坊主頭と迷彩服でラインに並んだ『レ・ミゼラブル』オーディション

――『レ・ミゼラブル』には2011年のジョン・ケアード版の最終公演からのご参加ですが、当初はバルジャンでもジャベールでもない役でオーディションを受けたとか。

吉原
そうなんですよ(笑)。実は当時まだちゃんと『レ・ミゼラブル』という作品を観劇した事がなくって、キャラクターのプロフィールを読んで「あ、革命家! 自分はこれだろう!」ってアンジョルラスのオーディションに行っちゃった……チェ・ゲバラをイメージして坊主頭に迷彩服着用で(笑)。で、現場に着いてラインに並んでみると他は皆キラッキラしたイケメンなんですね。あちゃーと思ってたら審査員の方から「君、こっちじゃないよね。」って言われ、アンジョルラスの歌唱審査もないままジャベールのラインに連れて行かれました。「どんな役なんですか?」って確認すると「ジャン・バルジャンを追い詰める警部の役。」って返ってきて「あ、まあそうだよな。」って妙に納得したりして。最終的にはバルジャンで出演する事になりましたが、スタッフの皆さんには本当に助けて頂きました。

――そして2013年の新版ではあの大変なスケジュールの中、バルジャンとジャベールの二役を担当されました。

レミゼ

『レミゼラブル』バルジャン(上)とジャベール(下)写真提供:東宝演劇部

「生かされているバルジャン」と「空気を変えるジャベール」

吉原
演じていてキツかったのは実はジャベールの方なんです。バルジャンは「生きている人」というより「生かされている人」。19年の投獄生活の後、ミリエル司教によって魂を救われ、ファンテーヌやコゼット達によって生かされている。だから舞台に立っている時に周りの人達を受け容れ、信じている事が役を生き抜く、作品の中で生きるという事に繋がって行く。

ジャベールは空気を変えるという役割を担って舞台に出る。実はジャベールの登場回数ってそんなに多くはないんです。でもその時々で場の空気や色を変え、何かを残して舞台から去らなければいけない。この時に必要な集中力たるや凄まじくてそう言う意味では大変でした。ジャベールを演じている時、最初の内は楽屋に戻って衣装を脱ぐと彼が自分の中から出て行ってしまう気がして、スタッフさんに話をし、ある時期までは舞台の袖でずっと舞台を観ていました。袖からもバルジャンを追い続けていたんですね。

――そして6月は帝劇の『シスター・アクト』でコメディに挑戦ですね。

帝劇

帝国劇場 『シスター・アクト』(写真提供:東宝演劇部)

これはもう『レ・ミゼラブル』とも清水邦夫さんの戯曲とも全く違う世界観……めちゃめちゃ楽しいコメディです。僕が演じるのはカーティスというマフィアのボスなんですが、映画版では大好きなハーヴェイ・カイテルが演じている事もあり、オファーを頂いた時は素直に嬉しかったです。ただ、コメディって実は1番難しいというか、俳優としてコンプリート力を始め、色々なものを要求されると思うんですね。そういう作品に帝劇と云う大きな舞台で挑戦させて頂ける事はとても幸せな事だし、新しいタイプの役にチャレンジする事を今から楽しみにしています。

吉原

(撮影: 演劇ガイド・上村由紀子)

この日、約1時間吉原さんにお話を伺い、改めて”演劇の神様に選ばれた人”だと思いました。やんちゃをしていた時代に「楽そうだから」と入った専門学校で『ジーザス・クライスト=スーパースター』に出会って衝撃を受け、後に同作のユダを演じながらも劇団を退団。先の見えない生活の中、いくつかの偶然の出会いから響人を創立し、ストレートプレイに拘りながら、『レ・ミゼラブル』でバルジャンとジャベールの二役を演じる……。ご本人の意思だけではない所で何かに導かれ、舞台に立っている稀有な存在の俳優。

穏やかで深い語り口の裏に、彼がこれまで歩んできた王道ではない様々な小道や回り道がふと見える様な気がしたのがとても印象的でした。

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