演劇・コンサート/演劇関連インタビュー

演劇cafe vol.3 吉原光夫さんインタビュー!(2ページ目)

演劇ガイド・上村由紀子が”今、会いたい演劇人”にインタビューする【演劇cafe】。 第3弾は『レ・ミゼラブル』でジャン・バルジャンとジャベールの二役を鮮烈に演じた記憶も新しい吉原光夫さんです。創立メンバーでもあるArtist Company 響人では出演、演出、若手育成と様々な立場で活動する吉原さんに劇団時代の事やレミゼの裏話、そして響人に対する思いを伺って来ました。『楽屋』の稽古場リポートもお楽しみに!

上村 由紀子

執筆者:上村 由紀子

演劇ガイド


吉原

(撮影: 演劇ガイド・上村由紀子)


――それは確かに凄い伝説!

吉原
他にも、保坂知寿さんと一緒のカンパニーになった時に「素敵な人だなあ。」と思って「俺とデートして下さい!」ってナンパ(?)してたら、先輩の芝清道さんに「ちょ、お前何やってんだ、ちょっと来い!」って連れて行かれてめちゃめちゃ怒られました。

――芝さんに取材させて頂いた時、「光夫は弟分」って仰ってましたよ。

吉原
『ジーザス・クライスト=スーパースター』のユダやシモンもそうですが、芝さんが演じた役を引き継がせて頂く機会が多かったこともあり、本当に可愛がってもらいました。地方の公演に出てる時はお金もなくて、そんな時に「おい、飯行くぞ。」って声を掛けて下さったり。作品や演技の事でやられる時はボコボコに打ちのめされるんですが……。あの感覚は劇団ならではのものだとありがたく思ってます。

「夢は何ですか?」の問いに答えられなかった事実に愕然……
そして退団……更に新しい世界へ

――そして夢にまで見たユダを演じた後に劇団四季を退団なさる訳ですが、それはやっぱり小浜島の一件が大きかった?

吉原
そうですね。実はその2年位前から自分の中で色々思う所もあったんですが、決定的だったのは『ジョン万次郎の夢』という作品で沖縄の小浜島に行った時。島の子供たちに「夢は何ですか?」って聞かれてその時居た6人の俳優が誰もその問いに答えられなかったんですね。で、これは駄目だろう、何かが違うだろうと思い、退団を決めました。

――退団後、広瀬彰勇さん、高橋卓爾さんと響人を創立するまでに2年のブランクがありますよね。

吉原
特に何か明確なビジョンがあって退団した訳ではないので、劇団を辞めた後はバイク便や博多ラーメンの一風堂でアルバイトをしたりしてました。一風堂では店長候補にまで昇りつめたりして(笑)。それである時期に街でやたら広瀬さんと偶然会う事が続き「気持ち悪いから一緒に飲みに行こう。」から始まって、自分が舞台の世界から離れていた時期も変わらず慕ってくれていた高橋卓爾を含めた3人でワークショップや試演会と言う形でArtist Company 響人の活動をスタートさせました。

実は劇団時代もそれこそ下北沢の小劇場の客席に座って、分からないながらも芝居を観ていたり、大きな書店の演劇コーナーで本を読んだり資料を探したりはしていたんですが、当初は「は?ワークショップ?何それ。」みたいな感じで本当に手探りでしたね。

今を生きる自分たちが作品を上演する意味を問う

吉原

(撮影: 演劇ガイド・上村由紀子)


――そんな活動の中で響人の活動には欠かせない演出家の小川絵梨子さんと出会っていく。

吉原
元々はある俳優さんからの紹介だったんですが、小川絵梨子さんとの出会いは衝撃的でした。当たり前のことを当たり前に提示されているのにそれが出来ない自分達の姿をきっちり認識させてくれたというか……年齢は近いんですが、絵梨ちゃんは僕の中では”師匠”の1人です。

――響人がこれまで上演してきた作品と言えば、現代アメリカの劇作家のものが多かったと思うのですが、何故今回は日本の劇作家・清水邦夫さんの戯曲に挑もうと思われたのでしょう?

吉原
実はそれも小川絵梨子がキーポイントになってくるんです。アメリカで徹底的に英語と演劇の勉強をしてきた彼女がいるからこそ響人はこれまでアメリカの現代劇に取り組めた所もあるんです。と言うのも、例えば向こうの戯曲が日本語に翻訳されたものを読むとその殆どが文学者等、学者さんの言葉を遣った訳で、今の日本でその作品を上演しようとした時になかなかリアルに言葉や情景が浮かび上がって来ない。演劇人として戯曲の翻訳が出来る演出家・小川絵梨子と今回は組まないという事であれば響人では翻訳劇は出来ない。

と云う気持ちの一方で、「何でもかんでも海外に近づけばいいってもんじゃないだろう。日本にだって素晴らしい作品は沢山あるんだ。」という思いもあり、数多くの日本の戯曲を読む中で清水邦夫さんが書いた『楽屋』『署名人』に特に強く惹かれました。

響人での上演作品を選ぶときに僕がいつも考えているのは「現代に作品をどうマッチングさせていくか。」「今を生きる自分たちがこの作品をやる意味は何か。」という事なのですが、そういう視点で見てもこの2作品は面白いと思いました。

――『楽屋』はある意味、女優という普遍的な存在を描いた戯曲だと思うのですが、『署名人』の方は時代背景に負う所も大きい作品のような気がします。

吉原
ある時、どうしてこの2本にこんなにも惹かれるんだろうと考えた時に、共通している点があるなあ、と気付いたんです。それは「生きる」という事と「前に進む」という事。確かに『署名人』の方は言葉遣いも難しいですし時代背景もやっかいですが、その難しさもひっくるめて、今この作品をやる意味があると信じています。

――『署名人』では演出だけではなく出演もなさいますよね。

吉原
そうなんです。そこが今葛藤の真っ最中でして、演出中は自分の役を代役にやって貰っているんですが、どうしても俳優として代役の動きやニュアンスが気になってしまう。演出家の目線でなくなる時があるんですね。本当にその切り替えと心の持ちようが大変でどうしようかと思いつつ、日々稽古をしています。

次のページでは『レ・ミゼラブル』オーディション&出演時の裏話を大公開!

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