ミュージカル/注目のミュージカルレビュー・開幕レポート

圧巻の人間ドラマ・新生『レミゼラブル』開幕レポート(3ページ目)

3年前、ロンドン初演25周年を記念して登場した『レ・ミゼラブル』新演出版が、ついに日本にも上陸しました。「あの」名作ミュージカルがどう生まれ変わったのか、キャストの熱演ぶりを含め、レポートします!*日本各地での公演を経て11月、東京に帰ってきたカンパニーの様子も追記します!

松島 まり乃

執筆者:松島 まり乃

ミュージカルガイド

11月、東京凱旋公演が開幕!

2013年4月に東京・帝国劇場で開幕し、博多、大阪、名古屋と各地を巡演してきた『レ・ミゼラブル』が11月、東京へと帰ってきました。
『レ・ミゼラブル』2幕「彼を帰して」を歌うバルジャン(福井晶一) 写真提供:東宝演劇部

『レ・ミゼラブル』2幕「彼を帰して」を歌うバルジャン(福井晶一) 写真提供:東宝演劇部

半年のあいだ練り上げられたことで、舞台はさらにダイナミックに。例えば春の開幕当初は民衆たちの怒りや憤懣が、大きなうねりとしてアグレッシブに放たれていましたが、今回の凱旋公演では一人一人の芝居がさらに個性豊かなものとなり、よりリアルで厚みある群像劇が立ち現れています。

この日のバルジャン(福井晶一さん)は、これまで筆者が観た中でおそらく最も、言葉を聞かせるバルジャン。流麗なメロディに言葉を埋もれさせも雰囲気で流しもせず、歌詞を細やかに吟味し、立てるべき言葉を立てて歌っています。この歌唱はとりわけ序盤、激しく揺れ動くバルジャンの心情を浮き彫りにし、観客の心を一気に彼のそれへと引き寄せて効果的です。
『レ・ミゼラブル』エピローグ。写真提供:東宝演劇部

『レ・ミゼラブル』エピローグ。写真提供:東宝演劇部

また、娘として迎えることになったコゼットと「ラ~ラララ~ラ~」と歌いながら歩くくだりでは、子守歌風に優しく歌うのではなく、新たな人生に踏み出す彼女を鼓舞するように力強く歌唱。成長した彼女と恋人のマリウスに語りかけるシーンでは、やや背中を丸めて歩く姿に、喜びや自制心、寂しさを滲ませるなど、コゼットへの愛情が原動力となっているバルジャンの一貫した生き方が見られます。それだけに、ひっそり孤独のうちに召されようとしていた彼がコゼットに見守られながら旅立ち、ファンテーヌや司祭をはじめとする多くの死者たちに、その人生を肯定されるように迎えられてゆく様は、大きなカタルシスを呼ぶのです。

例えば映画版ではバルジャンの艱難辛苦が強調され、それに立ち向かう人間の魂の崇高さが印象付けられていたように、骨子は同じであっても本作がもたらす感慨は、主人公・バルジャンの造型によってさまざまに変化します。今回の福井バルジャンは、何より「愛する対象を持つこと」の幸福、そしてそれが時に(ジャベールが信じるところの)「正義」を凌駕するほどの強さを持ちうることを示すバルジャンであると言えるでしょう。

『レ・ミゼラブル』エポニーヌ(綿引さやか) 写真提供:東宝演劇部

『レ・ミゼラブル』エポニーヌ(綿引さやか) 写真提供:東宝演劇部

自分の絶対的な信念がバルジャンとの出会いによって崩壊し、破滅してゆく過程を鮮やかに表現するジャベール役・川口竜也さん。報われない愛に殉じる娘をまっすぐに過不足なく演じ、その最期が哀れを誘うエポニーヌ役・綿引さやかさん。圧倒的な歌唱で多重唱「ワン・デイ・モア」を力強く牽引するアンジョルラス役・上原理生さん。そして要所要所で見せる仲睦まじい描写で、似た者夫婦ならではの生命力の強さを見せつけるテナルディエ夫妻役・萬谷法英さん、谷口ゆうなさんら、他のキャストも印象的です。

ひとまずはこの凱旋公演で幕を閉じる、『レ・ミゼラブル』新演出版。公演中は毎回、当日券も出るそうです。舞台写真はもちろん、本作の生みの親ともいえるプロデューサー、キャメロン・マッキントッシュへのインタビューなど、新たな要素も盛り込まれたプログラムも読みごたえ十分です。

*公演情報*『レ・ミゼラブル』2013年11月27日まで上演中=帝国劇場 
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