花總まり 東京生まれ。91年宝塚歌劇団入団。94年雪組娘役トップに。98年宙組に組替え。宝塚時代の代表作に『エリザベート』『ベルサイユのばら』など。06年退団。娘役トップ在任12年間は宝塚史上最長記録。退団後もミュージカル『ドラキュラ』『NO WORDS, NO TIME~空に落ちた涙~』『モンテ・クリスト伯』などで活躍している。(C) Marino Matsushima
『エリザベート』『モーツァルト!』などで日本にも数多くのファンを持つミュージカル作者、クンツェ&リーヴァイ。彼らの新作『レディ・べス』が、ついに4月、日本で開幕します。作品が描くのは、英国のみならず世界史に名を残すエリザベス(花總さんと平野綾さんのWキャスト)が、吟遊詩人と恋に落ち、姉に弾圧されながらも強く生き抜き、女王として戴冠式を迎えるまでの波乱の青春。作者たち、そしてワールド・プレミアを心待ちにしている観客たちの期待に応えるべく、花總さんは念入りに役を練っているようです。
英国で触れ、感じた“レディ・ベス”の実像
――1月に英国にリサーチに行かれたのですね。「はい。今回が初めてのイギリスで、緑豊かな景色や街並みなど、日本とは全然違う雰囲気を体験することが出来ました。エリザベスに関するものも様々に現存しているので、滞在期間は正味二日と短かったのですが、くまなく巡り歩くことができ、充実した時間を過ごすことができました。ウェストミンスター寺院では、実際に眠っていらっしゃるところで手を合わせてきました」
――英国の寺院では、建物の床の下にもお墓がたくさんあるのですよね。
「そうなんですよね。寺院内を歩いていると、床のあちこちに(その下で眠る人の)名前が書いてあって、見学者の方々が皆さん踏んで歩いていらっしゃることに最初は“いいのかな……”と驚いていたのですが、公認ガイドさんに伺ったところでは、そのほうが供養になるという面もあるそうなんですね。エリザベスのお墓も床の下でしたが、その上に彼女が横たわっている像がありました。渡英前に、(演出の)小池修一郎先生から“なんと(敵対関係にあった異母姉の)メアリーと二人で一つのお墓なんだよ”と聞いていたのですが、本当にそうで、感慨深いものがありました」
――それはもしかして、本作のインスピレーションにもなっていたりするのでしょうか?
「それは分かりませんが、二人は敵対する時代もあったけれど、複雑な境遇で育ったという点では似たような面もあり、実際には仲の良かった時代もあるそうなんですね。観ていて複雑な気持ちになりました」
――デスマスクのレプリカや、肖像画もいろいろとご覧になったそうですね。
「一般的には、若いころ……13歳くらいの頃の肖像画がよく知られていますが、ウェストミンスター寺院で眠っている像やデスマスクなどを見ると、またちょっと印象が違うような気がしました。もちろん若い頃も意志がはっきりした知的な印象なのですが、晩年になると、一国を背負った芯の強さがまざまざと滲み出ているように感じましたね。私が今回演じるのは戴冠するまでの間なので、もっと若い時代ではありますが、現地でいろんな肖像画を見ることができてとても良かったです」
『レディ・ベス』
「どの時代でも、現代でもそうだと思いますが、高貴な境遇に生まれた方は、若くして世の中を見る目というものを持っていますよね。べスも、早い頃からとても勉強好きで、外国語にも堪能で、一説によると、若いのに40歳50歳の方がするような挨拶をして相手を驚かせたという逸話が残っていたりします。私の中では、彼女は決して“普通の女の子”ではないという印象です。もう一つ、小さいころから“父(ヘンリー8世)のようになりたい、それによって自分は(他の男の子ではないかと言う人もいるが)確かに父の子だったと思いたい”と願いながら、もがいている部分もあったと思います。それが、本作にも描かれているように様々な経験をしていくことで、もう一つ世界が広がると言うか、いろいろなことに背中を押されて、神様と英国が自分を選んだのならそこに身を置きましょう、と覚悟を決めることができたのかなと感じています」
――これまで花總さんが演じて来られたヒロインは、まずヒーローという存在がありきでしたが、今回はヒロインが芯ですね。
「すごく身が引き締まる思いです。でも実際にしっかりと生きぬいたエリザベスが、今回の舞台でも私の立ち方、居方を助けてくれるのではと心強く思っています」
――高貴な女性を演じる時には、自分の中で役の要素を探す感じでしょうか、それとも異次元に飛び込む感じでしょうか?
「両方ですね。この人は実際どうだったのだろう、どういう気持ちでこれを喋っていたのだろう、そこに共感できるからこそ台詞を喋ることが出来ます。私の場合、とにかく実際どうだったのだろうと考えて、“ああ、この気持ちか……”と納得できるものを見つけた時に、やっとその人になれます。想像だけで、かけ離れたところに行ってしまうと、うわべだけになってしまうような気がするんです。一場面、一場面、一台詞、一台詞、そういう気持ちを探りながらやっています」
『レディ・ベス』稽古より
「私もはじめは“ここは小池先生っぽいな”と思いましたが(笑)、本作はクンツェさんの脚本なので、さすがに私のために……みたいなことではなく、最初からそう書かれていたのだと思います。でもこういうシーンで調子に乗ると、台詞で喉をこすってしまうので、うまく調整してやらなくてはと思っています。そこだけ楽しくやってしまうと後が続かない。なかなかむずかしいです。
でも、台本を読む前は、エリザベスと言う波乱にとんだ人の物語なので、シリアス一辺倒の作品なのかと思っていたのですが、読んでみると全然違うんですね。いい意味での観やすさというか、軽やかさ、テンポの良さがあって、面白い作品だと思います。音楽もとても素敵です」