドラマをリアルな感覚をもって観ることができるという仕掛けです。

舞台は、先だって公開された映画版同様、船上に設定された受刑者の労働シーンから始まります。続いて仮釈放となったジャン・バルジャンが方々で冷遇され心荒ませるくだり、そして唯一受け入れてくれた教会の銀の食器を盗み、司教に諭されて改心するシーン……。

労働シーンの水しぶきなど、さりげなく駆使される映像の効果もあって、従来の『レミゼ』最大の特徴、「回り盆」装置を使っていないにも関わらず、舞台は流れるように、スピーディーに展開していきます。